【学びの多様化学校】「対話」を軸に自己肯定感を育む。大分「くす若草小中学校」の“指導”しない教育

不登校の子の新たな学びの選択肢「学びの多様化学校」 #3

「ルールがあるから守る」のではなく「必要だから作る」

──「ルールがあるから守る」のではなく、「必要だから作る」のですね。学校のルールは、ただ大人が守らせていることが多いですよね。

小原先生:そうなんです。効率的にやろうと思ったら、何でも大人が決めて守らせたほうが早いから。でも、この学校ではそうじゃない。どんなことでも、どんなときでも、子どもたちの「思い」が先にある。

例えば先日、学校のお祭りの日の当日、屋台チームの子が体調不良などで何人も欠席してしまったんです。先生たちも「どうしようか」と悩み、朝対話のときに子どもたちの意見を聞いたんです。

そこで、翌日の日課と入れ替えることが決まりました。翌日に延期したので、休んでいた子たちもみんな来られて、本当に楽しそうでした。

子どもたちとの対話から1日遅れで開催されたお祭り。当日は地域の人も巻き込み大いに盛り上がった。  写真提供:くす若草小中学校
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「学校に泊まりたい」という子どもの声に応える

──対話というのは、やはり少人数だからこそできることなのでしょうか?

小原先生:人数の問題もあるかもしれませんが、肝心なのは、一人ひとりの子どもに向き合おうとする姿勢だと思います。

対話の時間だけでなく、ちょっとした雑談の中でも「そんなふうに考えているんだね」と考え方や価値観を認めていく。するとみんな過ごしやすくなります。ありのままでいいという感覚に向かっていく。

ここに通っている子どもたちは、転校という手続きを踏んで来ていますから、「学校に行きたい」「学びたい」「友だちと遊びたい」という明確な意思表示をしているわけです。その気持ちに、心からの安心安全を提供することでこちらも応えたい。

そのためには、「できない理由を考えるのではなく、できるための方法を考える集団になろう」と繰り返し先生方に伝えてきました。

例えば、去年実現した、学校にお泊まりするプロジェクトはまさにその象徴でした。

ここに来るまでほとんど学校に行けなかった女の子が、ある日「学校にお泊まりしたい」とつぶやいたんです。それに対して先生たちは、「何とかしてできる方法を考えよう」と動いてくれました。

「学校に泊まりたい」という一人の女子児童の呟きから実現したお泊まり会。  写真提供:くす若草小中学校

小原先生:正直、宿泊施設に泊まりにいくという選択肢もありますし、そのほうが効率的です。

でも出発点は、学校に嫌なイメージを持っていたかもしれない子どもの「学校に泊まりたい」という声だった。それを実現するのが私たちの役割だと先生たちは思ったんです。

布団を運ぶのが大変なため、お泊まり会で使う布団は災害用に準備されている簡易ベッドを役場からレンタルした。  写真提供:くす若草小中学校

小原先生:先日、子どもたちから「今年もやりたい」という声があり、今度は自分たちで役場に電話して、ベッドのレンタルをしていました。

そういう姿を見たときに、大人はよく「子どもが変わった」と言ったりしますよね。でもそれは、「変わった」のではなく、「成長」なんです。「前はダメだったけど、今は良くなった」のではなく、子どもは常に成長している。

ですから私たちも、子どもを変えようとするのではなく、本来持っている成長しようとするエネルギーを、ちゃんと発揮できる環境を整えることを心掛けています。指導ではなく、伴走支援ですね。

それでもやはり登校できない子はいます。でも、それを自己責任にはしません。来られないなら、私たちの関わり方や取り組みが、その子にとっての安心安全に値していないと考える。

「こういう学校だから頑張ってきてください」ではなく、一人ひとりに向き合いながら取り組みを作っていくのです。

変わるべきは子どもではなく、大人であり、学校であり、社会なのかもしれません。私たちもまだまだ未成熟なところがいっぱいありますが、伴走支援という立ち位置を追求していけば、できることがもっともっとあるんじゃないかと思っています。

───◆─────◆───

自己選択・自己決定や対話など、学びの多様化学校で行われている実践は、不登校の子どもたちだけでなく、すべての子どもが必要としていることではないでしょうか。

不登校ではないけれど、毎日辛い思いを抱えながら学校で過ごしている、ギリギリのところで踏ん張っている子どももたくさんいます。

すべての子どもが無理せず通える学校の在り方や、親の関わり方のヒントが、学びの多様化学校にあるのかもしれません。

取材・文/北京子


【学びの多様化学校の連載】
1回目を読む(神戸女子大学教授・伊藤美奈子先生インタビュー)
2回目を読む(学びの多様化学校「岐阜市立草潤中学校」)

玖珠町立くす若草小中学校
住所:大分県玖珠郡玖珠町森3889
電話:0973‐72‐4141

https://tyu.oita-ed.jp/kusu/tayouka/

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きた きょうこ

北 京子

Kyouko Kita
フリーライター

フリーライター。 藤沢市在住。食の月刊誌の編集者を経て独立。食を中心に、SDGs、防災、農業などに関する取材・執筆を行う。 3児の母。自然の中で遊ぶこと、体を動かすこと、愛犬とたわむれることが好き。

フリーライター。 藤沢市在住。食の月刊誌の編集者を経て独立。食を中心に、SDGs、防災、農業などに関する取材・執筆を行う。 3児の母。自然の中で遊ぶこと、体を動かすこと、愛犬とたわむれることが好き。