子どもに髪の毛を寄付する「ヘアドネーション」約1000個達成! 医療用ウィッグを届けた先の「想定外の課題」とは?

寄付された髪からウィッグを作る「ヘアドネーション」 ~後編~

「ウィッグをかぶればママが泣かないから」

──ウィッグを届ける活動を続ける中で、課題はありますか?

渡辺さん:私たちは「ウィッグを届ければ、それで問題が解決するわけではない」と考えています。届けることで一見、お渡しした本人やご家庭の問題が解決したように見えるかもしれませんが、実際には問題が「先送り」になってしまっているだけなのです。

──どういうことでしょうか?

渡辺さん:子ども自身が「ウィッグをつけたい」と思っているなら、それはいいんです。でも、多くのご家庭を観てきましたが、必ずしもそうではないケースも多い。

実際には、子どもはそれほどウィッグを必要としていないのに、親の側が「髪の毛がないのはかわいそう」と思い込んでしまい、かえって子どもを苦しめていることがあるのです。

イラスト/古屋あきさ
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渡辺さん:例えば、ある高校生の女の子が、ウィッグのサイズを測りに来たときのことです。彼女の頭の形がとてもきれいで、見た目も本当にかっこよかったので、思わず「ウィッグしないほうがすごく似合っているよ」と声をかけました。すると彼女は、「やっぱりそう思う?」と、嬉しそうに返してくれたのです。

ところがその直後、お母さんが「毛があるあなたには子どもの気持ちはわからない。無責任なことを言わないでください!」と、怒りだしてしまいました。

彼女自身は、自分の頭の形を気に入っていたのですが、お母さんは「女の子に髪の毛がないなんてかわいそう」と思い、もしかしたら本人の気持ちが尊重されなかったのかも知れません。

また、別の男の子ですが、「どうしてウィッグをかぶっているの?」と尋ねたら、「僕は別にいらないんだけど、ウィッグをかぶると、ママが泣かないから……」と答えてくれたこともありました。

本人は必要としていない。でも、親を安心させるために子どもはかぶっている……。そんなケースもあるのです。

目指すのは「必ずしもウィッグ」を必要としない社会

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