子どもと認知症高齢者が支え合う「寄り合い所」多世代の居場所が日本に求められるワケ
シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#1‐4 多世代が集う「地域の寄り合い所 また明日」(東京都小金井市)
2022.11.23
編集者・ライター:太田 美由紀
東京都小金井市にある「地域の寄り合い所 また明日」(以下「また明日」)は、保育所、認知症のデイホーム、地域の寄り合い所、3つの機能をあわせ持つ施設。
いつでも誰でも気軽に立ち寄ることができる地域の居場所として、近所の人や放課後の小中学生も自由に遊びにいくことができます。
「また明日」は2006年12月に設立されて、今年(2022)で16周年。遊びに来ていたたくさんの子どもたちが大人になっていきました。
最終回は、「また明日」の暮らしのなかで成長していく子どもたちの様子をご紹介します。
子どもたちと一緒に道草市に出店
前回(#3)お伝えしたように、「また明日」の毎日には特別なイベントはありません。
だけど、「こんなことやりたいな」と誰かが思ったことを、みんなで知恵を出し合い実現することがあります。「また明日」の自由な時間のなかでは、子どもたちにたくさんの「やりたい」が生まれます。
その思いが実現する場所のひとつが道草市(みちくさいち)です。目の前の貫井(ぬくい)けやき公園でも2020年12月から始めることになり、地元の農家さんや商店だけでなく、福祉作業所や地域包括支援センターも出店しています。
「コロナの感染がはじまって、買い物でも知らない人と会話をする機会がほとんどなくなりました。最近は駄菓子屋さんも少なくなって、子どもたちも買い物をすることがありませんよね。
そこで、私たちも、『また明日』に遊びにくる子どもたちと一緒にお店を出すことにしたんです」(「また明日」代表 森田眞希さん)
いつも「みんなの居場所」でパリタリーさんの移動商店を手伝っている子どもたち(#3参照)を中心に、夏は地元の商店に協力をお願いしてスーパーボールすくいをしたり、ラムネを売ったり。「子どもフリマ」を出店したこともあります。
道草市には、大道芸人のお兄さん、komatan(こまたん)もやってきます。実はkomatan、小学生のときから「また明日」に遊びに来ていたコマやけん玉が得意だった男の子。高校を中退し、世界中をまわってパフォーマンスをしてきました。
「俺、外国に行ってくる」としばらく顔を見ない年月がありましたが、ある日ふらりと「また明日」に顔を出し、世界トップクラスのパフォーマンスを披露してくれたといいます。今ではシルク・ド・ソレイユの特別賞受賞や、全国コンテストで優勝しラスベガスに招待されるほどの腕前です。
Komatanは学校に行けない時期もありましたが、そのころから「また明日」でみんなにコマやけん玉の技を披露していたそうです。
そんなkomatanのパフォーマンスを見て、地域の大人も子どもも大きな歓声をあげていました。スーパースターの凱旋公演です。
「お年寄りの様子から学びたい」と高校生
「15年以上やってると、子どもたちも大きくなりますね。最近は、かつて遊びにきていた子どもたちが、うちにアルバイトとして働きにきてくるようになりました」(森田さん)
小学生のころから来ていたふたりは高校生になり、福祉職に就くことを目指してアルバイトに来ています。「ここなら、お年寄りが子どもたちを見守る様子から学べるから、ここで体験しておきたい」と言います。
彼女たちは、いま遊びに来ている5・6年生を見て、「あのとき赤ちゃんだった子だ! 懐かしい」と言って声を上げます。
「彼女たちは小学生のころからみんなの様子を見るのがとても上手でした。子どもを抱っこして、おばあちゃんとのやりとりを促し、子どもに少し手を貸しても、自分はスッと引いてあとは見守ることができました。
大人でもなかなか難しいんですけどね。『また明日』に遊びにくる子は自然にできるようになるのかな」(森田さん)
「また明日」では、子どもたちやお年寄りはもちろん、相手が小学生でも大人でも、その人が「自分でやろうとする気持ち」を大切にしています。
その気持ちを大事にしてもらい、見守ってもらった経験があるからこそ、相手が「自分でやろうとする気持ち」を大切にできるようになるのかもしれません。