絶滅生物が伝説や神話のモチーフに!? イギリスに伝わるアンモナイトの伝説とは?

【ちょっとマニアな古生物のふしぎ】古生物学者・相場大佑先生が見つけた古生物のふしぎ

古生物学者:相場 大佑

現代のウィットビーで見つかるアンモナイト化石

ウィットビーの海岸では今でもたくさんのアンモナイト化石が見つかります。つまり、海岸で見つかるそのアンモナイトの化石こそ、石化して崖から落とされたかつての蛇の成れの果てである、ということです。実際、ウィットビーで見つかるアンモナイトの多くは、巻きが緩く、まさに蛇がトグロを巻いたような形をしています。この形を見て、昔の人々が蛇を連想したのも納得です。

この伝説は、ウィットビーの町の始まりの物語でもあるため、今でも大切に語り継がれているそうです。街の紋章にも巻きの緩いアンモナイト化石が描かれており、この伝説にちなんで蛇の顔が彫られたアンモナイト化石の置物もたくさん作られ、幸運のお守りとして大切にされてきました。さらには、この伝説に因んで正式に命名された「ヒルドセラス」という種類まであります。
蛇の顔が彫られたアンモナイト(ダクティリオセラス・コムン)(左)とヒルダの名を冠したアンモナイト(ヒルドセラス・ビフロンス)(右)。どちらもイギリス・ヨークシャー州ウィットビー産。
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化石にまつわる昔話

現代に生きる私たちは、たとえば「恐竜は大昔に絶滅した爬虫類の1グループである」と、その化石の正体を知っています。しかし、科学が十分に発達する前の時代では、絶滅してしまった生きものの化石は多くの人々を悩ませませる存在でした。

昔の人は必死にその正体を考えたと思います。しかし、現代の生物の形と違うために、何の種類の生物のものかわからない、あるいは大昔の地球上に今とは異なる生物が生きていたという考え自体がそもそもなかった時代もあります。その結果、その化石を神や超自然的な力に結びつけて考え、伝説や怪異、神話などに関係する神秘的な物の証拠と見なしたのです。

アンモナイトの化石には、ウィットビーの蛇石伝説のほかにも、世界各地でさまざまな伝説が存在します。これらの伝説は、昔の人々が絶滅生物の化石をどのように理解し、考えていたのかをうかがい知ることができる興味深いものです。

化石には大昔に生きたその古生物自身の生態や進化、周りの環境などの他、人々の歴史や文化に根ざした物語が隠されていることがあるんですね。
画像出典元文献
ウィットビー修道院;聖ヒルダのモニュメント像:パブリックドメイン
蛇の顔が彫られたアンモナイト(ダクティリオセラス・コムン):Wikimedia commons, James St. John. (Snakestone (Dactylioceras commune ammonite, Whitby Formation, Lower Jurassic; Yorkshire coast, England))
ヒルダの名を冠したアンモナイト(ヒルドセラス・ビフロンス):筆者所蔵・撮影
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あいば だいすけ

相場 大佑

Daisuke Aiba
古生物学者

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。