2022.01.19

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子どもを「褒められ中毒」にしない 根拠ある「褒め方」「なぐさめ方」

東大教授・遠藤先生に聞く「子どもの褒め方・叱り方」#4 子どもの「褒め方」

東京大学大学院教授:遠藤 利彦

写真:アフロ

褒めて育てようという風潮がある昨今、「すごいね」「えらいね」という褒め言葉を、積極的に子どもに伝えているという親御さんも多いのではないでしょうか。
 
しかし一方で、「褒め続けているだけで本当にいいのだろうか?」という疑問がわいてくるのも確かです。

東京大学大学院教授であり、教育心理学者の遠藤利彦先生に「子どもの上手な褒め方」について教えていただく本連載。

第4回は、大きな成長を遂げる、効果的な褒め方のコツについてです。

(全5回の4回目。#1#2#3を読む)

幼い頃に大切にされた経験の蓄積が、自己肯定感を育む

――巷では子どもを褒めて育てるということを推奨しています。
確かに「がんばったね、すごいね」と、声をかけてあげると、子どもはとても嬉しそうにして、一生懸命取り組みはじめる姿をよく見かけます。

やはり積極的に褒めてあげると、子どもの自己肯定感や、やる気は育まれるということでしょうか?

遠藤利彦先生(以下、遠藤先生)「今、“自己肯定感”という言葉をよく聞くと思いますが、実際には『自己肯定感』と『自己効力感』の意味が混ざって使われていると私は感じています。

『自己肯定感』は、自尊心とも言い換えることができます。

自分は無条件に人から受け入れてもらえ、愛してもらえる存在だという、自らの存在や価値を肯定的に受け止めることができる感情のことです。

一方で、『自己効力感』とは、自分はやればできる、ある状況において、自分が行動すれば結果がついてくると感じることができる感情のことです。

小さな頃にどんなに激しく泣いても、お母さんやお父さんが抱っこをしてあやし、大切にしてくれて、愛してくれる。
そんな経験の蓄積から、私たちは“自分は大切な存在なんだ”、という『自己肯定感』を育みます。

そして、この『自己肯定感』がベースにあるからこそ、子どもは自発的に行動し、その行動によって結果がついてきたら、

“自分はやればできる”

という自己効力感を得るのです」

親は子どもにとっての「避難所」であり、「基地」

――つまり、なにがあっても無条件に愛してくれるお母さん、お父さんがいるから、子どもたちは挑戦ができる。
そして、その挑戦を通して自分は頑張れる、結果を出せる、という自信を身につけていくのですね。

遠藤先生「そうです。褒めて育てることはもちろん大切なのですが、まずは子どもにとって親は、

“戻ることができる場所であり、安心感を得て元気になれる場所”

になってあげることが大切です。

親は子どもにとっての“避難所”であり、“基地”でもあるのです。

例えば、子どもが失敗をしたときは、避難所となり、無条件に受け止めてあげる。そして、そこで安心して元気になったら、基地として外の世界へ飛び出すように背中を押してあげましょう。

避難所と基地の役割がちゃんと機能していると、子どもは様々なことに挑戦をして、自分はやればできる! という自信を身につけて成長していくのです」

不安に感じている子の背中を無理に押す必要はない

――親の愛情を支えに、子どもたちは少しずつその世界をひろげて、自分の力をつけていくということですが、子どもによっては、引っ込み思案でなかなかお母さんお父さんの側から離れられないというお子さんもいます。

そういった気質のお子さんも、積極的に背中を押してあげるべきでしょうか?

遠藤先生「子どもは好奇心と同時に、恐怖や不安も併せ持っています。

あれもやりたい、これも楽しそう……。でも、怖いかも。

そういう気持ちを行ったり来たりしながら生活をしています。

成長とともに恐怖や不安を徐々に払拭して、自分の行動範囲を広げていきますが、恐怖や不安の感受性が高い子は、積極的に行動をしたがらない場合もあります。

しかしだからといって、無理に背中を押す必要はありません。そういう子どもも、よく見てみると親の背中からこっそりと興味のある方を見ていたりするのです。

本当は気にかかっているけれど、まだ勇気がないだけで、好奇心は間違いなく芽生えています。
そのうちきっと、恐怖に打ち勝って挑戦をしていくはずなので、それまでは見守ってあげてください。

そして、いつか一歩前に出ることができたときにたくさん褒めてあげましょう」

――そう考えると、やはり褒めて育てるというのはとても大切なことなのですね。

遠藤先生「もちろん褒めることは大切です。ただ、褒める場合には根拠を伴わせて褒めることが大事です。

先ほどの例であれば、引っ込み思案な子がお友達の輪に加われた、ということを根拠に褒めていますよね? 

実はなんの根拠もなく、とにかく褒める、というのは逆効果だと言われています。

アメリカでは、1980年代~90年代にかけて、自己肯定感や自尊心を身につけると、子どもは自ら努力をして、成績もよくなり、さらに悪いこともしなくなる、などと言われ、とにかく子どもを褒めて自己肯定感を高めるという活動が積極的に行われました。

しかし、90年代の終わり頃、その活動を広めた学者自身が“活動に効果はなかった”と認めているのです。

つまり、根拠のない褒めには意味がなく、子どもががんばって成し遂げたという根拠があるときに褒められて得た自尊心には意味があるということです。

なんの根拠もなく、ただ褒められて“自分はすごいんだ!”という、空の自尊心は決してプラスに働くことはなく、子どもは“褒められ中毒”になってしまいます」

――褒められることに慣れてしまう、ということでしょうか?

遠藤先生「褒められることに慣れるというよりは、親に褒められる=評価されることが大切だと思ってしまい、逆に挑戦をすることをしたがらなくなってしまうのです。

いたずらに褒めて、期待されているということだけを植え付けられると、失敗をすることを恐れ、難しい課題に挑戦しなくなると言われています。

褒めて育てることは正しいのですが、褒め方に気をつけて、子どもの成長のチャンスを潰さないようにして欲しいですね」

“できたよ!”という子どもの言葉には、一緒になって喜び、褒めてあげる。そして、失敗をして落ち込んでいる時には、親は避難所と基地の役割を機能させる。

最終回となる第5回は、「他の子と自分の子をつい比較してしまう」というお母さん、お父さんの悩みにお答えます。

取材・文/知野美紀子

遠藤利彦教授のインタビューは全5回です。

えんどうとしひこ

遠藤 利彦

東京大学大学院教授・教育心理学者

東京大学大学院教育学研究科教授、同附属発達保育実践制作学センター(Cedep)センター長、心理学博士。 山形県生まれ。東京大学教育学...

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