新型コロナウイルスによる感染拡大は波状攻撃のように続いています。幼い子どもたちを持つ子育て家族の日常生活も大きな変化を迫られました。
“もりたま”の愛称を持つ人気医師の森田麻里子氏もそんなママの一人です。『科学的に正しい子育て』『医者が教える赤ちゃん快眠メソッド』などのヒット著作を持ち、ママたちからの信頼を集める“もりたま”先生にとっても、コロナ禍の子育ては想定外のことばかりでした。
“もりたま”先生は、自らの子どもに何をして、何をしなかったのか? 「2020年〜2021年:子育てのニューノーマル」を森田医師自らが書き下ろしました。
第二子妊娠中に、3歳長男とつくった「新しい生活様式」
新型コロナウイルスに振り回された2020年。「第3波」とも言われる中、お子さんをもつママ・パパのみなさんは、どんなことを感じていらっしゃるでしょうか。
我が家には3歳の長男がいますが、2020年の年明けすぐに二人目の妊娠がわかるという状況の中、自分たちなりの「新しい生活様式」をつくってきました。
ウイルス感染を予防するための対策と、日常の子育てや教育、生活の中で自分自身や子どもたちの心を豊かにするための方法は、真逆の方向になってしまうことがあります。それをどう両立させていくのか、柔軟に考えていくことに苦心した1年だったように思います。
科学的な思考の難しさや限界を改めて感じるとともに、科学の力、科学的リテラシーの大切さもまた感じました。
3歳長男へ コロナを伝えるポイント
幼稚園に入園予定だった長男は、入園式の前日に緊急事態宣言が発令され、いきなり自宅で過ごす時間が始まりました。
最初は「春休み」だからお休みなのだと説明していたのですが、ショッピングモールのお店が全部閉まっていたり、手の消毒やマスクをつけることが必要な場面もあり、「どうして?」という息子の疑問にきちんと答える必要がでてきました。
お散歩にでかけて、賑わっていたお店が全部閉まって閑散としているのを見ると、私自身不安を感じることもありましたが、そんな親の不安が子どもに伝わってしまうのは本意ではありません。
1.コロナウイルスの病気が流行していること。
2.その病気にかかると、すぐ治る人もいるけれどとても具合が悪くなってしまう人もいること。
3.だから、病気にかからないようにマスクや手指衛生が必要なこと。
4.お店が閉まっているのも、ウイルスの流行が原因であること。
このようなポイントをおさえて、事実をできるだけわかりやすく伝えることに努めました。
石鹸に殺菌成分はいらない? おすすめの消毒液とは?
実際の感染予防で重視したことは、とにかく手をこまめに石鹸と流水で洗うことです。石鹸の種類に関しては、殺菌作用のあるものでも、無いものでもどちらでも感染症を予防できるという研究結果があります(※1)。
また、一般的に石鹸に配合される殺菌成分は、ウイルスには効果が期待できません。今回問題になっているのは細菌ではなくウイルスの感染症なので、以前から使用していた普通の液体石鹸で、指の間や親指まわり、手の甲もしっかり洗うよう教えました。
※1=2004年アメリカ・コロンビア大学で行われた研究。238家庭を2グループに分け、殺菌成分入り石鹸や洗剤を使うグループと殺菌成分なしのグループで比較したところ、48週間の感染症の症状発生率に差がなかった。
Larson EL, Lin SX, Gomez-Pichardo C, Della-Latta P. Effect of antibacterial home cleaning and handwashing products on infectious disease symptoms: a randomized, double-blind trial. Ann Intern Med. 2004 Mar 2;140(5):321-9. doi: 10.7326/0003-4819-140-5-200403020-00007. PMID: 14996673; PMCID: PMC2082058.
少し悩んだのは、アルコールの不足により出てきた色々な手指消毒の薬剤です。私は医師ではありますが、感染症の専門家でもなく、消毒薬についての非常に専門的な知識をもっているわけでもありません。これについてはネットで時間をかけて調べました。
次亜塩素酸水などに効果が全くないとは思いませんが、まだ利用方法や効果が確立されているものではないようです。手指消毒に最も適しているのはやはりアルコールでしょう。アルコールは効果が出るのが速く、手にスプレーしてこすり合わせる間に効果が十分発揮されます。また、揮発するので手に成分が残りにくいことも長所と感じます。
我が家では、石鹸と流水で手洗いできるときは手洗いをし、できないときはアルコールの消毒スプレーやジェルを利用していました。もちろん万全を期すなら、手洗いした後にもアルコール消毒をすればよいのですが、個人的にはそこまでは必要ないと判断しました。必要なときだけアルコールを使うことで、アルコールの消費量も抑えられます。
公園はOK、学びは図鑑DVDで
もうひとつ、大きな課題だったのは休園中の学びと遊びでした。緊急事態宣言から1〜2週間で、ありがたいことに幼稚園の動画レッスンの配信が始まりましたが、それも数十分で終わってしまいます。
結局、午前も午後も公園にでかけ、一緒に遊ぶ日々でした。公園で遊ぶことも色々な議論がありましたね。屋外の公園で遊ぶのも感染のリスクはゼロではありませんが、ずっと家に閉じこもるのも子どもの成長発達や親子の精神面のリスクがあると思います。
子どもが公園遊びが好きなのか、家で遊ぶのが好きなのかでも変わってくるでしょう。そしてどちらのリスクも、○%という数字で示されるものではなく、たとえ数字で示されても比較するのは非常に難しいですよね。
我が家では公園に行くことを選択し、結果としてそれで症状が出ることもなかったので良かったと思っています。公園で偶然お友達と一緒になることもありました。久しぶりのお友達との関わりは子どもにとってもプラスになったと思うし、親にとってもお友達と他愛もない話ができたことは救いになりました。ただ、もし症状が出て感染していたとしたら、公園に行かなければよかったと思ったかもしれません。
最終的にはそれぞれの保護者の考え方で決めるもので、正解はありません。こうした不十分な情報しかない中で、子どもや家族の健康に関わる決断を迫られたというのが、保護者にとっても大きなストレスになっていたと思います。
家で過ごす時間のために市販のドリルやお絵かき、粘土などももちろん用意しましたが、ずっと一緒に遊ぶのも私が疲れてしまうので、動画やアプリにも頼りました。
動画は見せてはいけないとは思いませんが、せっかく見るのなら学びにつながるものを見てほしいという気持ちで、図鑑のDVDをみせてみたのですが……これが大ヒット!
とにかく電車が好きな息子でしたが、海の生き物や恐竜、昆虫など、図鑑の付録DVDをきっかけに興味の幅がずいぶんと広がりました。算数やひらがなのアプリも、ゲーム感覚で楽しめるようで、数かぞえや具体物での足し算引き算の導入、しりとりなど学んでいました。
赤ちゃんや小さいお子さんは、動画は内容というより映像や音楽として楽しむようですが、2,3歳ころからは動画の内容を理解できるようになると言われています(※2)。幼稚園に入る頃からは、動画やアプリを学びにつなげることもやりやすくなってくるでしょう。
※2=Anderson DR, Subrahmanyam K; Cognitive Impacts of Digital Media Workgroup. Digital Screen Media and Cognitive Development. Pediatrics. 2017 Nov;140(Suppl 2):S57-S61. doi: 10.1542/peds.2016-1758C. PMID: 29093033.
緊急事態解除以降、幼稚園は再開しましたが、息子もすっかり登園時のおでこの検温や手指消毒、マスクに慣れて、時代が変わってしまったんだなと感じます。
最近では息子の指のささくれが気になるのですが、他にもそういうお子さんがいるようです。幼稚園のママたちの間でも「消毒とかするから3歳にして手荒れ!?」なんて話していましたが、もしかすると、コロナウイルス以降の時代の子どもたちは、ハンドクリームも使うようになるのかもしれませんね。
〔連載第2回〕東大医学部卒ママ医師が〔コロナ禍で妊娠中〕にやったこと、しなかったこと
PROFILE
森田麻里子(もりたまりこ)
医師、小児睡眠コンサルタント、Child Health Laboratory代表。1987年、東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業。2017年に長男、2020年に次男を出産。長男の夜泣きに悩んだことから、睡眠についての医学研究の徹底的に調査。赤ちゃんの睡眠と健康をサポートする「Child Health Laboratory」を設立。著書に 『医者が教える赤ちゃん快眠メソッド』(ダイヤモンド社)、 『東大医学部卒ママが教える科学的に正しい子育て』(光文社新書)がある。
“もりたま”先生が監修した、赤ちゃんの寝かしつけ動画がこちら。赤ちゃんには画面は見せず音だけを聞かせてみて。
【You Tube】2020年「ムーニーちゃんのおやすみトントン 」60分繰り返し
今も新型コロナは第3波で、感染拡大する一方です。“もりたま”先生のアドバイスを参考に、子どもには、わかりやすく事実を伝えて、「手洗い」と「消毒」、そして日々の「学び」と「遊び」を忘れずに。この時代を乗り越えるための「子育てのニューノーマル」を実践していきましょう。
森田 麻里子
Child Health Laboratory代表。1987年、東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業。2017年に長男、2020年に次男を出産。長男の夜泣きに悩んだことから、睡眠についての医学研究を徹底的に調査。赤ちゃんの睡眠と健康をサポートする「Child Health Laboratory」を設立。最新著書『子育てで眠れないあなたに 夜泣きドクターと睡眠専門ドクターが教える細切れ睡眠対策』(共著:伊田瞳/KADOKAWA)のほか、『医者が教える赤ちゃん快眠メソッド』(ダイヤモンド社)、『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』(光文社新書)が発売中。 「Child Health Laboratory」 https://child.healthlabs.jp/
Child Health Laboratory代表。1987年、東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業。2017年に長男、2020年に次男を出産。長男の夜泣きに悩んだことから、睡眠についての医学研究を徹底的に調査。赤ちゃんの睡眠と健康をサポートする「Child Health Laboratory」を設立。最新著書『子育てで眠れないあなたに 夜泣きドクターと睡眠専門ドクターが教える細切れ睡眠対策』(共著:伊田瞳/KADOKAWA)のほか、『医者が教える赤ちゃん快眠メソッド』(ダイヤモンド社)、『東大医学部卒ママ医師が伝える科学的に正しい子育て』(光文社新書)が発売中。 「Child Health Laboratory」 https://child.healthlabs.jp/