ヨシタケシンスケが400超えの展覧会 特別展示の「天国」と「地獄」がユニーク

初の大規模展覧会「ヨシタケシンスケ展かもしれない」を潜入レポート!

ライター:山口 真央

ヨシタケシンスケさんは『りんごかもしれない』の作家デビュー以降、独特のアイデアと深い考察力をイラストで表現し、たくさんの人の心を掴んできました。

『もう ぬげない』や『おしっこちょっぴりもれたろう』、『あんなに あんなに』など、7度にわたりMOE絵本屋さん大賞第1位に輝くほど人気を博しています。

そんなヨシタケさんが、初めての大規模展覧会を開催! 400点以上の展示作品から、ヨシタケさんが一番注目してほしい展示とは? また会場で鑑賞・体験できる展示作品を、少しだけお見せしちゃいます!

ヨシタケシンスケさんに直撃インタビュー!

来場者にあいさつする、絵本作家のヨシタケシンスケさん。

ーー展覧会に飾られた400点以上の作品のなかで、ヨシタケさんが特に見てほしい作品を教えてください。

展覧会を開催するにあたって、ここでしか体験できない仕掛けを作ってみたいと考えました。絵本はいつでもどこでも読めますが、皮膚感覚に訴えるような仕掛けは、会場に来ないと味わってもらえない。

そこで『このあとどうしちゃおう』というお話に出てくる天国と地獄を、立体作品にしてみました。「てんごくのふかふかみち」と「じごくのトゲトゲイス」は、実際に歩いたり座ったりできるので、ぜひ体験してみてください! 「トゲトゲイス」は本当に痛いので、勢いよく座らないようご注意を(笑)。

座面と背面にたくさんのトゲがついた「じごくのトゲトゲイス」。座ってみると、地味に痛い!

あとは「うるさいおとなを りんごで だまらせよう!」というコーナーもあります。タイトル通り、ガミガミ言う大人たちの口にりんごを投げ入れて、黙らせる作品です。上手にりんごを口に放り込まれたときの大人たちの顔がなんとも言えないので、ぜひ会場でご覧になってください。

小言を言う大人たちの口は、大きく穴が空いています。りんごのボールは、ふわふわとした手触り。

他にも約2000枚のスケッチや、学生時代の立体作品などを並べましたが、作品だけじゃなく、わざわざここにやってきた「お客さん」にも注目してほしいですね。お互いを眺めながら「奇特な人もいるもんだなあ」と感じてもらえたら、僕もなんだか嬉しい気持ちになります。

会場には、さまざまな「かもしれない」プラカードを持ったイラストパネルが。ユーモア溢れる一言に、思わず笑ってしまいます。

展覧会の見所はまだまだあるかもしれない

ヨシタケさんご自身が、さまざまなアイデアを出して完成した「ヨシタケシンスケ展かもしれない」。ヨシタケさんがおすすめする展示物のほかにも、見逃せない作品はたくさん! いくつかご紹介していきましょう。

ヨシタケアイデアの宝庫! 原寸大のスケッチメモが約2000枚

天井まで埋め尽くされるスケッチ。ミュージアムショップでは、同じサイズのスケッチ用紙が入るバインダーを購入することもできます。

約13cm×8cmの小さな紙に描かれているのは、日々描き続けている考察スケッチ。ヨシタケさんが常に持ち歩いている手帳に描かれたスケッチで、約2000枚が壁一面に飾られています。「こういう人、いるいる!」とうなずける人物イラストから、「意味深だな……」と考え込んでしまう一言まで、見始めたら止まりません。

絵本はこうしてできた! アイデアスケッチや原画の数々

『あるかしら書店』のアイデアスケッチ。

絵本になる前の、構想段階のスケッチも多数展示されています。ポストイットに書かれたヨシタケさんの解説を読むことで、作品がさらに味わい深くなることでしょう。また、ベストセラー絵本の原画もせいぞろい! 実際に手書きで描かれた原稿をじっくりと観賞することができます。

若い頃から「ヨシタケシンスケ」だったことがわかる立体造形

ストローで飲み物をぶくぶくする観音様。その名も「ぶくぶく観音」。

ヨシタケさんが、学生時代につくった立体造形も多数展示されています。「どうしてこれをつくったんだろう……?」と首をひねりつつも、目が離せなくなる作品ばかり。ヨシタケさんの表現の「はじまり」に触れることができます。

体験型展示は全部で7つ! 「りんごの兄弟」にもなれる

頭がりんごの兄弟になる体験型展示。出てくるりんごはランダムです。

顔を映すと『りんごかもしれない』に登場するりんごの兄弟になれる体験型展示「あなたもりんごかもしれない」。他にも『なつみはなんにでもなれる』から、ジェスチャーゲームをして遊べる展示や、『つまんない つまんない』から、つまらない顔をして写真が撮影できる顔はめパネルなど、ヨシタケさんの世界観を全身で楽しめる展示が盛りだくさんです!

帰り道はいつもの風景が違って見えるかもしれない

「ヨシタケシンスケ展かもしれない」は、原画だけでなく、アイデアスケッチや体験展示など、ヨシタケさん作品を目で、耳で、肌で感じられる展覧会です。

『りんごかもしれない』をはじめ、日常風景に新しい視点を与えてきたヨシタケさん作品の数々。展覧会鑑賞後は、日常の風景や「当たり前」の意見に、常に疑問を持ち、とことんまで考える姿勢を持つことが、ヨシタケさんの作品をつくり上げていると感じられました。

帰りの電車のなかで、横断歩道で信号待ちをしながら、台所で赤いりんごを手にとったとき……、見えた景色に少しの「?」を挟み込むだけで、私たちの世界は大きく生まれ変わるのかもしれません。

ぐるぐる回る、表と裏の思考。「ヨチヨチ期」から「そして今」に至るまで、常に相反する考えを抱えていた、ヨシタケさんの頭の中がわかる立体年譜。

ヨシタケシンスケ展かもしれない
東京会場 2022年4月9日(土)~7月3日(日)  ※日時指定制 
世田谷文学館 2階展示室
東京都世田谷区南烏山1-10-10
開館時間:10:00~18:00(展覧会入場、ミュージアムショップは17:30まで)
休館日:毎週月曜日
観覧料:一般 1,000円
    65歳以上・大学・高校生 600円
    小・中学生 300円
    障害者手帳をお持ちの方500円 (ただし大学生以下は無料)
主催:公益財団法人せたがや文化財団 世田谷文学館、朝日新聞社、白泉社
協力:アリス館、PHP研究所、ブロンズ新社、ポプラ社
後援:世田谷区、世田谷区教育委員会

【チケット販売情報】
本展では混雑緩和のため、日時指定券のご購入をお願いしております。
詳細はオンラインチケットサイトをご覧ください。
未就学児はご予約の必要はありません。
当日券の予定枚数が終了している場合はご入場いただけません。
お電話でのご予約は受け付けておりません。
週末・祝休日・会期末は混雑が予想されます。平日、会期前半のご来場をお勧めいたします。

東京会場終了後、兵庫、広島、愛知など、全国を巡回予定。
詳細は展覧会ホームページをチェック!

ヨシタケさんが初めて子ども向けにイラストを描いた作品「レッツ」シリーズ

展覧会を開催中のヨシタケシンスケさんが、初めて子ども向けに作画された絵本をご存知でしょうか。その名も「レッツ」シリーズ。物語を紡ぐのはひこ・田中さんです。

子どもの持つ単純でユニークな疑問を、5歳の少年「レッツ」が自分の頭で考え、解決していく物語。ヨシタケさんが描く「レッツ」を見たとき、ひこさんは「探していた子どもに、ようやく巡り会えたような気持ち」だったといいます。

独特な思考回路でひらめいていく「レッツ」の物語を、ヨシタケさんの個性豊かなイラストともにお楽しみください。

『レッツとねこさん』

ひこ・田中/作 ヨシタケシンスケ/絵

3歳のレッツが、お母さんがつれてきた黒いネコさんを、家族としておうちにむかえるお話。レッツがネコさんと暮らしてみて、「わかった!」こととは? 

『レッツのふみだい』

ひこ・田中/作 ヨシタケシンスケ/絵

4歳のレッツは、ふみだいにのると見える世界と、のらないと見える世界があるのに気づいてビックリ! 少しずつ大きくなるレッツと、ふみだいを通して見えた世界のお話。

『レッツがおつかい』

ひこ・田中/作 ヨシタケシンスケ/絵

5歳のレッツが、小さな子がおつかいしているテレビを見た。自分だって1人でおつかいできると内緒でおでかけしてみたレッツの、小さな冒険のお話。

『レッツはおなか』

ひこ・田中/作 ヨシタケシンスケ/絵

5歳のレッツが、お母さんとおへそで繋がっていた時のことを考えるお話。「とうさんのおなかのほうが らくちんそうなのに」などと、ああでもない、こうでもないと考えた先に、レッツが見つけた「答え」とは?

『レッツもよみます』

ひこ・田中/作 ヨシタケシンスケ/絵

ある日5歳のレッツは、お父さん、お母さんから本を読み聞かせられることを「うるさい」と感じるように。レッツが1人で音読する、黙読するという「読み方」を手に入れていくお話。

取材・文/山口真央

やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。