社会科で習う「歴史」や「地理」、そして「政治」などさまざまな学問の知識を総動員したのが「地政学」です。
「グローバル化が進み、世界の国々の結びつきが強くなるなか、これからもっと世界や外国の動き、それぞれの国の考え方を把握する必要がある」と、大人気児童書シリーズ『こども地政学 なぜ地政学が必要なのかがわかる本』(カンゼン刊/以下、『こども地政学』に略)の監修者・船橋洋一(ふなばし・よういち)さんは語ります。
地政学を学ぶメリットは、大きくいうと3つ。
「まずは、『今の世界の動きが見えてくる』こと。そして、『未来の動向を予測できるようになる』こと。さらに、地政学的な視点を持つことで、『歴史の勉強がおもしろくなる』。いずれもとてもプラス要素ですよね」とは担当編集者・坪井義哉(つぼい・よしや)さん。
今回は、『こども地政学』の内容を抜粋しながら、学校では教えてくれない地政学を親子で学んでいくうえで知っておきたい地政学用語をいくつか解説します。
※全4回の3回目(#1、#2を読む)
アメリカも島国! ランドパワーとシーパワーという2分類
「地政学には知っておくべき重要な考え方がいくつかあります」と、『こども地政学』(カンゼン刊)の担当編集者・坪井義哉(つぼい・よしや)さんは言います。
「地政学用語のなかでももっとも重要なのが、①『ランドパワー』と②『シーパワー』という言葉です」(坪井さん)
陸続きで他国と国境を接している中国やロシアのような大陸国家は「ランドパワー」、島国の日本やイギリスのように長い海岸線をもつ海洋国家は「シーパワー」と呼ばれます。
「アメリカはシーパワーの国です。『アメリカも島国?』という感じもしますが、国土の東西に海があり、海岸線が長いので、地政学ではアメリカを大きな島とみなします。
ランドパワーは陸続きで国が接しているために、古くから国境を越えて陸づたいに侵略したり、侵略されたりしてきた歴史をもっています。一方、シーパワーは周囲を海に囲まれているので、侵略されることは多くありません」(『こども地政学』より抜粋)
このような歴史的経験から、「島国の日本には島国なりの考え方、大陸国家の中国には大陸国家なりの考え方をもっている」(坪井さん)とも。
「日本のようなシーパワーと、中国のように多くの国と国境を接しているランドパワーでは、『自分たちの土地をどう守るか』も変わってきます。地理的条件によって、その国の考え方が異なってくる、ということです」(『こども地政学』より抜粋)
入れ替わり続ける「ランドパワー」と「シーパワー」の優位性
世界の歴史を振り返ると、この「ランドパワー」と「シーパワー」は、交互に入れ替わるように力を持ってきたことがわかる、と『こども地政学』には記されています。
「15世紀ごろまでは航海技術が未発達だったので、ランドパワーが優位でした。モンゴル帝国がユーラシア大陸一帯を支配したのがその代表例です。
大航海時代になると、ポルトガルやスペインなどのシーパワーの時代になります。
19世紀になって鉄道が登場し、陸上輸送網が発達するとロシアやドイツなどのランドパワーが台頭してくるように。20世紀には海軍力を持ったアメリカや日本が成長してきます」(『こども地政学』より抜粋)
このように地政学的視点を持って歴史を振り返ると、これからの世界のことがより鮮明にとらえられるようになります。
世界のバランスの取り方は?
地政学にはほかにも、いろいろな考え方があります。③「バランス・オブ・パワー(勢力均衡)」や、④「オフショア・バランシング」です。
「『バランス・オブ・パワー』は、さまざまな国々が敵対したり、友好関係を結びながら、互いの勢力を均衡させて平和を維持しようとするメカニズムのこと。このバランスが崩れると混乱が生じ、戦争が起こるとされています。
世界の国々は、互いに牽制(けんせい)し合ってバランスを取ることで国際平和を維持しているのです」(『こども地政学』より抜粋)
国と国の関係は永遠ではなく、“今日の友は明日の敵”になり得ます。
「日本と同じ島国であるイギリスは、かつて他国を支配・統制する覇権国(はけんこく)の地位にありましたが、近世以降、ヨーロッパ大陸に侵攻したことはありません。
第一次・第二次世界大戦のときにヨーロッパ大陸が戦場になっても、イギリスは沖合(オフショア)からヨーロッパを観察して、バランス・オブ・パワーを崩すような国が現れた『ここぞ!』というときだけ、その国の敵国と同盟を結んで協力し、バランスを維持しようとしました。
このような“敵の敵を味方にして自分を守る”という考え方を『オフショア・バランシング』といいます」(『こども地政学』より抜粋)