「子ども」と「絵本」を考える。 

秋田有希湖・鶴見大学短期大学部保育科准教授

「絵本選び」は、なんでもいい。 でも読み方が大切。

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「読み聞かせ」が浸透し、読むスタイルも多様化するなか、「なにを選べばよいのかわからない」「うまく読めない」といった声も聞こえてきます。

そもそも絵本の読み聞かせの目的ってなんなのでしょう。
「子どもの情緒を育てることができる」「子どもを本好きにしたい」などと親が考える一方で、子どもは、どう感じているのでしょう。

幼児教育のエキスパートである秋田有希湖先生から、絵本を介した親子のコミュニケーションについてアドバイスしていただきました。

※この記事は、こどもの本通信『dandan』Vol.40
(講談社 2019年11月刊)の企画を再構成したものです。

本選びは「この本が好き!」という子どもの思いを大切に

絵本を選ぶときに、なにを大事にされていますか? 道徳的なもの? 情操教育的なもの? 思考力を養うもの? 色彩が豊かなもの? いろいろありますよね。でもじつは、絵本を選ぶ基準なんてありません。子どもが絵本の読み聞かせを楽しむ要素は千差万別です。登場人物、色彩、仕掛け、ことば、紙の手触り、ページをめくる動作、読み手の声、自分のために読んでくれるという特別感、面白さを共有できるうれしさ……など、本当にさまざまなはずです。

子どもが「これをよみたい」と言えば、その内容や読み方は、なんでもいい。対象年齢と合わない本を持ってこようが、図鑑を持ってこようがかまいません。最後まで読めなくても大丈夫。

それよりも、じぃ~っと眺めていたり、「よんで」「いっしょによもう?」などと言ってきたりしながら示す、「この本が好き!」「この本を読みたいんだ!」という子どもの思いや意欲を大切にしてほしいです。「○○したい!」という気持ちを持つこと、さらにはそれを伝えられることはとても素晴らしいと思います。

「おーちーまい!」 絵本はママと一緒のいちばんのお遊び

私の息子が小さかったときの話です。一緒に絵本を読んでいると、こちらが読み終える前にページをめくってしまったり、話の途中で本を閉じてしまったりということがありました。

でも、この子が絵本を好きではないのかというと、そうではないのです。繰り返し同じ本を持ってきては「さあ、はやく読んで」とばかりに膝の上に座るわけです。そして、再びもの凄いスピードでページをめくっては、「おーちーまい!」パタン。そして満面の笑み。

今思えば、じつはこれ自体が母親と一緒にするいちばんの「遊び」だったのだと思います。私も、しばらく「おーちーまい!」の遊びを続けました。そうすることで、彼にとってこの絵本は「ママと一緒に遊ぶもの」になり、「絵本の時間は楽しい時間」と捉えていたように感じます。この楽しい気持ちが絵本への入り口。気が付いたときには、絵本のストーリーを暗唱しだし、文字を読むようになっていました。成長に応じた読み方を自ら見つけていくんですよね。

過去・現在・未来を 繋ぐチャンネル

子どもにとって、絵本はひらめきの宝庫です。なにかがひらめいたときの衝動は誰にも止められません。読み聞かせの途中でいなくなったり、別の遊びに移行したりすることもよくあります。でもあせらず、そのまま静かに様子を見守ってください。全く関係がないように感じる遊びが、果てしない遠回りを経て、じつは絵本の世界と繫がっていたりします。絵本から得たインスピレーションがチャンネル(道筋)となり、過去の記憶や現在の出来事と結びついて、彼らだけの新しい物語(未来)を創造しているのです。

また、子どもがその場から離れたからといって、すぐに本を閉じるのも要注意。遠くから「やめないでよ!」という声が飛んでくることも。聞いていないようで、じつは聞いているんです。

何を読んでも良いけれど 子どもの絵本との「触れ合い方」は大切

先ほどから、私は、絵本の選び方や読み方はなんでもいいと述べてきました。でもそれは、子どもが絵本とどのように触れ合おうが「どうでもよい」という無関心な態度のことではありません。

子どもは、「一緒の質」にとても敏感です。隣に座っていても、膝の上に抱いていても、「こころが一緒」でないと、それは「いっしょ​」ではないと主張します。また、大人の思いを一方的に押し付けられることも「いっしょ」ではないと拒絶します。

絵本を読んでいるときも同様で、「いま、この場面」で感じたことを互いに対等な立場で交流させ合うような楽しみ方をしたいのです。それができれば、大人が選んだ本でも大丈夫です。「ママは、このシーンになると楽しそうに笑うな」とか、「よくわからないけど、私もこの絵は好きだな」などと子どもも感じ、新鮮な出合いとなるでしょう。

絵本の感想が子どもと違っても大丈夫。「この色好きなんだね。パパはこの色が好きだな」「その発想はすごいね! ママは気付かなかった」などと、子どもの好みや感性を尊重したうえで、あなたの感想を伝えればいいんです。

読み聞かせは下手でもいい 子どもと一緒に楽しんで

「うまく読めないから……」と読み聞かせを敬遠する方も多いようですが、全ての親が、完璧な間とリズムと抑揚で、さらに声色を使い分けながら……と、そんな読み聞かせができるわけではありませんし、その必要もないと思います。それに、絵本を上手に読んでくれないという理由で親を咎める子どももいません。子どもは、絵本を通して、一緒に驚いたり、笑ったり、悲しんだりしたいのです。子どものために、なにかを「してあげる」「しなければ」という考えから離れ、ただ一緒に楽しんでみてください。もしくは、ただ一緒に楽しめそうな本を探してください。

読み聞かせにテクニックがあるとすれば、読み手でありつつ自らも子どもと一緒に絵本を楽しむことだと思います。

大人の期待や思いが強ければ強いほど、予想と違う反応を不安に感じるかもしれません。でも、それが、その子の好みであり、その表現なのです。

「なんでもいい。でも、どうでもよくない」裏を返すと、「いっしょ」に読める本なら、なんでもいいということです。上手かどうか、正しいかどうかなんて、気にしなくて大丈夫。絵本は、そこにあるだけで、大人と子どもの世界を繫ぐチャンネルにもなるのです。リラックスして親子で楽しめるといいですね。

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「読み聞かせ隊」 お母さんのコメント❶
強制しない、というのがいいですね。大人が読んでいると、本には興味がなくても、ただおしゃべりしにくる子もいます。カフェみたいな感覚ですね。

取材協力・写真提供/鶴見大学短期大学部附属三松幼稚園
取材協力・写真提供/鶴見大学短期大学部附属三松幼稚園

「読み聞かせ隊」 お母さんのコメント❷
赤ちゃん絵本を卒業した子どもでも、「なによんでるの?」と入ってきて、小さい子たちと一緒に楽しむことがあります。その時々で子どもにとってのマイブームもあるので、私のほうも「対象年齢に合わせなければ」とこだわらなくなりました。

取材協力・写真提供/鶴見大学短期大学部附属三松幼稚園
取材協力・写真提供/鶴見大学短期大学部附属三松幼稚園
取材協力・写真提供/鶴見大学短期大学部附属三松幼稚園

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「鶴見大学短期大学部附属三松幼稚園(神奈川県)で取り組んでいるのは、親御さんが園にやってきて、自由に絵本を読む「読み聞かせ隊」。子どもたちに本への興味を持ってもらう自然な環境作りです。園児は、お話を聞きたければ、その人のそばへいきます。学年もクラスもバラバラ。いつもと違うだれかに読んでもらうことがポイント。読み聞かせには決まりはないんだなと実感しています」(秋田有希湖・准教授)

撮影/嶋田礼奈 米沢 耕
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