「3歳の男の子。集中力を付けさせたいです」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!

第5回

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子

大人に邪魔されずに、子どもが自分で選んだことを無心に繰り返すことができて、初めて深い集中の状態になる

子どもが自分で選んで始めたあとも、配慮が必要です。なぜなら子どもは同じことを何度も何度も繰り返すものですが、多くの大人はそれを見守ることができないからです。

たとえば机を拭いたり、ドアを開けたり閉めたり、といった行為は、1回すれば事足りるものですから、それらを繰り返すことは、大人にとっては無意味に思えます。少しの間は大目に見ていても、「さあ、もういいでしょう」と必ず途中で介入し、止めようとします。それでもやめないときには、「いい加減にしなさい!」と大人の強権を発動して強制的にやめさせます。

戸を開けたり閉めたりする  0歳児

でも実はそのとき、子どもは自分自身の内面を発達させるための重要な仕事をしていたのです。大人は綺麗にすることや外に出ることが目的ですが、子どもは活動すること自体に目的があります。繰り返すことで、自分の中に確かなものを1つずつ積み上げていく、それを途中でやめさせるのは、鬼が出てきて子どもがせっかく積んだ石を崩すような行為だと、モンテッソーリは日本の古い風習になぞらえて説明しています。

大人に邪魔されずに子どもが自分で選んだことを無心に繰り返すことができて、初めて集中現象が起きます。集中現象とは深い深い集中であり、周りのことが一切関係なくなるほど、没頭している状態です。

掛けるという動作を繰り返す 1歳10ヵ月
はさむという動作を繰り返す 1歳9ヵ月

たとえば食事をとることも忘れて研究に没頭していたというニュートンや、戦争中もひたすら幾何学に熱中していたアルキメデスの逸話にも等しいほどの集中が、子どもに見られることを、モンテッソーリは発見したのです。

この集中現象は、永遠に続くようにも見えますが、突然、子ども自身が自ら終わりにします。十分にやったという達成感を持ってやめるのです。
そのとき、子どもの心は満ち足りて、穏やかで落ち着いた子どもになります。モンテッソーリ教育ではこれを「正常化」と呼んでいます。

子どもがしているのは、自分自身の人格を育てるという「偉大な仕事」

モンテッソーリ教育が集中力を育てるというのは、こうした一連の活動のサイクルを、子どもが繰り返すことが可能だからです。

何に集中し、何を繰り返すかは子どもによっても違います。毎日ハートバッグを作る子どももいれば、クッキーを焼いている子ども、野菜を切っている子ども、はさみで紙を切っている子どもなど、さまざまです。
そうした子どもたちを、モンテッソーリ園の先生方やモンテッソーリ教育を学んだ親御さんは「やってる、やってる」と優しく見守っています。

ふだん、「同じことばかりしないで、少しは違うことしたら?」とか「もう少し難しいことやってみたら?」などと口出ししてはいないでしょうか。

子どもがしているのは、自分自身の人格を形成するという「偉大な仕事」です。
詩人が詩作するとき、芸術家が絵を描いているときと同じように、その姿を、愛と尊敬を持って見守ることができれば、きっと集中力が育ち、言われなくとも食事にも集中できるようになることでしょう。

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たなか まさこ

田中 昌子

Masako Tanaka
モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長

上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。  

上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。