「心が折れる」若者たち
昨今、若者たちの心が弱くなっていることが、あちこちで指摘されている、と榎本先生は解説します。
傷つきやすくてキレやすい、すぐに落ち込む──。そんな若者が増えている、といわれているのだそうです。一体、どういうことでしょうか?
「企業の管理職や人事関係の人などと話していると、“最近の若者は扱いが難しい”というぼやきが目立ちます。部下や後輩、新人をどう指導したらいいかわからず、戸惑っている人が多いようなのです」
「私たちのグループが20代から50代の会社員700人を対象に、2012年に実施した調査でも、そのような傾向が顕著に見られました」
その調査では、「部下に注意したり、アドバイスをしたりすると、まるで自分を否定されたかのように感情的な反発を示すので、指導がしにくい」「注意や忠告をすると、ひどく落ち込み、やる気を無くしたり、ひどいときは休んでしまうので、厳しいことは言えず、腫れ物に触るような感じになる」といった、上司や先輩の声があった一方、「上司に𠮟られたのがショックで、その後は、上司から呼ばれるたびに心臓がバクバクするほど緊張し、ついには出勤できなくなった」という若者の声もあったそう。
「誰にとっても、人生というのは思いどおりにならないことの連続です。勉強を頑張っているつもりなのに思うような成果が出ない、まじめに仕事をしているのに評価されない、好きな人に振り向いてもらえない……。人生には葛藤や挫折がつきもので、そのようなとき、人はストレスフルな状態です」
「こうした厳しい状況に耐える力を“ストレス耐性”と呼んだりしますが、これは、筋トレのように、ストレスを積み重ねることで、だんだんと強くなっていくものです」
「ところが、ほめるだけで𠮟らずに育てられた世代の若者たちは、𠮟られて一時的にでもネガティブな気分になるという小さなストレスを積み重ねていない。ほめられて、いつもポジティブな気分にさせられてきたために、ネガティブな状況に持ちこたえられないのではないでしょうか……」
「心が折れる」という表現。今では普通に使われますが、先生によると、かつてはなかった言葉で、2000年ごろから登場し、一般的に用いられるようになったのだとか。
「これは、まさにストレス耐性の低下を表す言葉です。本来、心は、とてもしなやかで、ポキッと折れたりはしないもの。それが“折れる”と言われるようになってきたのは、ストレスに耐えられない人が、どれだけ増えたかを示しているのではないでしょうか」
逆境に耐え、人生を前向きに切り開いていくためには、ストレス耐性を高めることが大切です。そのためには、無菌室のような過保護な生活空間で育つのではなく、適度な挫折を繰り返し経験することが必要だとか。
「適度な負荷をかけることで、心は鍛えられていきますが、“𠮟られる”ということも、心にかける負荷の一つ。そう考えると、“ほめるだけで𠮟らない子育て”が、その子のためにならないことがわかるでしょう」