奇跡の絵本『100万回生きたねこ』の佐野洋子が描く“かわいくない”絵本たち
大人の絵本の世界へようこそ
2022.01.02
あなたの知っている佐野洋子さんは、ミリオンセラーの絵本『100万回生きたねこ』の作者でしょうか。
それとも、『神も仏もありませぬ』など、数々のエッセイを残した名エッセイストでしょうか。
大胆な物言いやふるまい、おおらかな人生観、そして繊細な心遣い。生前を知る人が、“かっこいい人だった”と声をそろえて語る佐野さん。
孤独、病、老い、死など人生において重要なことをタブー視しないエッセイは、常識にとらわれず、ユーモアと自由な精神にあふれています。
もちろん、絵本だって、ひとすじなわではいかない作品ばかり。
のびのびした絵、読むたびに、印象が変わるストーリー。
佐野洋子さんの“かっこよさ”が伝わってくる絵本11冊をご紹介します。
はじめての創作絵本『すーちゃんとねこ』は、「いじわる」がテーマ。人間の心の機微に鋭い佐野さんならではといえるかもしれません。
すーちゃんの相手を伺ういじわるそうな横目と、ねこの表情ががなんともいえませんね!
大人も子どもも文句なく笑える、ナンセンス絵本です。
ねこが大好きなはずのサバの大群におっかけられるお話です。勢いのある絵で描かれたサバの大群に、ちょっぴり怖くなってしまうかも!
サバで怖くなるなんて、きっと世界中でこの絵本だけかもしれません。
『おれは ねこだぜ』では、サバの大群が飛びましたが、『空とぶライオン』では、強さの象徴としてライオンが飛び続けます。黄金のたてがみ、きりっとした瞳、表紙のライオンはいかにも強そうです。
けれども、読み進むにつれ、ねこにはやされて、飛びつづけてしまうライオンが心配になっていきます。もうそんなにがんばらないで、と声をかけたくなるのです。
勢いのある絵とあいまって、衝撃のラストでは息をのむこと必至の作品。
『ふつうのくま』では、くまが飛ぶことにとらわれているようです。お父さんがそう望んでいたからかもしれません。
けれど、飛ぶことは、ほんとうの勇気でしょうか?
ライオンにはだれもいませんでしたが、くまには、ねずみがいてくれました。相手を思う、静かな愛の物語です。
『ねこ いると いいなあ』なんて、かわいいタイトル。クレヨンで描いた、やわらかい色調の絵。
すっかり油断してしまいますが、これは「ねこがきた! わあ、かわいい」で終わる絵本ではありません。そう思ってみると、表紙の絵もなんだか不穏に見えてきますね。
女の子は100万回もお母さんに「ねこ ほしいよう」とねだるのですが、あっさりあしらわれてしまいます。
「おかあさんの ごうじょう」と言っていた女の子が、怖くなってきたときに最後にたよるのは、でもやっぱりお母さんでした。
『おばけサーカス』は、ほんとうのおばけたちのサーカスです。表紙の、夕日でまっ赤な広場にあるサーカスは、なにかが起こる気配にみちています。
おばけたちは熱心に練習にはげむのですが、さあ、このラスト、あなたはどう感じましたか?
絵の人気が高い一冊です。
表紙の、素敵な傘をもって歩くおじさんの顔の得意そうなこと。 「このおじさん知ってる!」という人、多いのではないでしょうか。読み聞かせでも、とても人気のある1冊です。
すました顔をしているおじさんですが、立派な傘を大事に大事にしているなんて、かわいいですよね。
雨が傘にあたる音の描写が楽しくて、雨の日が待ち遠しくなりそう。
ちょっとかたくなだったおじさんのことが愛おしくなる絵本です。
こちらのおじさんは、家の前にある、おおきな木が気に食わないよう。おおきな木の下でお茶を飲んだりするのに、ことあるたびに、おおきな木に悪態をついています。
身近で、ほんとうは大好きなものに、あたらずにはいられないのがおじさんなのだとしたら、切ないですね。
本当に大切なものは、失ってはじめてわかる。たっぷりのユーモアで包んで、そんな大切なことが伝わってきます。希望を感じるラストに、ときどき読み返したくなるお話です。
佐野洋子さんは、かっこいい人だったそうです。そんな “かっこいい佐野洋子” が描くお父さんもまた、かっこいい。
川を渡るために大きな木を折って橋にしてしまうなんて、くまらしいとうさんにあこがれてしまいます。
お父さんと一緒に読んでみるのもいいですね。
佐野洋子さん39歳のときに刊行となった『100万回生きたねこ』。
それについて、エッセイの中でこのように書いています。
<一匹の猫が一匹のめす猫にめぐり逢い子を産みやがて死ぬというただそれだけの物語だった。『100万回生きたねこ』というただそれだけの物語が、私の絵本の中でめずらしくよく売れた絵本であったことは、人間がただそれだけのことを素朴にのぞんでいるということなのかと思わされ、何より私がただそれだけのことを願っていることの表れだったような気がする。> 「二つ違いの兄がいて」『私はそうは思わない』収録 佐野洋子 筑摩書房より
100万回生きたことをきっと、かっこいいと思っていたとらねこ。とらねこの一生を読んで、「ただそれだけの物語」、あなたはどう感じるでしょうか。
最後にご紹介するのは、「だって わたしは 98だもの」といって、ねこと静かに暮らしていたおばあさん。ある日、誕生日ケーキのろうそくの数が5本だったことから、「だって わたしは 5さいだもの」と大変身!
気持ちのよいリズミカルな文章ととぼけた味わいの絵が楽しくて、お孫さんへの読み聞かせにも人気の1冊です。
佐野洋子さんの描く、大人にささる絵本11冊をご紹介しました。あなたの大事な1冊になるのは、さあ、どれでしょうか。
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佐野 洋子
1938年6月28日中国・北京生まれ。武蔵野美術大学デザイン科卒業。 主な作品に『100万回生きたねこ』(講談社)、『おじさんのかさ...