白亜紀末期の海の王者 モササウルスはアンモナイトを食べた? アンモナイト化石に残る嚙み跡の正体とは?

【ちょっとマニアな古生物のふしぎ】古生物学者・相場大佑先生が見つけた古生物のふしぎ

古生物学者:相場 大佑

アンモナイトの化石についた嚙み跡はモササウルス?

モササウルスの復元画 「MOVE大むかしの生きもの」より。
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アロサウルスvsステゴサウルス、ヴェロキラプトルvsプロトケラトプス、アノマロカリスvs三葉虫……。化石に残る古生物同士の命をかけた闘い。「食う」「食われる」の関係性は私たちの関心を惹き、その真相や勝負の行方は目が離せないものです。

中生代白亜紀の海中の闘いの例では、海棲爬虫類のモササウルスがアンモナイトを襲ったのではないかという説があります。
アンモナイトに空いた穴

事の発端は、殻に奇妙な穴が空いたアンモナイトの化石がアメリカで発見されたことです。殻に空いた穴は複数、しかも綺麗に2列に並んでいました。1960年、アール・カウフマンとロバート・ケスリングは、この穴は海棲爬虫類モササウルスによる嚙み跡であると解釈しました。
嚙み跡と思われる穴が空いたアンモナイトの化石(複製)。Aathal Dinosaur Museum(スイス)の展示。
海中を泳ぎ、アンモナイトを食べようとする姿は、モササウルスの獰猛さの象徴として広がり、多くの復元画や模型が制作され、化石とともに博物館などで展示されるようになりました。
アンモナイトの模型の横に置かれた モササウルス類 Clidastes propython の化石(Mountain America Museum of Ancient Life の展示)。©Ninjatacoshell (https://ja.wikipedia.org/wiki/クリダステス; CC BY-SA 3.0)
アンモナイトの穴はカサガイの仕業だった?

しかし、1990年代になって、モササウルスがアンモナイトを食べたという説が疑われるようになりました。国立科学博物館の加瀬友喜らは、日本とロシア、アメリカで見つかった同様の穴があるアンモナイトを詳しく調べました。穴の形を詳しく観察すると、穴にはわずかな段差があることがわかり、モササウルスが力一杯嚙みついた跡だとすると、おそらくそのような形の穴にはならないのではないかと指摘されました。では、その穴は誰が空けたのか? 候補として挙げられたのが、意外にもカサガイという少し変わった巻き貝のなかまでした。

カサガイは頭にかぶる笠(もしくは雨の日にさす傘)のような形をしていて、現生のものは海岸の岩などにくっついて生きています。モササウルスが生きた中生代よりももっと古い古生代の前半にはすでに登場していました。
海岸の岩に張り付くカサガイ。
アンモナイトに空けられた階段状の穴の形は、現在も生きているカサガイが空けた穴とそっくりでした。さらに、アンモナイトの殻の上にカサガイが張りついた状態の化石、そして穴の付近にはカサガイがもつ「歯舌」という細かい硬い舌の様な器官でつけたものによく似た傷が見つかりました。

さらに、アンモナイトとよく似ていて現在も生きているオウムガイの殻をモササウルス型のロボットに噛ませて、アンモナイトの化石に見つかっているような穴にはならないことが確認されました。
アンモナイトに空けられた穴とカサガイの住まい痕の比較。Kase et al. (1994, 1998) を参考にして作図。
モササウルスはアンモナイトを食べたのか

このようにして、アンモナイトに空けられた穴はどうやらカサガイの仕業であるらしいことがわかり、残念ながら(?)モササウルスが食べた跡ではないと考えられるようになりました。

しかし、アンモナイトの化石に空いた穴がモササウルスによるものではない、というだけで、モササウルスがアンモナイトを食べなかったと断言するものではないと加瀬らは論文に記しています。もしかしたら、モササウルスはアンモナイトなど丸吞みしてしまったかもしれないし、嚙みついて原型を留めないほど殻を粉々に砕いてしまったかもしれません。

モササウルスとアンモナイトの関係性の真相は果たして……?
モササウルスの胃内容物の化石を詳しく調べたりしたら、今後その結論が出るかもしれません。
参考:
Kauffman E.G. & Kesling R.V. (1960): An Upper Cretaceous ammonite bitten by a mosasaur. Contrib. Mus. Paleontol., Univ. Michigan, 15, p. 193–248.
Kase T., Shigeta Y. & Futakami M. (1994): Limpet home depressions in Cretaceous ammonites. Lethaia, 27, p. 49–58.
Kase T., Johnston P.A., Seilacher A. & Boyce J.B. (1998): Alleged mosasaur bite marks on Late Cretaceous ammonites are limpet (patellogastropod) home scars. Geology, 26, p. 947–950.
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あいば だいすけ

相場 大佑

Daisuke Aiba
古生物学者

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。