不登校の子どもたち 1980年代から2000人に寄り添った専門家が説く「根本原因」と将来の姿
シリーズ「不登校のキミとその親へ」#7‐4 認定NPO法人「フリースペースたまりば」理事長・西野博之さん~不登校を巡る変化~
2024.10.17
認定NPO法人「フリースペースたまりば」理事長:西野 博之
学校に行かない子どもたちの疑問にヒントが
変化の要因には、僕らのような大人たちや不登校の子を持つ親が声をあげ続けたことと、「声を聞く社会」になりつつあることがあると思います。
ですがもっと大きな要因は、この不登校という現象は、学校と教育委員会だけで『解決』できるものではなく、もっと大きな社会問題なのだということを、国が認識し始めたことにあると思います。
先生たちは頑張っているのに不登校は減らない。ではなぜかといえば、学校そのものが安心して通える楽しくて安全な場所ではなくなっているからです。
事実、不登校の子どもたちの間では、「学校が嫌いなわけじゃない。学校が安全で安心して楽しく学べる場所なら行きたいよ」という声が圧倒的に多かった。
学校が安全ではなくなっている証のひとつに、いじめに関するデータがあります。
文部科学省の調査では、学校で年間約68万件のいじめが起き、このうち55万件は小学校で起きているそうです。そしてもっともいじめの件数が多いのが小学校2年生、次が小学校3年生、3番目が小学校1年生です。
小学校の低学年の段階でストレスをためこみ、いじめが頻発する。それが日本の現状です。
学校に行った途端に、「いじめ」という恐怖が待ち受けている。友達がいじめられているのを見て「学校は怖いところだ」と不安に思うところから学校生活が始まる。この状況に、子どもが悪い、親が悪いなどの「犯人捜し」は的外れだったと、国も認識し始めたのではないでしょうか。
そして学校から離れ始めた子どもたちの疑問には、日本の教育システムが変わるために有用なたくさんのヒントが含まれています。
「なぜ同じ年になったら一斉に学校に入らなければいけないの?」
「どうして同じ教科書で同じ内容を学ばなきゃいけないの?」
「なぜ全国一斉テストで比べる必要があるの?」
核心をついていると思いませんか?
私はもっと生き物の世界を探究したい。僕は歴史について掘り下げたい。作曲に挑戦してみたい。そんな一人一人の「好き」が生かされないのが、学校で続く今の学びの形です。音楽や体育や図工などは二の次で、まずは主要5教科というやつをまんべんなく学ばなくてはならない。
人が豊かに生活するには、アートや音楽を楽しめる感性や自分で物を作り出せる創造性、体を動かして「楽しい!」と感じる力も重要です。人は何のために学ぶのかといえば、幸せになるために学ぶのですから。
だから子どもの「命」を社会の真ん中に置いて、教育システムを考え直す必要がある。子ども自身が学びたいことを学びたいときに、学びたいように学べる社会に、変わる必要がある。
人工知能が人間の能力を超えていく大変革期にあって、次世代には「統一テスト」で測れる力(認知能力)とは違う力を、はぐくむことが求められています。
多様な仲間を受容できるコミュニケーション能力や、困難の中から自分の力で立ち上がれる力や、粘り強く対話して平和な世界を作る力。そんな数値化できない「非認知能力」をはぐくむ学びの形を社会全体で支えていくことが、時代の要請だと思います。
不登校の子どもたちが成長して大人になったことで、新たな価値観も生まれつつあります。
「キミは学校に行ったんだね。僕は行ってなかったんだ」とか、「私も2年間ぐらい学校に行かなかった時期があった」とか、学校に行かなかった体験が、特別ではないこととして語られ始めている。
学校に行かなくても、家庭やが学校外の居場所で学び育ったことが、共通の認識として、社会にひろがり始めているのではないでしょうか。そう遠くない将来、「これも普通だよね」と語られる日も、やってくるかもしれませんね。
まだまだ課題はたくさんありますが、僕はこれからも「大丈夫のタネ」を、社会にまき続けていきたいと思います。
だからもう一度、学校に行けずに苦しんでいるあなたに、「なんとかなる。“だいじょうぶ”だよ」と伝えたい。
そして我が子が学校に行かないことで不安に思う親御さんたちは、僕がまき続ける「大丈夫のタネ」をしっかり受け取り、大事に育ててくださいね。我が子が学校に行かないことを不安に思い悲しむはもうやめにしましょう。
これまでの常識や固定観念にとらわれず、親自身も楽しみを見つけ、生き生きとすごしてください。そうしているうちに、「あの時期は意味ある経験だった」と親子で心から笑いあえる日が必ず訪れるでしょう。
取材・文/浜田奈美
※西野博之さんインタビューは全4回(公開までリンク無効)
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浜田 奈美
1969年、さいたま市出身。埼玉県立浦和第一女子高校を経て早稲田大学教育学部卒業ののち、1993年2月に朝日新聞に入社。 大阪運動部(現スポーツ部)を振り出しに、高知支局や大阪社会部、アエラ編集部、東京本社文化部などで記者として勤務。勤続30年を迎えた2023年3月に退社後、フリーライターとして活動。 2024年5月、国内では2例目となる“コミュニティー型”のこどもホスピス「うみとそらのおうち」(横浜市金沢区)に密着取材したノンフィクション『最後の花火』(朝日新聞出版)を刊行した。
1969年、さいたま市出身。埼玉県立浦和第一女子高校を経て早稲田大学教育学部卒業ののち、1993年2月に朝日新聞に入社。 大阪運動部(現スポーツ部)を振り出しに、高知支局や大阪社会部、アエラ編集部、東京本社文化部などで記者として勤務。勤続30年を迎えた2023年3月に退社後、フリーライターとして活動。 2024年5月、国内では2例目となる“コミュニティー型”のこどもホスピス「うみとそらのおうち」(横浜市金沢区)に密着取材したノンフィクション『最後の花火』(朝日新聞出版)を刊行した。
西野 博之
東京都生まれ。川崎市子ども夢パーク、フリースペースえんなど、各事業の総合アドバイザー。精神保健福祉士、神奈川大学非常勤講師。 1986年より学校に行かない子どもや若者の居場所づくりを行う。文部科学省「フリースクール等に関する検討会議」委員など数々の公職も歴任。NHKをはじめとするメディアにも多数登場。 2021年まで15年間、「川崎市子ども夢パーク」の所長を務め、2022年にはそこで過ごす子どもたちの日常を描いたドキュメンタリー映画「ゆめパのじかん」が公開された。 『学校に行かない子どもが見ている世界』(KADOKAWA)など著書多数。 ●NPO法人フリースペースたまりば
東京都生まれ。川崎市子ども夢パーク、フリースペースえんなど、各事業の総合アドバイザー。精神保健福祉士、神奈川大学非常勤講師。 1986年より学校に行かない子どもや若者の居場所づくりを行う。文部科学省「フリースクール等に関する検討会議」委員など数々の公職も歴任。NHKをはじめとするメディアにも多数登場。 2021年まで15年間、「川崎市子ども夢パーク」の所長を務め、2022年にはそこで過ごす子どもたちの日常を描いたドキュメンタリー映画「ゆめパのじかん」が公開された。 『学校に行かない子どもが見ている世界』(KADOKAWA)など著書多数。 ●NPO法人フリースペースたまりば