夢パーク運営団体がめざす “ひきこもり、生活保護”も一歩踏み出せるまちづくり

シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#2‐4 「川崎市子ども夢パーク」の運営団体「NPO法人フリースペースたまりば」(神奈川県川崎市)とは

ライター:太田 美由紀

まちづくりを進めるため、地域の団体のキーパーソンが集まって交流を深める。中央が夢パーク・ブリュッケの運営を担う認定NPO法人フリースペースたまりば理事長の西野博之さん。  写真提供:ブリュッケ
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子どもと若者の居場所「川崎市子ども夢パーク(以下夢パーク)」(神奈川県川崎市)を運営しているNPO法人フリースペースたまりば(以下「たまりば」)は、今、地域をつなごうと動き始めています。

夢パーク内にある会員制「フリースペースえん」も「たまりば」の管轄です。不登校など学校や家庭、地域に居場所がない子どもや若者がまずは安心して過ごし、徐々に自分のやりたいことを見つけて動き出すことを目指しています。

また、「たまりば」では、学校を卒業後、社会とつながることができない若者たちの居場所「ブリュッケ」も川崎市内で運営しています。

不登校やひきこもりは、私たちにとって遠い対岸の話ではありません。頑張って大人たちの期待に応え続けている子どもたちが、ある日突然、学校に行けなくなることもあります。

家庭環境や社会の変化、いじめなどによって社会に対して不安感を感じ、家から出られなくなることもあるのです。

「たまりば」は、誰もが安心して暮らせる「まちづくり」を目指しています。それは、一体どんなまちなのでしょうか。

最後に教育学者・汐見稔幸先生にもご意見を伺いました。

※全4回(#1#2#3を読む)

誰が利用者で誰がスタッフかわからない

ある駅から徒歩圏内のビルの2階のワンフロア。「ブリュッケ」の入り口のインターホンを押して、少し緊張しながら返事を待ちました。

「はーい。どうぞお入りください」

やわらかい声で出迎え、中のスタッフがドアを開けてくれた途端、その隙間から、大勢の若者たちのにぎやかな笑い声が聞こえ、明るい活気を感じました。おまけになんとも不思議な香りもこぼれてきます。

玄関で靴を脱ぎながら首を傾げてキョロキョロとしていると、「今日は、お灸カフェと言ってお灸の講座をしていたんです。“もぐさ”のにおい、しますか?」とスタッフの方が笑っています。

家から出て働くことが難しい「ひきこもり」と呼ばれる若者たちの居場所と聞いて、筆者は少し偏ったイメージを持っていました。静かに過ごしているところに知らない人が急に訪ねてきたら、利用者さんたちも緊張してしまうのではないかと考えていたものの、緊張していたのは私だけでした。

カラフルな畳の上でゴロゴロできる空間、カフェのようにテーブルとイスがある空間、一人で集中して過ごせるデスクも。  写真提供:ブリュッケ

室内は明るくおしゃれな内装で、畳の上でゴロゴロできる空間と、カフェのようにテーブルとイスがある空間、そして、本格的なオープンキッチンやもたれかかっておしゃべりできるカウンターもありました。

ここも夢パークと同じように、講座にはやりたい人だけが参加。お灸カフェの間も、ギターを弾いている人やゲームをしている人もいます。

20人ほどの若者がリラックスして笑顔で楽しそうに過ごしています。誰が利用者で誰がスタッフかわからない。

お灸の講座がちょうど終わったタイミングだったようで、夢パークの運営を担う認定NPO法人フリースペースたまりば理事長の西野博之(にしの・ひろゆき)さんは、そんな若者たちの中で、睡眠のツボにお灸を据(す)え、座ったまま幸せそうに眠っていました。

この日のお灸カフェは、自律神経を整える呼吸のお話。お灸でリフレッシュしたあとは、手作りスイーツでティータイム。  写真提供:ブリュッケ

ひきこもりの若者たちの一歩

「ブリュッケは、ドイツ語で架け橋という意味です。不登校の子どもたちやひきこもりの人たちがいざ外に出たい、地域に出たいと思ったとき、夢パークの中の『フリースペースえん』だけじゃなく、いろんな場所に居場所があるといいなという思いからスタートしています」(西野さん)

正式名称は、川崎若者就労・生活自立支援センター「ブリュッケ」。今は主に、生活保護世帯で家から出ることが難しい若者たちが登録しています。開所(2014年)以降数年は、ケースワーカーが詳しく生活状況の聞き取りをしなければ登録できず、ようやく登録できても参加する人は限られていました。

「ブリュッケのスタッフは、まず生活保護課のケースワーカーさんたちの相談に乗るようにしました。みんなそもそも好きこのんでひきこもっているわけじゃない。一人ひとりにどうにもならない社会的な背景があって、そこに配慮しながらどう支えていくかを一緒に考えましょうと伝え続けました。

親がギャンブル依存やアルコール中毒、虐待などの背景がある若者もいます。本人にはどうしようもないし、ケースワーカーさんもどうすればいいかわからないことが多い。複雑にからみ合った問題を解きながら、どこを緩めればその若者が前向きに動き始めることができるのかを一緒に考えています」(西野さん)

ブリュッケのスタートは8年前ですが、今の場所に移転してきたのは2年前。そのころから利用者が増え、今は多い日にはスタッフを含め20人くらいがここでお昼ご飯を食べています。ブリュッケのセンター長、三瓶三絵(みかめ・みえ)さんが最近の様子を教えてくれました。

「大勢でおいしいご飯が食べられるのも楽しみのひとつだと思います。興味がある子は食事の準備も手伝ってくれますし、最近は、来ている子たちでスイーツ部を作ってお菓子作りに精を出しています」

スイーツ部からのつながりなのか、最近、カフェでのアルバイトが決まった若者もいるという。

誕生日の若者からのリクエストで、ミルクレープとガトーショコラを作ったことも。  写真提供:ブリュッケ
予約制の居場所の日。人が少ない落ち着いた空間で、本格的なラング・ド・シャにチャレンジ。  写真提供:ブリュッケ

「『フリースペースえん』を出て、ブリュッケに来ている子もいます。最初は、『ずっと働きたくない。一生、生保(生活保護)でいいんだ』と言っていた子も、ここで仲間ができてから様子が変わりはじめたんです」(西野さん)

その若者がスタッフと一緒に洗い物をしているときのこと。「俺、本当は恥ずかしいんだ。誰かと一緒なら働けるかもなあ」とポツンと本音がこぼれたそうです。彼は今、同じ団体の違う居場所でボランティアを始めています。

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