なぜ小学校低学年でもできた? 名古屋発「自由進度学習」の具体的実践法とは

【小学校教育2.0】名古屋市立矢田小学校の挑戦#3「低学年の自由進度学習」

子どもたちの姿に先生も保護者も納得

低学年から子どもたちの自主性と学ぶ意欲を育む矢田小学校ですが、自由進度学習が1~2年生で取り組まれるようになったのは、昨年度(2021年度)からでした。

それまでは、「低学年は一斉授業が向いているという考えが主流だった」と中川先生は話します。

「教員のなかにも、低学年のうちは一斉授業で基礎を定着させる、その後、徐々に自由進度学習などを導入していったほうがいい、といった認識があったと思います。

でも、高学年での実践で子どもたちの学習姿勢が前向きに変わっていく様子を見て、『自由進度学習の意義』を多くの教員が実感したんだと思います。

そこから徐々に低学年でもチャレンジする教員が出てきて、今年はどのクラスも何らかの教科で取り入れるようになっています」(中川先生)

さらに、教務主任の山内彰一先生は、こう指摘します。

「もしかしたら、教員の頭のなかには、『低学年の子ども=しっかり指導しないと学習できない』という固定概念が、知らず知らずのうちにあったのかもしれませんね。

実際に自由進度学習やプロジェクト型学習に取り組み、1~2年生がわくわく、いきいきと学習する姿を見せてくれたことが、大きな説得力になり、その後の広がりの原動力にもなりました。

自由進度学習を行う1年生。  写真提供 矢田小学校
プロジェクト型学習に取り組む2年生。  写真提供 矢田小学校

低学年でも自分で考え自律的に学習することはできます。今後もこうした力を伸ばしていく授業を展開していきたいと考えています」(山内先生)

自由進度学習開始から3年目、プロジェクト型学習を取り入れてからは4年目となる矢田小学校。保護者の反応はどうなのでしょうか?

「昨年度、公開授業のあとに保護者を交えてディスカッションする機会がありました。クラス全体ではなく小さなグループを作って学び合っている様子、しっかりと子どもたち同士でアウトプットしている様子に驚いた、という声が挙がりました。

公開授業の様子。  写真提供 矢田小学校
保護者も子どもたちの学習の様子に興味津々です。  写真提供 矢田小学校

ただ、取り組みが4年目ということもあり、『子どもたちの自主性を生かした授業が本来の形なんだ』という認識が、保護者の間でも広がっていると感じますね。

一方的に教師が話す授業ばかりしていたら、『先生、うちの子授業がつまらないと言ってます』と批判されてしまいそうです(笑)

それだけ、保護者も、そして私たち教員も、学習は楽しいほうが意欲的になれるし、それが学力にもつながるという事実を、実感として理解できるようになったのだと思います」(山内先生)

矢田小学校が、低学年から積極的に「子どもの自主性・主体性を重視した学習」を進めている背景には、2019年からの着実な実践と成果がありました。

子どもたちの変化に先生や保護者が驚き、納得し、今では確信をもって取り組むまでに至っています。

子どもたちが自分の「やりたい」「面白そう」を出発点に、友だちと関わりながら学ぶことが当たり前になる。そんな「新しい学校像」を、矢田小学校の取り組みに見ることができました。

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名古屋市立矢田小学校
名古屋市東区に位置する公立小学校。児童数は451名、18クラス(2022年5月1日現在)。名古屋市の2つの事業、ナゴヤ・スクール・イノベーション事業(2019年度〜)、子どもライフキャリアサポートモデル事業(2018〜2021年度)のモデル校として活動。
ナゴヤ・スクール・イノベーション事業では、子どもが自ら問いを立て、見通しをもって課題に立ち向かっていく力の育成を目指し、「プロジェクト型学習(PBL)」及び「プロジェクト型の要素を取り入れた教科学習」を実践している。

取材・文 川崎ちづる

『【小学校教育2.0】名古屋市立矢田小学校の挑戦』の連載は、全3回。
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かわさき ちづる

川崎 ちづる

Chizuru Kawasaki
ライター

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。