絵本ナビ編集長がおすすめする 3歳の子どもが読むのにぴったりな絵本

絵本の情報サイト「絵本ナビ」編集長の磯崎園子さんが『絵本と年齢をあれこれ考える』エッセイ第5回

磯崎 園子

うらやましいと言えば、『おばけのバーバパパ』(アネット・チゾン、タラス・テイラー・作 山下 明生・訳 偕成社)。地面から生まれ、姿を自由に変えられる、この愛嬌たっぷりのおばけバーバパパの住む世界を「本当にいるかもしれない」という気持ちで読むことができたなら。

私にもそんな時代があったことをほんのり思い出しながら、子どもに読む時には、夢を壊さないように気をつける。
「おばけのバーバパパ」

耳から楽しむ絵本

文字を読まずに、耳でしっかりと聞きとめるからこそ、その響きに敏感になるのもこの年齢。耳で覚えた言葉を確かめるように、例えば登場する果物の名前を端から順番にすべて声に出して読んでいく。恐るべし記憶力。

あるいは、読んでもらって覚えたお話を、あたかも文字を読んでいるかのように読み聞かせてくれる。その物語はおおよそ自分流。なんだか才能に溢れる3歳児なのである。となると、響きが印象的なお話は、やはり人気絵本として読み継がれていく。
『めっきらもっきらどおんどん』(長谷川 摂子・作 ふりや なな・画 福音館書店)は、お話は少し複雑でも繰り返し読みたくなる。

真剣に耳を傾けている彼らにとって、「ちんぷくまんぷく」「めっきらもっきら」「どおんどん」というでたらめな歌が、面白くないわけがない。もちろん物語全体にリズム感があるからこそ、夢中になってしまうのだろう。
「めっきらもっきらどおんどん」
『へんしんトンネル』(あきやま ただし作・絵 金の星社)も、言葉遊びの絵本として考えると3歳には少し早いのかもしれない。けれど主な読者層はやっぱり3歳。

「かっぱ かっぱ かっぱ かっぱ」と声に出して読んでいると、いつの間にか「ぱかっ ぱかっ ぱかっ ぱかっ」と変身した馬が走っていく。見れば小さな子どもたちだって大笑い。聞いていれば、ちゃんと楽しめてしまうのだ。
「へんしんトンネル」
自転車の前かごに乗った3歳の息子が上の方を見上げながら「……木はいいなあ」とつぶやいた時の大人っぽい表情に驚かされたことがあったのだが、それもやっぱり絵本『木はいいなあ』(ユードリイ・作 シーモント・絵 西園寺 祥子・訳 偕成社)の響きが体に染みついていたのだろう。
「木はいいなあ」

空想と現実が溶け合う時間

しっかりとした足取りで走り回り、嬉しい時には飛び上がり、うまくいかない時には泣いたり怒ったり。新しいおもちゃに興奮し、知らないお友だちに緊張し、大好きなノラネコを追いかける。美味しいごはんを食べた後は、ちょっと苦手なお風呂タイム。3歳の一日は本当に長い。疲れきっているからこそ、寝る前にはたっぷり甘えたい。

「ママ あのね……きのうのよるね、うんとよなかに かわいいこが きたんだよ。」
「よるくま」
こんな呼びかけで始まるのは、『よるくま』(酒井 駒子・作 偕成社)。おやすみ前のベッドの中で、男の子は昨日の夜の不思議な出来事を話し出す。

大好きなお母さんをさがすよるくまのために奮闘しながら、男の子も、読んでもらっている自分も、母の声に包まれて眠りにつく。おやすみなさい。空想と現実が溶け合いながら過ごす3歳の時期に、こんな幸せな時間を持つことが重要なのは言うまでもない。
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