
【絵本コーディネーター・東條知美さん】『100万回生きたねこ』は人生を映す絵本
刊行50周年記念インタビュー第1回
2026.07.01
写真提供:東條知美さん 取材のために撮影。©JIROCHO, Inc. / KODANSHA
『100万回生きたねこ』は、2027年に刊行50周年をむかえます。それを記念して、絵本と関わりの深い方々に『100万回生きたねこ』にまつわる想いや思い出を取材する連載第1回。今回は、絵本コーディネーターの東條知美さんにインタビューします。

『100万回生きたねこ』50周年のロゴマークができました!
『100万回生きたねこ』との出会い
───まずは東條さんのお仕事から教えてください。「絵本コーディネーター」というのは、どんなお仕事なのですか?
東條知美さん(以下東條さん):いまは3つの柱で活動しています。1つは、自治体の講演活動や、市民教育の一環として、絵本を真ん中に社会課題を考える活動です。保育士さんや幼稚園の先生、図書館司書や子育て支援に関わる方々への研修で絵本を使うこともあります。
2つ目は、絵本の創作を志す方への指導です。絵本とはどういうものなのか? 絵本の歴史的変遷、機能、子どもの発達や親子関係、大人にとっての意味をお話ししたり、創作の過程に伴走し、講評やアドバイスを行ったりしています。
3つ目は、さまざまな媒体に向けてテーマで選書し、作品の解説を行うお仕事です。
絵本の魅力と可能性を多くの方にお伝えしたいという思いで活動をしています。
東條知美さん(以下東條さん):いまは3つの柱で活動しています。1つは、自治体の講演活動や、市民教育の一環として、絵本を真ん中に社会課題を考える活動です。保育士さんや幼稚園の先生、図書館司書や子育て支援に関わる方々への研修で絵本を使うこともあります。
2つ目は、絵本の創作を志す方への指導です。絵本とはどういうものなのか? 絵本の歴史的変遷、機能、子どもの発達や親子関係、大人にとっての意味をお話ししたり、創作の過程に伴走し、講評やアドバイスを行ったりしています。
3つ目は、さまざまな媒体に向けてテーマで選書し、作品の解説を行うお仕事です。
絵本の魅力と可能性を多くの方にお伝えしたいという思いで活動をしています。
───そんな東條さんが『100万回生きたねこ』と出会ったのは、いつごろでしょう?
東條さん:『100万回生きたねこ』と初めて出会ったのは、18歳、大学生のころでした。冒頭から死のシーンが続くのには驚きましたが、これが愛の絵本だと気づいてすごく感動しました。
衝撃を受けて、どうしても手元に置きたいと思いました。地方から出てきてお金があまりない時代でしたが、バイト代でこの絵本を買いました。
バイト先にも持っていって、休憩室でバイト仲間に読んであげたりもしました。この絵本に心を動かされた人は、最初に「深~い」って言うんです。そこからさらに興味を持った人は佐野さんの別の絵本も探すようになる……。そんなシーンを見てきました。
個人的な話になりますが、『100万回生きたねこ』や『おじいちゃん』(ジョン・バーニンガム作/ほるぷ出版)が、祖母との別れやその喪失感を癒やすきっかけとなりました。哲学的なテーマや、人生そのものを描く絵本、読み手に想像の余白をのこすような絵本に惹かれるきっかけにもなりました。
東條さん:『100万回生きたねこ』と初めて出会ったのは、18歳、大学生のころでした。冒頭から死のシーンが続くのには驚きましたが、これが愛の絵本だと気づいてすごく感動しました。
衝撃を受けて、どうしても手元に置きたいと思いました。地方から出てきてお金があまりない時代でしたが、バイト代でこの絵本を買いました。
バイト先にも持っていって、休憩室でバイト仲間に読んであげたりもしました。この絵本に心を動かされた人は、最初に「深~い」って言うんです。そこからさらに興味を持った人は佐野さんの別の絵本も探すようになる……。そんなシーンを見てきました。
個人的な話になりますが、『100万回生きたねこ』や『おじいちゃん』(ジョン・バーニンガム作/ほるぷ出版)が、祖母との別れやその喪失感を癒やすきっかけとなりました。哲学的なテーマや、人生そのものを描く絵本、読み手に想像の余白をのこすような絵本に惹かれるきっかけにもなりました。
『100万回生きたねこ』と初めて出会ったころ。 写真提供:東條知美さん
『おじいちゃん』(ジョン・バーニンガム 作 谷川俊太郎 訳/ほるぷ出版)
図書館司書として受け止めた子どもたちの切実な言葉
───その後、『100万回生きたねこ』との関わりはどうだったでしょう?
東條さん:子どもが生まれて、自分でも絵本を読めるようになった7歳か8歳のとき、本棚から『100万回生きたねこ』を持ってきました。そして、「ねこ、生きるの、飽きちゃったのかな?」「ねこ、なんでつまんないのかな?」と口にしたんです。いろんな疑問がわいたようでした。「?」でいっぱいの表情でした。
また、私は30歳のときに司書資格を取り、小学校の図書館で長く勤めたのですが、ある日、2年生の女の子が「この絵本、きらい!」とカウンターに携えてきました。「3日前にうちのねこが死んだの」───彼女の心に迫るものがあった、それだけ物語の中で死がリアルだったのだと思いました。その思いをまずは受け止め、「いつかまた読んでみたいと思ったら手に取ってみてね」と伝えました。
一方、カウンターにやってきた別の3年生の生徒は、「100万回ってすごい数だよ、知ってる? そんなに生き直して、ねこはなにがしたかったのかなあ?」と私に問うてきました。このとき、初めて「生き直す」という言葉に触れて、ハッとしました。
子どもたちの切実な思いから出た言葉は、その後も頭から離れることはありませんでしたが、当時私が、それらの問いにはっきりと答えるということはありませんでした。「問いもこたえも、絵本を読んだ人のもの」という考えを持っているからですが、私自身にとっても、「『100万回生きたねこ』は愛の絵本」という枠の中にまだあったからだと思います。
東條さん:子どもが生まれて、自分でも絵本を読めるようになった7歳か8歳のとき、本棚から『100万回生きたねこ』を持ってきました。そして、「ねこ、生きるの、飽きちゃったのかな?」「ねこ、なんでつまんないのかな?」と口にしたんです。いろんな疑問がわいたようでした。「?」でいっぱいの表情でした。
また、私は30歳のときに司書資格を取り、小学校の図書館で長く勤めたのですが、ある日、2年生の女の子が「この絵本、きらい!」とカウンターに携えてきました。「3日前にうちのねこが死んだの」───彼女の心に迫るものがあった、それだけ物語の中で死がリアルだったのだと思いました。その思いをまずは受け止め、「いつかまた読んでみたいと思ったら手に取ってみてね」と伝えました。
一方、カウンターにやってきた別の3年生の生徒は、「100万回ってすごい数だよ、知ってる? そんなに生き直して、ねこはなにがしたかったのかなあ?」と私に問うてきました。このとき、初めて「生き直す」という言葉に触れて、ハッとしました。
子どもたちの切実な思いから出た言葉は、その後も頭から離れることはありませんでしたが、当時私が、それらの問いにはっきりと答えるということはありませんでした。「問いもこたえも、絵本を読んだ人のもの」という考えを持っているからですが、私自身にとっても、「『100万回生きたねこ』は愛の絵本」という枠の中にまだあったからだと思います。
『100万回生きたねこ』は“ひとりひとりの人生を映す絵本”
───なるほど……そこから『100万回生きたねこ』への思いはどう変わったのでしょうか?
東條さん:2010年ごろから、絵本コーディネーターとして、大人のための絵本のイベントを開催するようになりました。そのころ、子どものための絵本の会はあっても、大人のための会はほとんどなかったのです。教育関係者の方でさえ、絵本は子どものもの、通過していくもの、という認識のほうが多かった。大人にこそ、絵本を読んでほしいという思いでイベントを企画しましたが、お客様の中には、大人になってから初めて絵本に触れた、という方も多くいらっしゃいました。紹介する作品によっては、会場が静まりかえって、涙をポロポロこぼす方もいました。そんな中で、『100万回生きたねこ』も何度か紹介させていただきました。
こうして、老若男女、さまざまな人と絵本を介して出会うなかで、この絵本は“ひとりひとりの人生を映す絵本”だということがわかってきたのです。
たとえば、こんな感想を伺う機会がありました。
「白いねこは猫の生をまっとうして死んだのだから、それはごく自然だ。とらねこがこんなに泣くのは不自然じゃないか」と言った75歳の方、「死んだ夫のことを思い出します。宝物の一冊です。夫を愛していたから、とらねこの気持ちがよくわかる」と涙した90歳の方、それに対して「いやいや、白ねこはこんなに愛されたけど、はたして本当に幸せだったのかしら?」と言う方……。
ほんとうに、絵本を読みあうことはおもしろいことだと思います。たくさんのイベントをとおして、「読者自身が物語を完成させるのだ」と実感しました。この絵本は“ひとりひとりの人生を映す絵本”です。子どもなら子どもなりに、大人なら大人なりに。自由に心を乗せてゆけるところ、哲学的な問いを自分自身でみつけられるところが、この絵本の大きな魅力だと思います。
東條さん:2010年ごろから、絵本コーディネーターとして、大人のための絵本のイベントを開催するようになりました。そのころ、子どものための絵本の会はあっても、大人のための会はほとんどなかったのです。教育関係者の方でさえ、絵本は子どものもの、通過していくもの、という認識のほうが多かった。大人にこそ、絵本を読んでほしいという思いでイベントを企画しましたが、お客様の中には、大人になってから初めて絵本に触れた、という方も多くいらっしゃいました。紹介する作品によっては、会場が静まりかえって、涙をポロポロこぼす方もいました。そんな中で、『100万回生きたねこ』も何度か紹介させていただきました。
こうして、老若男女、さまざまな人と絵本を介して出会うなかで、この絵本は“ひとりひとりの人生を映す絵本”だということがわかってきたのです。
たとえば、こんな感想を伺う機会がありました。
「白いねこは猫の生をまっとうして死んだのだから、それはごく自然だ。とらねこがこんなに泣くのは不自然じゃないか」と言った75歳の方、「死んだ夫のことを思い出します。宝物の一冊です。夫を愛していたから、とらねこの気持ちがよくわかる」と涙した90歳の方、それに対して「いやいや、白ねこはこんなに愛されたけど、はたして本当に幸せだったのかしら?」と言う方……。
ほんとうに、絵本を読みあうことはおもしろいことだと思います。たくさんのイベントをとおして、「読者自身が物語を完成させるのだ」と実感しました。この絵本は“ひとりひとりの人生を映す絵本”です。子どもなら子どもなりに、大人なら大人なりに。自由に心を乗せてゆけるところ、哲学的な問いを自分自身でみつけられるところが、この絵本の大きな魅力だと思います。
『100万回生きたねこ』は引力の強い絵本
いちばん印象に残るシーン。 写真提供:東條知美さん 取材のために撮影。©JIROCHO, Inc. / KODANSHA
───佐野洋子さんの絵本や『100万回生きたねこ』の絵について、どう思われますか?
東條さん:佐野さんの絵本は、非常に強い。アーティスティックな絵だと思います。そして、その隙間に、あえて読者が想う余地を残しているようにも思います。
初めて手にしたとき、『100万回生きたねこ』の表紙の、にこりともしないとらねこの絵にびっくりしました。絵本というものは微笑みかけてくるもの、と思いこんでいたから。そして、絵本は絵と文章が両輪と言われるけれど、こんなふうに文章だけでも成り立つ絵本もあるのだと思いました。けれど、何度も読むうちに、いやいや、この絵でなくてはならないのだ。この絵だからこそ読み手の人生が喚起されたり、問いも深まるのだと理解するようになりました。
文章は絵本としては長めですが、主人公のねこのキャラクターは言葉づかいも含めてちょいワルです。死をも恐れぬつわもの。彼にとって生きることは退屈なくり返し(絵本では100万回という気の遠くなるような生を、かいつまんで紹介)。そこから内側に大変革が起こり、ラストは物音ひとつしない静けさに包まれる……なんというドラマでしょう。一気に心をつかみ、ぜったいに読者を飽きさせない。そこがすごいと思います。
印象的なのは、とらねこが泣くシーンです。あんなにクールでなにがあっても心を動かされなかったとらねこが、我を忘れるシーン。ここまで変わるんだと思いました。圧倒的な迫力です。
東條さん:佐野さんの絵本は、非常に強い。アーティスティックな絵だと思います。そして、その隙間に、あえて読者が想う余地を残しているようにも思います。
初めて手にしたとき、『100万回生きたねこ』の表紙の、にこりともしないとらねこの絵にびっくりしました。絵本というものは微笑みかけてくるもの、と思いこんでいたから。そして、絵本は絵と文章が両輪と言われるけれど、こんなふうに文章だけでも成り立つ絵本もあるのだと思いました。けれど、何度も読むうちに、いやいや、この絵でなくてはならないのだ。この絵だからこそ読み手の人生が喚起されたり、問いも深まるのだと理解するようになりました。
文章は絵本としては長めですが、主人公のねこのキャラクターは言葉づかいも含めてちょいワルです。死をも恐れぬつわもの。彼にとって生きることは退屈なくり返し(絵本では100万回という気の遠くなるような生を、かいつまんで紹介)。そこから内側に大変革が起こり、ラストは物音ひとつしない静けさに包まれる……なんというドラマでしょう。一気に心をつかみ、ぜったいに読者を飽きさせない。そこがすごいと思います。
印象的なのは、とらねこが泣くシーンです。あんなにクールでなにがあっても心を動かされなかったとらねこが、我を忘れるシーン。ここまで変わるんだと思いました。圧倒的な迫力です。
───『100万回生きたねこ』は、ひとことで言うと、どういう絵本ですか?
東條さん:50年間どんなに時代が変わっても、人々の心を揺さぶり、つかんで離さない……とてつもない引力をもった作品です。
時代とともに世の中がどんなに変わっても、「愛とはなにか?」「生きるとはなにか?」をここまで考えさせる絵本はほかにないと思います。50年分の読者の人生に入り込んできた絵本です。そして、この読書に終わりはありません。
───まだ読んでいない方へのメッセージをいただけますか?
東條さん:読んでみてください。あなたの声に耳を澄ましてください。何度でも出会い直し、読んで、都度あなたの声に耳を傾けてみてください。
───ありがとうございました。
─── ─── ─── ─── ───
このインタビューを受けるにあたって、すごく考えてしまった、とお話しされた東條さん。言葉の端々から、この絵本が東條さんにとって、とても特別な絵本だということが伝わってきました。「とてつもない引力をもった作品」である『100万回生きたねこ』は、これからもずっと、私たちがいなくなっても、たくさんの人の人生に出会い、その人生に関わっていくのだと思いました。
取材・文/幼児・学習図書出版部
東條さん:50年間どんなに時代が変わっても、人々の心を揺さぶり、つかんで離さない……とてつもない引力をもった作品です。
時代とともに世の中がどんなに変わっても、「愛とはなにか?」「生きるとはなにか?」をここまで考えさせる絵本はほかにないと思います。50年分の読者の人生に入り込んできた絵本です。そして、この読書に終わりはありません。
───まだ読んでいない方へのメッセージをいただけますか?
東條さん:読んでみてください。あなたの声に耳を澄ましてください。何度でも出会い直し、読んで、都度あなたの声に耳を傾けてみてください。
───ありがとうございました。
─── ─── ─── ─── ───
このインタビューを受けるにあたって、すごく考えてしまった、とお話しされた東條さん。言葉の端々から、この絵本が東條さんにとって、とても特別な絵本だということが伝わってきました。「とてつもない引力をもった作品」である『100万回生きたねこ』は、これからもずっと、私たちがいなくなっても、たくさんの人の人生に出会い、その人生に関わっていくのだと思いました。
取材・文/幼児・学習図書出版部































東條 知美
1973年、新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校、小・中学校図書館などでの勤務を経て、「絵本コーディネーター」の肩書で活動中。 子育てや教育、ジェンダーなどのテーマの下、絵本の可能性と魅力を幅広い世代に伝えながら、全国自治体で課題解決へのヒントを探る講演を行う。各種メディアのほか、バラエティ番組や情報番組にも出演。バンタンデザイン研究所では、絵本作家コースの講師を務める。 公式サイト https://www.tojotomomi.com/ ブログ「僕らの絵本」 https://ameblo.jp/bokurano-ehon/entrylist.html
1973年、新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校、小・中学校図書館などでの勤務を経て、「絵本コーディネーター」の肩書で活動中。 子育てや教育、ジェンダーなどのテーマの下、絵本の可能性と魅力を幅広い世代に伝えながら、全国自治体で課題解決へのヒントを探る講演を行う。各種メディアのほか、バラエティ番組や情報番組にも出演。バンタンデザイン研究所では、絵本作家コースの講師を務める。 公式サイト https://www.tojotomomi.com/ ブログ「僕らの絵本」 https://ameblo.jp/bokurano-ehon/entrylist.html