夢パーク運営団体がめざす “ひきこもり、生活保護”も一歩踏み出せるまちづくり

シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#2‐4 「川崎市子ども夢パーク」の運営団体「NPO法人フリースペースたまりば」(神奈川県川崎市)とは

ライター:太田 美由紀

近所の小学生が気軽に遊びに来られる居場所

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コロナ禍の2020年12月、フードパントリーを始めたことがきっかけで、駅に近い場所にコミュニティスペース「えんくる」をオープンしました。小さなカフェのようなスペースです。

近くには小学校もあり、放課後になると小学生が遊びにきます。友達とおやつを食べたりアナログゲームで遊んだりして過ごせる居場所です。時間によっては、保育園帰りの親子や、地域の高齢者も立ち寄ってお茶を飲んでいきます。

月に3回開催されている「えんくる食堂」(地域食堂)では、予約制で毎回50食を作ります。旬のものを使った「豊かな食体験」がテーマ。季節ごとの行事食を意識したメニューは大人にも子どもにも大好評です。そして、月1回の予約のいらないカレーランチも人気です。

2月の子ども食堂のメニュー。手作りで栄養バランスも満点。お弁当での持ち帰りも多い。  写真提供:えんくる
予約がいらない月に一度のカレーランチの様子。近所の子どもたちがやってくる。  写真提供:えんくる

月に一度は「相談カフェ」の日があり、「たまりば」の事務局次長でもある心理士の鈴木晶子(すずき・あきこ)さんがカフェにいます。心配ごとや困りごとを気軽に相談できるのです。

「相談の予約もできますが、予約をしてわざわざ相談に行くのは難しいという人は多い。ちょっと立ち寄ってついでに相談ができる場も大切にしています」(鈴木さん)

困っている人、困っていない人、助ける人、助けられる人は一瞬にして入れ替わることがあると鈴木さんは言います。そんなときにも、普段から通っている居心地の良い場所で、顔見知りのスタッフになら、相談しやすいでしょう。

西野さんをはじめ、それぞれの居場所のスタッフのみなさんが目指しているのは、どんなまちづくりなのでしょうか。

「ひきこもりも不登校も障害のある子どもたちも、虐待の心配がある家庭の支援もお年寄りも、地域の中でそれぞれが当たり前に受け止められるまちづくりが必要だと思っています。

『どう、元気?』『ご飯食べてる?』ってみんなが声をかけ合い、助け合えるまちをつくりたい。

僕たちのどの事業も、やっていることは本当にシンプルなんです。命そのもの、存在そのものをそのまま肯定していくだけでいいんです。

ひきこもりになったら大変で、社会に出られないと思う人もいるかもしれない。でも、存在を肯定されるあたたかい場所があれば、あなたがいてくれて幸せだよっていう空気がまちに充満すれば、誰もがみんな元気になるはずです。

子どもたちは、地域の人たちと一緒にご飯を食べて、いろんな人に出会って、かわいいねって抱っこされて、みんなに支えられて育っていく。そんなまちづくりを目指しています」(西野さん)

まち全体が「夢パーク」「フリースペースえん」「ブリュッケ」「えんくる」のような居場所であったなら──。

地域にどうすれば受け入れられるのかと試行錯誤した夢パークのスタートから20年。西野さんをはじめ、それぞれの居場所のスタッフは、そんな思いを実現するため、まちづくりを大きな目標に掲げて動き始めています。

〈教育学者・汐見稔幸先生から〉

私は子どものころ、大阪の堺という地域に住んでいました。近所ではいろいろな年齢の子どもたちが集まって一緒に遊んでいましたが、私はその中でいちばん年下でした。チャンバラごっこをやれば一番先に切られてしまいます。

同じ地域に、耳が聞こえないあきらちゃんという男の子がいました。その子はみんなと一緒に遊ばず、いつも一人外れて遊んでいました。私はすぐに切られてしまってつまらないので、子どもたちの集団よりも、その子とよく遊んでいたのを覚えています。

あきらちゃんは、近所のお年寄りからもかわいがられていました。今振り返ると、あのころはあたたかい縁でつながった社会ができていました。

学校に行くことができない。将来の展望が見えない。そんな子どもや若者たちは、自分のままで大人たちに肯定されることで、居場所があると感じ、自分の役割を見出していきます。その子がいるだけで周りのみんなに笑顔があふれる、というだけでも立派な役割です。

学校の成績以外のことで、その人が誰かの役に立てる場をもう一度作り直していく。それが、西野さんたちが取り組んでいることなのだと思います。

ブリュッケ、つまり架け橋となって、いろんな人をどうやってつなげていくのかが、今、まちづくりの大きな課題です。居場所を作るのは大変ですが、遊歩道の小さなベンチから、西野さんが作ろうとしているようなゆるやかなつながり、あたたかい居場所を作っていけるとよいかと思います。

取材・文/太田美由紀

汐見稔幸(しおみ・としゆき)PROFILE
1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

太田美由紀(おおた・みゆき)PROFILE
1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。

保育所、認知症デイホーム、地域の寄り合い所といった3つの機能をあわせ持つ施設「地域の寄り合い所 また明日」が一冊に。幼い子どもと認知症の高齢者が共に暮らす“強み”とは。『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(著:太田美由紀/風鳴舎)。
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おおた みゆき

太田 美由紀

編集者・ライター

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP

しおみ としゆき

汐見 稔幸

教育・保育評論家

1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。