発達心理学者がすすめる! 小学校入学前にするべき幼児期の「語りかけ」
【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か#4「日常生活で育む生きた言葉の力」
2023.07.06
幼児期に育んだ「言葉の力」が小学校の学習につながる
こうして幼児期に育んだ「言葉の力」が、小学校以降の学習において、重要な役割を果たすといいます。
「小学校3年生以上の学習では、国語に限らず算数や理科、社会などの教科でも、『言葉の力』が必要になります。どの教科でも抽象度の高い内容が多くなり、教科書に出てくる言葉がとても難しくなるからです。抽象的な概念を理解するには、日常生活で使ってきた言葉だけでは追いつきません。
そうしたときに、『言葉の力』がしっかり身についていると、自分の知っている言葉の知識を使って、知らない言葉の意味を推論することができます。つまり、抽象的な概念に対して、具体的な例を自分で思いつくことができるのです。こうなれば、内容が難しくなっても、子どもは自立的に学習していくことができます。
これまでも繰り返し述べてきましたが、ここでも、『だったら授業についていけるように、小学校入学前に抽象的な言葉の意味を教えておこう』というのは逆効果です。抽象的な言葉を知っていても、それが『死んだ知識』だったら使うことができません。
幼児期はあくまで、子どもが具体的にイメージでき、自分の知識と結びつけることができる言葉を、生活の中で育むことが大切です。これが、小学校での学びの基礎になるのです」(今井先生)
大切なのは「足場かけ」
子どもの「言葉の力」と「思考力」を育むために、日常生活の中でできることをたくさん教えていただきました。
これらに共通しているのが、「教えるのではなく『足場かけ』」という考え方だと今井先生は語ります。
「『足場かけ』とは、子どもが自分で発見できるように手助けすることです。
『生きた知識』にするためには、自分で発見することが重要でした(#1を読む)。子どもに直接教えるのではなく、子どもが興味を持って、自分で考えられるような機会や環境を用意すること、それが『足場かけ』です。
自分だけでは気がつかないことも、大人のちょっとした工夫、声がけなどの支援があれば、子どもは自ら気づいてどんどん新しいことを吸収していきます。
大人の役割は、教えることではなく『足場かけ』だということを肝に銘じ、子どもが自ら言葉の力や思考力を育てていけるよう、サポートすることが大切です」(今井先生)
第5回は、小学校入学後の学習で、子どもがつまずいてしまう原因や、親が子どもの学習と向き合うときに必要な心構えなどについてうかがいます。
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今井むつみ
慶應義塾大学環境情報学部教授。専門は認知・言語発達心理学、言語心理学。平塚江南高校、慶應義塾大学文学部西洋史卒業後、教育心理学に興味を持ち社会学研究科に進学。在学中の1987年より渡米。1993年ノースウエスタン大学心理学部博士課程を修了し、1994年博士号(Ph.D)を取得。1993年より慶應義塾大学環境情報学部助手。専任講師、助教授を経て2007年より現職。近年は一般読者向け書籍の執筆、講演活動にも力を入れる。また、国境を越えて学びを考えるコミュニティABLE(Agents for Bridging Learning and Education)をつくり、国内外から著名な認知科学研究者を招聘し、ワークショップなどを開催している。
【主な著書】
「ことばと思考」「学びとは何か──〈探究人〉になるために」「英語独習法」(すべて岩波新書)、「ことばの発達の謎を解く」(ちくまプリマー新書)、「言葉を覚えるしくみ─母語から外国語まで」(針生悦子氏との共著/ちくま学芸文庫)、「親子で育てることば力と思考力」(筑摩書房)、「算数文章題が解けない子どもたち─ことば・思考の力と学力不振」(他6名との共著/岩波書店)など多数。2023年5月には新刊「言語の本質─ことばはどう生まれ、進化したか」(秋田喜美氏との共著/中公新書)を出版。
取材・文 川崎ちづる
『【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か』の連載は全6回。
#1「生きた知識を習得する学び」を読む。
#2「思考力を育む言葉の力」を読む。
#3「思考力を育てる遊び」を読む。
#5「子どもの間違いが語ること」を読む。
#6「小学生が学ぶ楽しさを取り戻すには?」を読む。
※公開日まではリンク無効
【関連書籍紹介】
『親子で育てることば力と思考力』(筑摩書房)
たくさん単語を暗記してもことば力は育たない。ことばの意味を自分で考えて覚えれば、ことば力、思考力、学力もアップ。その仕組みと方法をわかりやすく解説。今日からでもすぐに取り入れられる、具体的な「ことば力」と「思考力」を育てる方法が満載。
【新刊紹介】
『言語の本質─ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田喜美氏との共著/中公新書)
日常生活の必需品であり、知性や芸術の源である言語。なぜヒトはことばを持つのか? 子どもはいかにしてことばを覚えるのか? 巨大システムの言語の起源とは? ヒトとAIや動物の違いは? 言語の本質を問うことは、人間とは何かを考えることである。鍵は、オノマトペと、アブダクション(仮説形成)推論という人間特有の学ぶ力だ。認知科学者と言語学者が力を合わせ、言語の誕生と進化の謎を紐解き、ヒトの根源に迫る。ChatGPTなどの対話型AIに仕事を奪われない創造的な人間に子どもを育てるためにおすすめの一書。
川崎 ちづる
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。