「我が子を嫌いになってしまう」 人生相談が示す「子育て」の助言

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室〔06〕

コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎

嫌いになる原因は子育てをがんばりすぎる自分にある?

3つ目は、41歳女性からの【4歳の娘が可愛くありません。怒鳴ったり、手をあげたりする前にお知恵を貸して下さい】という相談。夜はカレーがいいと言われて作ったら「もう食べれない」と言うなど、「自分勝手でわがまま」な反応が多くて「爆発しそう」だとか。人生相談の回答が毎回ネットで大絶賛されている作家・演出家の鴻上尚史さんは、「子育てをがんばらないこと」を勧める。

〈カレーと言われて一生懸命作るから、「もう食べられない」と言われてムカつくのです。(中略)市販のレトルトカレーでごまかしましょう。レトルトカレーを拒否されても、そんなに腹は立たないでしょう。一生懸命、よかれと思ってやったことを否定されるから、可愛く思えなくなるのです。「私はあなたにどうしてあげたらいいの?」と真剣にがんばってしまうから、理屈が通じない時にキレそうになるのです。(中略)自分の楽しみも追求しながら、がんばりすぎないで、つまりは、うまく家事や子育てを手抜きしながら、娘さんと接して下さい。そのほうがきっとうまくいくと思います〉
(初出:朝日新聞出版『一冊の本』と同社のニュースサイト「AERA dot.」で連載中の『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』。引用:『鴻上尚史のほがらか人生相談』2019年、朝日新聞出版)

「子育ては、『子供を守り、子供の世話をやくこと』ではありません。子育ては、『子供を健康的に自立させること』だと僕は思っています」とも。どうやら鴻上さんは、相談者が我が子に入れ込み過ぎている気配を感じ取ったようじゃ。そもそも子どもには話も理屈も通じない。「こっちがこんなにがんばってるのに、なぜわかってくれないの!」と腹を立てたり相手を嫌ったりするのは、一種の言いがかりではないだろうか。

子育ては理不尽の連続である。子どもは自分の思い通りにはならない。同時に自分の気持ちも自分の思い通りにはならない。我が子に限らず、誰かを「嫌い」という感情が際限なくふくらんでしまう場合、その原因は相手ではなくおもに自分にある。何が自分をそうさせているのか、よく考えてそこに手を付けないと事態は変わらない。一生懸命に理由を並べて「嫌い」を正当化しようとしても、ますます辛くなるだけじゃ。

周りに助けを求めつつ ダメな“自分も我が子もOK”としよう

<石原ジイジの結論>

「ウチの子、最高!」「ウチの子、大好き!」「子どもがかわいくて仕方がない!」――。「わが子が嫌い」と思ってしまうママたちも(今回は出てこなかったがパパたちも)、できることならこう叫びたいじゃろう。心からこう思えることは、とても幸せである。

しかし、どこかで歯車が狂ってしまったママたち。「あってはならないこと」「思ってはいけないこと」だけに自分を激しく責めてしまう。ひとつ間違えると、「嫌い」を正当化するために、わが子の欠点を探して「だから嫌っても仕方ないんだ」と自分に言い聞かせることに精を出しかねない。大人同士の場合でもよくあるが、ますます悪循環じゃ。

人生相談の森の中には、同じ悩みがたくさんあった。つまり、同じように悩んでいるママがたくさんいる。「そんなことでは母親失格です!」と責める回答は、ひとつもなかった。もちろん「そういう子なら、嫌いと思ってしまうのは仕方ない」と言っている回答も、ひとつもない。たくさんの回答の意図をかいつまむと、相談者が苦しい状況から抜け出すために、つまりは次のふたつのアドバイスを贈っている。

その1「ひとりで子育てするのではなく、夫や周囲にもっと助けを求めよう」

その2「理想や完璧を目指す必要はない。少しぐらいダメな親でも子は育つ」

「自分を追い詰めているものは何か」を考えてみるのは、辛い状況から抜け出す上で極めて有効なセオリーである。物理的なたいへんさを少しでも取り除くことや、息抜きの大切さを説く回答も多い。「パパに相談できない(相談する勇気が出ない、相談する関係性ができていない)」という状況にあるとしたら、まずはそこに手を付けるのが先決である。子どもを嫌って自分をごまかしている場合ではない。

親だって人間だし、子どもだって別の人間である。性格や考え方が合わないこともあって当然じゃ。それはそれで何の問題もないが、親がイメージする「理想の子ども」や「完璧な子育て」にこだわり過ぎると、イライラや怒りが募ってしまう。周囲の目を気にしたり勝手に対抗意識を燃やしたりして、どんどん追い詰められるケースもありそうじゃ。

たまにわが子に腹が立つことも含めて、そんな自分を「ま、しょうがないか」と許してあげよう。わが子のありのまま受け入れ、自分のありのままを受け入れることができる親は、たとえ至らなさや欠点だらけでも、わが子にとって最高の親になれるはずである。

【石原ジイジ日記】
夏の公園には、いろんな虫がいます。F菜には虫が苦手な人にはなってほしくありません。「ほら、アリさんが遊びに来たよ」と友達扱いすることで、親近感を持たせようと画策。やがてF菜の腕に蚊がとまり、あわてて手で追っ払いました。ん? もしかして私は矛盾する行動をしてしまったかも……。
14 件
いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか