絵本作家デビュー15周年シゲタサヤカさん 「食べ物しか描けない」弱みが個性に

描きこみすぎのサイン本とは? シゲタサヤカさんロングインタビュー・後編

講談社絵本新人賞をきっかけにデビューしてから、今年で15年となるシゲタサヤカさん。新刊絵本『いえいえ、そんなことは ありませんよ』の発売を記念したロングインタビューの後半です。

シゲタさんが絵本をつくるときに大切にしていることとは? シゲタさんが描けないものとは?

サービス精神がありすぎるあまりに起きた、シゲタさんならではのエピソードもうかがいました。

四コマ漫画が絵本のネタに

──今まで絵本をつくってきた中で、印象的だったことはありますか?

シゲタサヤカさん(以下、シゲタさん):もうそれは、『カッパも やっぱり キュウリでしょ?』のオチをたくさん悩んだことですね。絵本のストーリー自体は完成していたのですが、本当に最後の最後のオチのシーンで、いい言葉がしばらく浮かばなかったんです。

それで当時の担当編集者さんとずっと打ち合わせをして、直前のシーンの「こいつ いったい なんなんだ」というセリフをふたりで呪文のように唱えて……。結局編集者さんからぽろっと出た言葉がうまくはまって、その瞬間「きたー!」っておたがい大喜び(笑)。文句なしにいいオチになったなって思います。
『カッパも やっぱり キュウリでしょ?』(2014年刊/講談社)
作:シゲタサヤカ
──そんな裏話があったのですね。とってもインパクトのあるシーンなので、ぜひみなさま、絵本でチェックしてほしいです。では別の質問ですが、絵本のストーリーは、どのようにして浮かぶことが多いですか?

シゲタさん:昔はよく、四コマ漫画からストーリーを考えることがありました。きっかけとなったのは、以前絵本のコンペで落選をくり返していたとき、売りこみにいった先の編集者さんです。Web絵本を担当されていたのですが、私の作品を見たときに「とにかく話がつまらない」ってもうズバリ言ってくださって。「そんなつまらない話じゃ無理だよ。でも絵本のストーリーって、訓練でなんとかできるんだよ」と教えてくださいました。

その訓練が四コマ漫画だったんです。四コマ漫画には起承転結がつまっているから、まずは四コマをマスターして、それを15場面くらいに増やせば絵本になるのだと。私は最初「漫画じゃなくて絵本が描きたいのに」なんてちょっと渋ったのですが、その編集者さんはじゃあ「四コマ絵本」っていえばいいじゃんと言ってくれて、さらにWebサイトで私の四コマのコーナーをつくってくださったんです。

お仕事だったらという熱意もあって、四コマを描くうちに起承転結がわかるようになってきました。また編集者さんにできた四コマを持っていくと、おもしろいかおもしろくないか、その場で振りわけてくださいました。1000本ノックじゃないですけど、100本ほどは描いた四コマが、いまだにアイデアのストックになって、絵本の出版につながっていくことも多いのです。

いくらのお寿司の四コマから、『いくらなんでもいくらくん』(イースト・プレス刊)という絵本ができて、『ラッキーカレー』(小学館刊)も四コマから生まれた絵本です。今はその当時のストックを、食いつぶしているような状況です。

講談社さんのサイト(講談社えほん通信)でも四コマを描かせていただく機会があったので、そこから絵本にできたらいいな、と思うキャラもいます。ストーリーに悩んだとき、四コマを描くのは、おすすめです。
『いくらなんでもいくらくん』『ラッキーカレー』の元になった四コマが。
写真提供/シゲタサヤカ

弱みが自分の個性になる

──シゲタさんが絵本をつくるうえで、大切にされていることを教えてください。

シゲタさん:ストーリーの展開は、特に意識するようにしています。やっぱりお話には起承転結がすごく大事なんだと、四コマ漫画をずっと描きつづけてよくわかりました。

デビュー時から絵本のデザインを担当してくださっている小野明さんは絵本の編集もされていて、絵本業界ではもう本当にすごい方なんですけど、その小野さんも「絵本は展開が命だ」っていうふうにおっしゃっているんです。それを聞いてからよりいっそう、展開を大切にしています。

なのでいつもストーリーをつくるのに一番時間をかけていて、ストーリーができたら8割終わったぐらいの気持ちです。笑ってもらえる展開や、ちょっとびっくりするような、意外性のあるオチなどをめざしています。

──私もシゲタさんの絵本には、たくさんびっくりさせられました。またインタビューの前半に「白目」の話もありましたが、シゲタさんは独自の絵柄・作風で描かれている印象があります。やはり、個性を持つことは大切でしょうか。

シゲタさん:私がただ柔軟にできなくて、白目や食べ物しか描けませんというのが弱みであり、結果的にそれが個性にもなったのかなって思う部分はあります。なので無理に「これを個性にするぞ」と決める感じではなくて、自分の好きに、自然に描いていったら最終的に個性が生まれるのかなって思います。

──ここまでお話をうかがってきてわかってきてしまったのですが……、シゲタさんはどんなものを描くのが得意ですか?

シゲタさん:断然食べ物ですね。食べ物を主人公にしたり、食べ物がキャラクターになってなにかを引き起こしたりっていうのが一番好きです。料理や食べ物にまつわるお話が得意だなと思います。

──逆に、こういうのを描くのは苦手だなと思うものはありますか?

シゲタさん:食べ物以外(笑)。動物も何度かチャレンジしたのですが本当にだめでした。あと電車とか車とかメカニック系も描いたことがないくらいだめで、蝶々が主人公の絵本『キャベツがたべたいのです』(教育画劇刊)があるのですが、あれがギリギリかなっていう感じです。あれも本当は蝶々よりもキャベツが描きたくて……、食べ物以外は苦手です。

手描き制作からデジタル制作へ…

──シゲタさんはこれまで、手描きで絵を描かれることがほとんどでしたか?

シゲタさん:はい、そうです。今はデジタルに移行していっているのですが、移行前はターナーのアクリルガッシュを使っていました。塗ったときにマットな質感になるのがすごく好きで、私にはあっていました。

それから主線となる黒い線は全部塗ったあとに上塗りしていくので、色が混ざらないアクリルガッシュがぴったりでした。
シゲタさん愛用のアクリルガッシュ。
写真提供/シゲタサヤカ
──黒い線もペンとかではなくて、絵の具なんですね。新作の『いえいえ、そんなことは ありませんよ』は、デジタル制作ですか?

シゲタさん:はい。元々ネスレさんのノベルティとしてつくった絵本だったので、スケジュールがタイトだったということもあり、デジタル以外で対応できなかったんです。あとは下の子が生まれてから、もう絵の具なんて広げたら地獄で(笑)。

今回の新刊より前にも何冊かデジタル制作をしてきましたが、「コックさんシリーズ」でははじめてのことですね。自分で言うのもなんですが、絵柄的にあまり違和感なく、デジタルに移行できたのでは思います。

──デジタル制作といっても、『いえいえ、そんなことは ありませんよ』ではずらりと並んだお料理を、コピー&ペーストで制作したりは……。

シゲタさん:していません! お料理、全部描きました! 見返しも全部同じお料理なんですが、コピーはせず、描きたくて全部描きました。

子どもがいると、予想外がいっぱい

──先ほどすこしお子さんのお話が出ましたが、お子さんがいる中の作品制作は、やっぱり大変なことも多いのでしょうか。

シゲタさん:そうですね、予想外がいっぱいです。今日は制作するぞと決めた日も、子どもの体調が悪くなったり、コロナの影響で保育園がお休みになったり、そうなるともう終わりです。ひどいときは、締切を1年くらい遅らせてもらったこともあります。

──お子さんでもシゲタさんご自身でも構わないのですが、お気に入りの絵本はありますか?

シゲタさん:親子ですごく好きだったのが、工藤ノリコさんの『セミくんいよいよこんやです』(教育画劇刊)という絵本で、読みすぎてボロボロになっています。セミって土の中で7年くらい幼虫時代を過ごすじゃないですか。その土の中のくらしを描いたストーリーで、もういよいよ外に出るとなったときの感動や切なさで、上の子は読むと毎回泣いちゃうくらいでした。すごく思い入れのある、大好きな一冊です。

あとは私はやっぱり食べ物が好きなので、はらぺこめがねさんの『あげる』(佼成出版社刊)や『くだものさがしもの』(PHP研究所刊)もお気に入りです。読み聞かせをするとおなかが減っちゃいます。
シゲタさんのお気に入りの絵本、『セミくんいよいよこんやです』と『あげる』。
写真提供/シゲタサヤカ

サインが豪華すぎて、まさかのクレームが!?

新刊『いえいえ、そんなことは ありませんよ』のサインは、双子&巨大ステーキ!
写真提供/シゲタサヤカ
──絵本にサインをする機会が多くあると思いますが、その際はお名前だけでなく、豪華なイラストも添えてくださるとお聞きしました。しかも、いくらでも書けますと言っていただいたとか……。

シゲタさん:同じ絵をずっと描いているのがすごく好きで、サイン本は一日中でも描いていられます! 好きなドラマとか映画とかを流しながら、耳ではそれを聞いて、コピー機みたいに同じ絵を描くっていうのが好きです。なので、いくらでも時間が許すかぎり、描かせていただきたいです。

実は以前、サインを描きこみすぎて、書店員さんから「サイン本として買ったのにサインがないんです」とお問い合わせが入ったことがありました。ちょっと見てみてください、たぶん最初のページを開いたところにあるのがサインなんですよとお伝えしたら、印刷の絵だと思われていたようで、「これがサインなの!?」って驚いてくださいました。

──そのエピソードは、シゲタさんならではですね。ちなみにどんなサインだったのでしょうか。

シゲタさん:ページ全面におにぎりをたくさん描いていました。1個ずつ描くのが楽しくて、200冊とかを1週間くらいかけて描いたかと思います。

絵本の原画を描くときは頭の中が張りつめて、まちがえないようにしなきゃと思うのですが、ひたすら「無」になりながらおにぎりをずっと描くっていうのが楽しいんです。心の安定みたいなのもあるのかもしれないんですけど。とにかく楽しい!
エピソードに出てきた、『オニじゃないよおにぎりだよ』(えほんの杜刊)の豪華なサイン。
写真提供/シゲタサヤカ
──最後の質問となりますが、シゲタさんは今後、どんな絵本作家さんになりたいでしょうか。

シゲタさん:ここまできたのでもう、食べ物だけの絵本作家でいきたいなと思います。ほかのものを描ける気もしないですし、人前に出るのも得意ではないので、とにかくおうちにこもって食べ物を描いていたいです。

だからサイン本も、家で書いてできあがったのを書店さんに送るばかりです。何度かサイン会をやらせていただいたこともあるのですが、緊張しちゃってお名前をまちがえちゃったり、ごめんなさいごめんなさいってなっちゃうので……、人前に出ない食べ物作家をめざしていきたいです(笑)。

──でもそれはそれで、いろいろ新しいことができそうですよね。豪華なサイン本を何百冊書くとか、シゲタさんにしかできないことがきっとたくさんあると思います!

シゲタさん:ありがとうございます。それをはげみに、なにかやってみたいですね。
シゲタさんの絵本には、食べ物がいっぱい!
写真提供/シゲタサヤカ
取材・文/伊澤瀬菜

「コックさんシリーズ」13年ぶりの新刊が発売されました

『まないたに りょうりを あげないこと』『りょうりを しては いけない なべ』『コックの ぼうしは しっている』につづく、「コックさんシリーズ」の第4弾!

町で一番人気のレストランにあらわれた、すご腕スーパーコックは、いったい何者……? たくさん描かれたお料理にも注目です。
『いえいえ、そんなことは ありませんよ』(2024年刊/講談社)
作:シゲタサヤカ

シゲタサヤカ

絵本作家。

1979年生まれ。「パレットクラブスクール」で絵本制作を学ぶ。第28回から講談社絵本新人賞で佳作を3年連続受賞。2009年、第30回佳作受賞作『まないたに りょうりを あげないこと』でデビュー。食べものが登場するユーモア絵本で大人気に! 

主な絵本の作品に『りょうりを してはいけない なべ』『コックの ぼうしは しっている』『カッパも やっぱり キュウリでしょ?』(講談社)、『キャベツが たべたいのです』(教育画劇)、『たべものやさん  しりとりたいかい  かいさいします』(白泉社)、『オニじゃないよ  おにぎりだよ』『カレーは あとの おたのしみ』(えほんの杜)、『クリコ』『ラッキーカレー』(小学館)などがある。
しげたさやか

シゲタ サヤカ

絵本作家

絵本作家。講談社絵本新人賞で佳作を3年連続受賞。2009年、第30回佳作受賞作『まないたに りょうりを あげないこと』(講談社)でデビュー。食べものが登場するユーモア絵本で大人気に! おもな絵本の作品に『りょうりを してはいけない なべ』『コックの ぼうしは しっている』『カッパも やっぱり キュウリでしょ?』(以上、講談社)、『キャベツが たべたいのです』(教育画劇)、『たべものやさん しりとりたいかい かいさいします』(白泉社)、『オニじゃないよ おにぎりだよ』『カレーは あとの おたのしみ』(以上、えほんの杜)、『クリコ』『ラッキーカレー』(以上、小学館)などがある。

絵本作家。講談社絵本新人賞で佳作を3年連続受賞。2009年、第30回佳作受賞作『まないたに りょうりを あげないこと』(講談社)でデビュー。食べものが登場するユーモア絵本で大人気に! おもな絵本の作品に『りょうりを してはいけない なべ』『コックの ぼうしは しっている』『カッパも やっぱり キュウリでしょ?』(以上、講談社)、『キャベツが たべたいのです』(教育画劇)、『たべものやさん しりとりたいかい かいさいします』(白泉社)、『オニじゃないよ おにぎりだよ』『カレーは あとの おたのしみ』(以上、えほんの杜)、『クリコ』『ラッキーカレー』(以上、小学館)などがある。