子どもと認知症高齢者が支え合う「寄り合い所」多世代の居場所が日本に求められるワケ

シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#1‐4 多世代が集う「地域の寄り合い所 また明日」(東京都小金井市)

編集者・ライター:太田 美由紀

どの存在も一方通行ではなく支え合っている

学校に行っていない子も、生活が大変な状況にある親子も、ここはあたたかく包み込んでくれる場所。それはまるで、親戚や大きな家族のようでもあります。

お菓子を食べながらのおしゃべりは、大人も子どもも大好き。  写真提供:地域の寄り合い所 また明日
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そして、森田さんと一緒にこの施設を運営している夫の和道(かずみち)さんは、それは決して一方通行ではないと言います。

「お年寄りも、小さな子も、小学生も、ただ一方的に何かをしてもらうだけの存在ではありません。それぞれが主体となって、あるときは支え、あるときは支えられる。そういう関係性が生まれる場をつくりたいんです」

子どもたちやお年寄りに勇気づけられるのは、「また明日」に関わる地域の人たちも同じです。

ある日「みんなの居場所」(地域食堂)のお弁当に真っ赤なビーツのおそうざいが入っているのを見た子どもたちは、目を輝かせてこう言いました。

「うわあ、ルビー色で宝石みたい!」

そのビーツは、小金井の農家のドンと呼ばれる50代の金(きん)ちゃんの畑で取れたものでした。

お弁当を作ったパリタリーさんがそのことを伝えると、金ちゃんは「子どもたちにほめてもらえるような野菜をこれまで以上に努力して作っていきたい」と言ったそうです。

野菜づくりのプロフェッショナルでも、子どもたちの言葉に力をもらう。森田さんはそのやりとりに感動したと言います。

雨上がり、「また明日」の前のけやき公園に大きな虹が出たよ。  写真提供:地域の寄り合い所 また明日

追い立てられて競争し、比較され、自分だけが生き残る道を探る時代は終わりを迎えつつあります。

それぞれのペースで主体的にやりたいことをしながら、お互いにその気持ちを尊重し、助け合うことができれば、誰もが安心して過ごすことができ、自分の良いところを伸ばしていける。

「また明日」の子どもたちは、そんな時代を作っていくことができるのかもしれません。

東京都小金井市の「地域の寄り合い所 また明日」では、今日も多世代の多様な人たちが共に過ごしながら、それぞれのいのちを輝かせています。

〈教育学者・汐見稔幸先生から〉

私たちは昔から、地縁や血縁が豊かにある中で子育てをしてきました。

「おばあちゃん、この子ちょっと見てて」
「お兄ちゃん、この子と遊んでて」

そんなやり取りをしながら、子どもたちは原っぱや道端でのびのびと遊んでいました。

ハラハラしている親にすぐそばでじっと見られているよりも、子どもたちもずいぶん気楽だったのではないかと思います。

子どもたちは、どんなに小さくても、ある程度大人から信頼され、自分に任されている状況の中で遊ぶことが必要です。少し離れているところから暖かく見守られているなかでこそ、自分で自分を試すことができるからです。

私たちは親として子どものそばにいると、「そうじゃないでしょ」「こうするのよ」とついつい口や手を出してしまいがちですが、子どもたちからすれば、「ちょっと今はだまっててほしいんだよな」と思うことが多いと思います。

また、子どもだって、みんな誰かの役に立ちたい。そこには、自分の技量が上がっていく喜びと、自分は誰かの役に立っているという喜びがあるのではないかと思います。

人間は、自分のためだけに生きていくことでは幸せになれません。自分の中に住んでいるたくさんの他者、親や子ども、友達、近所の人やおじいちゃんおばあちゃんなど、誰かの役に立てるかな、必要とされているのかな? と考えています。

人との豊かな間柄がないと幸せになれない生き物なのです。誰でもふらりと遊びに行けるこのような多世代の居場所は、これからもっと増えていくと思います。無縁、無援、無円、無艶社会が変わっていくはずです。

保育所、認知症デイホーム、地域の寄り合い所といった3つの機能をあわせ持つ施設「地域の寄り合い所 また明日」が一冊に。幼い子どもと認知症の高齢者が共に暮らす“強み”とは。『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(著:太田美由紀/風鳴舎)。

取材・文/太田美由紀

汐見稔幸(しおみ・としゆき)PROFILE
1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

太田美由紀(おおた・みゆき)PROFILE
1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。

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しおみ としゆき

汐見 稔幸

教育・保育評論家

1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

おおた みゆき

太田 美由紀

編集者・ライター

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP