鎌倉市立由比ガ浜中学校【学びの多様化学校】「不登校」だった生徒の8割が毎日登校する驚きの理由「学校は来るだけで100点!」

不登校の子の新たな学びの選択肢「学びの多様化学校」#5 (3/3) 1ページ目に戻る

不登校生徒に不足しがちな「体験」を埋める人とのつながり

──地域とのつながりも大切にされているということでしょうか。

岩田先生:不登校を経験した子はどうしても「体験」が不足しがちです。できるだけ社会やいろいろな人とつながる機会を設けたいと考えています。

──アセスメントの結果はどのように生かされているのでしょうか?

岩田先生:実は本校では、「ULTLA」以外にも、生徒自身が選択する機会を多く設けています。例えば、音楽、美術、技術・家庭を融合した「CTime」という独自教科があります。Create(創造する)、Collaborate(協働する)、Choose(選択する)の頭文字をとったもので、基礎を学んだら、それ以降は毎回、自分が学びたいテーマ(教科)を選択できるようにしています。

「CTime」の時間に3Dプリンターを使って校舎の模型を作製。設計図からの図面起こし、プログラミングも生徒が行った。
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岩田先生:各教科の学習時間も何年生のどの単元をどういうツールを使って学習するかは生徒自身が決められるようにしています。

アセスメントを通じて自分自身を客観的に理解しているので、そういった選択や判断がしやすくなっているのではないでしょうか。私たち教員も、活動内容を考えたりひとり一人に合わせたきめ細かい対応をするうえでアセスメントが手がかりになっています。

学校に来られたら100点 授業に出られたらそれにプラス

岩田先生:以前、生徒の1人が新聞の取材に対して「私に行ける教室があることがすごく嬉しい」と話してくれました。朝9時半登校なのに8時台に笑顔で登校してくる子もいますし、全体を見ても約8割の子が毎日登校できています。

それまで全く通えなかった子に、通う場所があることの尊さを日々感じています。

家に帰って家族に話すことがある。次の日の楽しみがある。それは自分が生きていることを実感できる場所があるということです。

学校ですから、もちろん勉強は大切です。しかし受験のための勉強をずっと続けて、大人になっても結局自分がやりたいことがわからないというのでは意味がありません。「自分を知ること」。それが大切だと考えています。

教科「ULTLA」の「MY探究」の時間に水墨画で竜を描く生徒。「MY探究」の報告会「マイフェス」では、訪れた保護者らの前で描く即興パフォーマンスを見せていた。  写真提供:由比ガ浜中学校

岩田先生:もちろん自分のことだけ見ていても、すべては理解できません。周りの人や社会との関わりを通して自分らしさを発見していきます。

価値観や息遣いやリズムの違う子たちが対面で集い、コミュニケーションをとる中で影響し合い、お互いを投影し合う。そうやって自分のことがわかってくると、自ずと学びたいことも見つかっていきます。

私たちがよく言うのは、「学校に来られたら100点。授業に出られたらそれにプラス!」。

学校は、来ているだけで十分に学びがある場所なのです。だからこそ、子どもたちが「明日も行きたい」と思える環境を用意していくことが私たちの使命だと思っています。

朝や帰りにホームグループ(学級に相当する異学年集団)で話をしたり、さまざまな場面で自由に利用できる「つどいスペース」。本や机、いす、おもちゃなど備品の多くが企業や個人から寄付されたもの。

「やる」だけでなく「やらない」選択も尊重する

──そのために大切にしていることはありますか?

岩田先生:一つには、子どもたちの“学びの文脈”を尊重するということです。

例えば、数学の時間なのに違うことをしている子がいるとします。「今は数学の時間だから、数学をやらないとダメだよ」と強引にやらせることはできますが、そうではなく、私たちは「やらない理由」に目を向けるようにしています。

午後の探究活動のためにエネルギーを温存しているのかもしれませんし、何ヵ月も友だちと打ち解けずにきた子にとっては、数学より友だちと過ごすことのほうが今は大切なのかもしれません。

「やる」だけでなく、「やらない」ということもその子の選択であり、判断なのです。それを肯定的に受け止めるようにしています。

学ぶって本来、決められた時間内にやるものではないんですよね。学びたいと思ったときにいつでも学べばいいものなんです。

目に見える成長や変化ばかりを求めない

──子どもの意思を尊重することが、「わがままになる」「甘やかしている」と言われることもありますよね。

岩田先生:「甘えている」「甘やかしている」という言葉はネガティブな使われ方をしますが、「甘えられる」のは、そこに信頼関係がある証拠。だから決して悪いことではないんです。

それに、学校は我慢をする場所でも、我慢を覚える場所でもありません。周囲のことを少しでも意識できていれば、それはわがままではないと私たちは考えています。

また、「こういう子に育ってほしい」という目標にもこだわりすぎないようにしています。中学校生活での3年間、何も変わらなくてもいいとさえ思っています。

由比ガ浜の海も、同じように見えて毎日少しずつ違います。成長や変化は目に見えるものだけとは限らないし、まして自分ではなかなか気づけません。焦らなくていい。学校に来ている。まずはそれだけで十分なんですよ。

───◆───◆───

岩田先生のお話を伺い、学校は子どもが自ら「育つ場」なのだと感じました。子どもにどんなことを教え、何を学ばせるかに意識が向きがちですが、他者と共にいるだけで、子どもはちゃんと自分らしさを発見して、学び、育っていくのですね。

「学校は来るだけで多くの学びがある場所だ」。

岩田先生の言葉には、由比ガ浜中学校だけでなく、すべての学校がそうであってほしいという願いも込められているように思いました。

取材・文/北京子

学びの多様化学校連載はこちら↓

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Kyouko Kita
フリーライター

フリーライター。 藤沢市在住。食の月刊誌の編集者を経て独立。食を中心に、SDGs、防災、農業などに関する取材・執筆を行う。 3児の母。自然の中で遊ぶこと、体を動かすこと、愛犬とたわむれることが好き。

フリーライター。 藤沢市在住。食の月刊誌の編集者を経て独立。食を中心に、SDGs、防災、農業などに関する取材・執筆を行う。 3児の母。自然の中で遊ぶこと、体を動かすこと、愛犬とたわむれることが好き。