絶滅した古生物はどうやって復元するの? アンモナイトが現在の復元図になるまでの歴史を紹介
【ちょっとマニアな古生物のはなし】古生物学者・相場大佑先生が見つけた古生物のふしぎ
2023.12.06
古生物学者:相場 大佑
アンモナイトの復元の歴史
この他にも、さまざまな恐竜・古生物に復元の歴史があるのですが、今回は、これまで日本ではあまり紹介されてこなかったアンモナイトの復元の歴史を紹介したいと思います。
最初の復元画
アンモナイトは渦巻き状の殻を持っていますが、イカやタコ、オウムガイと同じ頭足類の仲間です。
アンモナイトの歴史上もっとも古い復元画は、1830年にヘンリー・デ・ラ・ビーチにより制作された有名な絵画の一部に見られます。この絵画はイギリスのジュラ紀の海岸を描いたもので、魚竜「イクチオサウルス」や首長竜「プレシオサウルス」、翼竜「プテロダクティルス」などとともに、アンモナイトが描かれています。
アオイガイも渦巻き状の殻を持ちますが、アオイガイの殻とアンモナイトの殻は、起源も構造も機能もまったく異なるものです。アオイガイの腕の一対は、殻を作るために大きく平べったく変形していて、これが復元画に見られるウサギ耳の由来です。
オウムガイを参考にした復元画の登場
その後、アンモナイトとオウムガイの殻の構造がよく比較され、アンモナイトと近いのはアオイガイよりもどうやらオウムガイのほうだ、ということになり、19世紀後半(1870年ごろ)にはオウムガイを参考にしたと思われる復元画が描かれるようになり、20世紀初頭(1910年ごろ)にはこのスタイルがすっかり定着しました。
最近(2010年以降)では、様々な発見によりアンモナイトのイメージはかなり固定されました。
まず、アンモナイトの赤ちゃんのときの姿や、口の部分の特徴が、オウムガイよりもイカのほうによく似ていて、系統的にイカに近いことがわかり、イカをベースとしたものが多くなりました。
また、かつて主流だったオウムガイのようなフードが付けられることは少なくなりました。なぜフードをつけなくなったかというと、少し難しいお話ですが、フードはオウムガイが進化の中で独自に獲得した特徴であることがわかり、別の進化を辿ったアンモナイトが、オウムガイと同じようにフードを進化させた根拠がなくなったためです。(以前はオウムガイが頭足類の中ではもっとも古くから存在しているということから、オウムガイがもつ特徴が、頭足類の基本のように考えられていたようなところがありました)
この他にも、アンモナイトだけでなく、すべての頭足類の腕の本数は基本数の10本から、進化の中で減らしたり(タコ=8本)、増やしたりしていた(オウムガイ=60〜90本)ことや、大きな眼の痕跡が残ったアンモナイトの軟体部の化石、腕の先についていた鉤爪の化石などの重要な発見がありました。
このように、以前よりもアンモナイトの姿が鮮明にわかり、フードがなく、10本腕で目が大きいイカのような姿が、現時点での最新知見によるアンモナイトの復元です。
おわりに
以上がアンモナイトの復元の歴史です。
最初のものと最新のものを改めて比べてみると結構違いますね。
もちろん、現在の復元画が「正解」とは限りません。まだまだよくわかっていない体の部位はありますし、アンモナイトは3億年以上に渡り進化し、1万種以上も存在していました。現在生きているイカやタコの種数は700種ほどですが、その姿はものすごく多様ですので、1万種以上いたアンモナイトはもっと多様だったはずです。中には私たちの予想もできないような姿をしたものもいたかもしれません。
今後の研究でアンモナイトの姿に関する新しい発見があったら、アンモナイトの復元画はまた変わっていくかもしれません。楽しみですね。
図鑑に載っている復元画を見比べてみよう
皆さんのお手元に少し昔に出版された恐竜・古生物の図鑑と最近出版された恐竜・古生物の図鑑があったらぜひ見比べてみてください。姿が変わっている恐竜・古生物はあるでしょうか? そういう視点で見てみると図鑑に載っている復元画も、古生物学という学問も、もっともっと楽しめるかもしれません。
1、2、4、5枚目:パブリックドメイン
3枚目:左・右上:パブリックドメイン、右:©Rebecca R. Helm. Image by Songda Cai. 元画像をトリミング(Wikimedia Commons; CC BY-SA 4.0)
6枚目:Schindewolf, O. H. 1958: Über Aptychen (Ammonoidea). Palaeontographica, 111A, 1-46. より引用。
7枚目:動く図鑑MOVE『あつまれ どうぶつの森 島の生きもの図鑑』より イラスト/川崎悟司
相場 大佑
深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。
深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。