知った日から世界の見えかたが変わる「地衣類(ちいるい)」の世界 「え、これ生きものなの?」

季節や場所は関係なし 子どもとの外時間が一気に楽しくなる秘密をわかりやすく解説

北林 日菜

よく木にあるアレ。「地衣類(ちいるい)」っていうんです。 クレジットのない写真すべて 撮影:北林日菜
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小5男子&小2女子を育てる、エニママのライター・北林日菜です。

意識し始めたその日から、季節や場所を問わず見つけられる「地衣類(ちいるい)」という生きものをご存じでしょうか。マイナーだけど、知ったら絶対人に言いたくなる「地衣類」の魅力をお伝えします。

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地衣類を知った日から世界の見えかたの解像度が上がる!

そんな博物館の企画展を見に行ってからというもの、我が家は「地衣類」に夢中。本記事では親子で見つける「地衣類」の楽しみかたをご紹介します。

監修者:福田孝 ミュージアムパーク茨城県自然博物館首席学芸主事(2024年3月現在)

理科の教科書に出てこないけど、どこにでもある地衣類

「地衣類」なんて理科で習った覚えがない、というママやパパも多いのではないでしょうか。それもそのはず、「地衣類」は小中学校の理科の教科書には出てこない言葉なんです。

でも実は身近な存在だそう。例えば「リトマス試験紙」はもともとは「リトマスゴケ」という地衣類の「リトマス色素」から作られていました。(現在は化学的に合成)「VC-3000のど飴」に含まれている「アイスランドモス」は、「エイランタイ(依蘭苔)」という地衣類の一種です。

知らないうちに「地衣類」を食べた経験があるかもしれませんね。

地衣類の特徴は次のとおりです。

・地衣類は菌類である(カビやキノコの仲間)
・コケ植物ではないけど、地衣類などの分類ができるより昔から「~コケ」と呼ばれているものが多い
・菌類が藻類(植物のひとつ)を住まわせている状態
・成長のスピードが遅く、年に数mmしか成長しないが、季節によらず、いつでもそこにいるのでどんな季節でも観察できる

地衣類は藻類が菌類にサンドイッチされた状態の生きもの。菌類は、藻類が光合成して得た栄養をもらい、藻類は、菌類に安全な住む場所を提供してもらいます。このようにお互いにメリットのある「共生」の関係が地衣類の特徴です。

小さな子は「探して楽しい」で十分だと思いますが、小学校中学年くらいで理解できそうであれば、生きもの同士の「win-winの関係」について話してみてもおもしろそうです。

サイエンス好きの息子は、水族館などで「あれ?」と疑問に感じることがあると「こっちの生きものにとって何かメリットがあるのかな?」と視点を変えて考えていることがよくありますよ。

子どもと地衣類を探してみよう

地衣類は季節を問わずどこにでもあります。街路樹はもちろんツツジのような植え込み、ベンチやアスファルトなど人工物の上にあることも!

それではさっそく子どもと一緒に地衣類を探しにでかけてみましょう! 夢中になりすぎて交通事故に遭わないように保護者の方は注意してくださいね。

肉眼でも見えますが、ルーペがあると10倍くらい楽しめます。さらにハマりたい人は図鑑を持っていくのもよいでしょう。ただし地衣類の同定(分類上の所属を決定すること)は、化学物質分析や顕微鏡が必要でとても難しいそう。なんとなくこれかな? くらいの気楽な気持ちでいきましょう!

・持ち運びしやすいおすすめ図鑑2冊

『街なかの地衣類ハンドブック』(大村嘉人 著/文一総合出版)

『里山の地衣類ハンドブック』(柏谷博之、大村嘉人、文光喜 著/文一総合出版)

◆アスファルトがオレンジになっていたら?

どこにでもいるオレンジの「コウロコダイダイゴケ」 。我が家での通称はダイちゃん。

都会と違ってどこへ行っても空いているし、車社会で電車慣れしていない茨城育ちの我が子たち。たまに電車に乗るときは、待ち時間が退屈だとゴネていました。

でも地衣類を知ってから、電車の待ち時間が退屈だとは言わなくなりました。(なんだか怪しい通販の宣伝文句のようですが……)

「あ! ダイちゃんだ!」と指さすその先にはオレンジ色の地衣類がたくさん。プラットホームのコンクリートにはびこるのは「コウロコダイダイゴケ」です。もし周りが白っぽいものがあれば「ツブダイダイゴケ」の可能性も。よ~く見る楽しみが増えます。

◆木に銀メダルが張り付いていたら?

ペターッと張り付いている「コフキメダルチイ」。

木に張り付く丸いもの。こんなふうにメダルみたいな形が、ペターッと張り付いていたら「コフキメダルチイ」かもしれません。

さっきの「コウロコダイダイゴケ」と違って、名前に「チイ(地衣)」がついているわけは、「コケ植物」ではなく「地衣類」であることを明確にしようという提案がなされているからとのこと。現在ももともと呼ばれていた「コフキヂナリア」という名称が併存して使用されているそう。名前だけでは地衣類かどうかわかりづらいんですね。

表面を触ってみると、名前の「コフキ」のとおり白い粉がたくさんついています。

「シロムカデゴケ」。ペターッと張り付かず、少し浮いた感じ(葉状地衣類)なのがわかりますか? (撮影:福田孝先生)

もうひとつよく似た上の写真は「シロムカデゴケ」。少し浮いていて、裏が白いのが特徴です。はっきりわからなくても、銀メダルを見つけただけで十分です。

◆ちょっぴり閲覧注意?  汚れたお茶碗みたいな……

「チャシブゴケの仲間」。この茶渋の色は、濃いものから薄いものまでさまざまな色があります。

集合体が苦手な私が、写真を撮りながらゾワゾワしてしまったこちらは「チャシブゴケの仲間」です。茶渋がついた小さなお茶碗やコップのように見えるでしょうか? 左下の指先との対比で、いかに小さいかがおわかりいただけると思います。

このコップのような形は「盃(さかずき)」と呼ばれ、この縁に胞子を作る「子器(しき)」ができます。

「ヒメジョウゴゴケ」。駐車場の石の上にありました。

こちらは「ヒメジョウゴゴケ」という地衣類。盃が大きく漏斗(じょうご)のように見えますね。

子どもの目線は低いので、地面にある地衣類の発見も早いんです。親子で地衣類見つけ競争をして大人が負けることもしばしば……。

◆木に「く」とか「へ」とかのお手紙が書いてあったら?

「モジゴケの仲間」。左下の水色は軍手の指先。繊維との対比で、文字の小ささがおわかりいただけると思います。

木をよ~く見ていると、黒いもよもよが見えることがあります。木肌の模様かなと見逃していたこれは「モジゴケの仲間」です。「へ」「く」「し」「つ」……。視力検査でよく見る文字たちで書かれたお手紙。

細い字や太い字、黒い字や白い字など種類が豊富なので、いろいろなモジゴケちゃんたちを探してみてくださいね。

◆かわいい地衣類もいる

ひらひらレースみたいな「ナミガタウメノキゴケ」。

まるでレースのついたドレスみたいな「ナミガタウメノキゴケ」は、娘曰く「お姫様のドレスみたい」。公園をひとまわりすれば必ず見つけられるであろう地衣類のひとつです。

モジゴケ、ウメノキゴケは『動く図鑑MOVE 植物』にも掲載されています。

赤い帽子の小人みたいな「コアカミゴケ」。高さは1~3cmくらい、小さな世界です。

「モンローリップ」とも呼ばれる赤い子器が印象的な「コアカミゴケ」は、赤い帽子をかぶった小人みたい! こちらは以前、茅葺き屋根の上で見たことがあるのですが遠くて写真が撮れず……。こちらは茨城県霞ケ浦環境科学センターの地衣類観察のイベントで貸していただいた標本の写真を撮ったものです。

娘が大好きな絵本『もりのこびとたち』の世界観と重ねて、親子でしばしおしゃべりが続きました。ミニチュアが好きな子、空想が好きな子は、地衣類観察を楽しむのに向いているかもしれません。

『もりのこびとたち』(エルサ・ベスコフ さく・え、おおつかゆうぞう やく/福音館書店)

たぶん「マツゲゴケの仲間」。つけまつげにして遊べるかな?

かわいいかどうか……は人によるかもしれませんが、つけまつげのような「マツゲゴケ」。これは川沿いのツツジについていました。

雨の日の景色が違って見えるワケ?

「コカゲチイ」。左側の赤丸内は濡らしていない部分。右側の赤丸内、緑色になっている部分は、霧吹きで濡らして緑色になったところ。

雨の日って、なんだか町の景色のなかの緑色がぐっと濃く見える気がしませんか?

冒頭でも書いたとおり、地衣類は緑色の「藻類」が、半透明の「菌類」にサンドイッチされた状態。

雨に濡れると菌類が透けて、中の藻類がハッキリと見えるようになります。普段無意識に見過ごしていた地衣類が、雨に濡れて緑色になり、景色全体を緑色に見せているのかもしれないということでした。

実際に木の肌全体を覆うグレーの「コカゲチイ」に水を吹きかけてみると……濃い緑色になりました!

このお話をしてくださったのは、ミュージアムパーク茨城県自然博物館の福田孝先生。こちらでは2023年10月から2024年1月にかけて「地衣類」の企画展が開催され、この企画展が私たちが地衣類を知るきっかけとなりました。

次に雨が降ったら、お子さんに景色が緑が濃く見えるかどうか聞いてみても面白いかもしれません。

スマホを捨てよ、地衣類を探しに町へ出よう

都会のビル街や花の咲いていない季節など、今まで殺風景だと感じていた世界も、地衣類の存在を知ることで、実はそこかしこに地衣類がいることがわかるようになります。スマホからちょっと目を離して、小さなところに一緒に目を向けることで親子の会話もはずみます。

また地衣類は、大気汚染の移り変わりを反映する「指標種」として利用されているとのこと。息子は「大気汚染によって地衣類の種類が減っていくのは悲しい」と話していました。

※「指標種」とは、特定の環境条件を成育に必要とする生物の種類。環境条件や環境汚染の程度を知るめやすになる。環境指標種。指標生物。(『デジタル大辞泉』より)

本記事を読んで「地衣類」の魅力を知ったみなさん、ぜひ身近な地衣類を見つけにいってみてください。

★監修にご協力いただいた機関★

ミュージアムパーク茨城県自然博物館
【住所】〒306-0622 茨城県坂東市大崎700
【電話】0297-38-2000
【HP】https://www.nat.museum.ibk.ed.jp/

茨城県霞ケ浦環境科学センター
【住所】〒300-0023茨城県土浦市沖宿町1853
【電話】029-828-0960
【HP】https://www.pref.ibaraki.jp/soshiki/seikatsukankyo/kasumigauraesc/

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きたばやし ひな

北林 日菜

Hina Kitabayashi
AnyMaMa(エニママ)ライター

AnyMaMa(エニママ)ライター兼コクリコ・サポート・エディター 2012年生まれのサイエンス好き男子、2015年生まれアート好き女子の母。都内で広告営業や出版業を経て、結婚を機に茨城県に移住。以後リモートワークを中心に、エニママや県内のご縁ある企業でフリーランスライターとして活動中。 AnyMaMa:https://anymama.jp/  Twitter:https://twitter.com/AnyMaMaJP

AnyMaMa(エニママ)ライター兼コクリコ・サポート・エディター 2012年生まれのサイエンス好き男子、2015年生まれアート好き女子の母。都内で広告営業や出版業を経て、結婚を機に茨城県に移住。以後リモートワークを中心に、エニママや県内のご縁ある企業でフリーランスライターとして活動中。 AnyMaMa:https://anymama.jp/  Twitter:https://twitter.com/AnyMaMaJP

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