絵本ナビ編集長がおすすめする 5歳の子どもが読むのにぴったりな絵本

絵本の情報サイト「絵本ナビ」編集長の磯崎園子さんが『絵本と年齢をあれこれ考える』エッセイ第9回

磯崎 園子

絵本と年齢をあれこれ考える「でも、どこかで信じている」
絵本の情報サイト「絵本ナビ」編集長の磯崎園子さんが『絵本と年齢をあれこれ考える』エッセイです。

第9回目は、5歳児と絵本「でも、どこかで信じている」。

でも、どこかで信じている

自分の家には、まだ入ったことのない二つの知らない部屋がある……はずだ。一つは台所と居間を分ける大きな壁の中にあり、もう一つは階段の下にある扉のずっと奥深くにある。そこは少し暗いけれど、テーブルがあってみんなが座れるイスもある。友だちを呼べるだけのスペースもあるし、パーティーだって開ける。母親が時々そこに出入りしているのは、きっと食べ物をしまっておくためだ。
空想の世界はよりリアルに
小さい頃の私は、そんな空想を長いこと続けていた。もちろん、そんな部屋は存在しない。5歳の私にもわかっている。わかっているけれど、でもどこかで信じてもいるのだ。目を閉じ、根気よくその部屋の細部を思い浮かべていくと、まるで今日もその部屋に行ってきたような気持ちになれるのだ。

空想の世界の存在を

「さくらほいくえんには、こわいものが ふたつ あります」で始まるのは、『おしいれのぼうけん』(古田 足日、田畑 精一・作 童心社)。

一つは「おしいれ」、もう一つは「ねずみばあさん」。そのあまりに迫力のある風貌に「ねずみばあさんが出てくる絵本」として覚えている人も多いだろう。毎回手にとるたびに、こんな始まりでは5歳の頃の子どもたちは怖くて読めないのじゃないかと思ってしまう。
「おしいれのぼうけん」
ところが、絵本ナビに寄せられてくるレビューには「いつの間にか食い入るように絵本を見つめ、集中している」「長いお話なのに最後まで聞き、何度も読んでとせがまれるように」「読むたびにワクワクドキドキしている我が子の顔を見るのが楽しい」という声が続く。
これは一体どういうことなのか。ケンカをして騒いでいたさとしとあきら。真っ暗なおしいれに閉じ込められ、先生はあやまるまで出してくれないと言う。絶望的な状況だ。ところがこの絵本には、続きがちゃんと用意されている。

不思議な光が差し込んだかと思えば、トンネルのように見えていた壁の模様が本物となり、 そのトンネルを抜けた先には……? 読んでいる子どもたちは知っている。その先に続いている別の世界の存在を、そしてそこに向かっていく楽しさを。だからこそ、つばを飲み込みながらもじっと待っているのだ。
空想の世界を信じて
絵本の中で、ねずみばあさんを演じ終わったみずの先生のところに、子どもたちが駆けよっていくように、絵本を読んだ子どもたちもまた、読む前よりも少し楽しそうな顔をして、もう一度読んでとばかりに絵本を差しだす。こんな風に、5歳の頃の子どもたちは「空想の世界の存在」というのを、意識して信じることができるようになってきている。

さらに育てる

『おおきな きがほしい』(佐藤 さとる・文 村上 勉・絵 偕成社)は、主人公のかおるが母親に話しかけるところから始まる。「おおきな おおきな 木があるといいな。ねえ おかあさん」その理由を聞くと、かおるの考える自由な空想はどんどん育っていく。それは手がまわらないほど太い幹のある木で、はしごをかけて登っていくと、そこにあるのは小さくて素敵な部屋! 食卓や台所があり、ホットケーキまで焼けてしまうのだ。
「おおきな きがほしい」
さらに上へ登っていくと、見晴らし台。遠くに山が見え、風がさっと吹くその場所の気持ちのいいこと。夏が過ぎれば枯れ葉が舞いこみ、冬になればストーブを用意し、やがてまた暖かい春が来る。季節までめぐらせてしまうその空想は、とても具体的で現実的。
読み終えた後、「おかあさん、続きが読みたい。植えた木はどうなるの?」と聞いてきたというのは5歳の男の子。私だって、かおると同じ木が植えたくなる。でも、どこかでやっぱりそれは「空想だからこそ」という気持ちも持っている。

それなりの決意を持ちながら

もう少し大人っぽい世界を見せてくれるのは『かようびのよる』(デヴィッド・ウィーズナー・作・絵 当麻 ゆか・訳 徳間書店)。これは火曜日の夜に実際にあったことだと始まりながら、繰り広げられるのは信じられない光景の数々。月の光を浴び、蓮の葉に乗ったカエルたちが一斉に浮かびあがり、町の方へと向かっていく。
「かようびのよる」
リアルに描かれた無表情のカエルたちは、淡々と飛び続け、風に吹き飛ばされ、おばあさんの部屋で楽しんでいたかと思うと、犬に追いかけられる。ほとんど言葉がなく、無音のまま見るそれらの世界。小さな子が見れば少し怯んでしまいそうだけれど、なぜかとても美しく幻想的。その光景は見てみたかった気もするし、懐かしく感じることだってあるのかもしれない。彼らは、思っている以上にすんなりと受け入れてしまう。
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