以前、こんなご相談もいただいたことがあります。運動や計算をさせて、できた、できない、を毎日チェックするような幼稚園に、お子さんを通わせていた方からです。
着替える時はタイマーで制限時間を計り、間に合わないと、おやつが食べられないそうで、自宅でもパニックを起こすことがあるとのことでした。ゆっくり丁寧に脱いだものを畳むという提示を見せても、それでは間に合わないと乱雑に畳むことしかできませんでした。また、怖がりで心配性、機嫌を損ねやすく不満も多いなど、対応に困っていました。
この方は、思い切って、お子さんをモンテッソーリ園へ転園させました。そして、自宅でもモンテッソーリの理念に添った生活をすることを心がけました。
特に難しいことではありません。子どもの自由意志を尊重する、できる限り時間を区切らず、干渉せずにとことんさせてみる、優劣や評価する言葉を使わない、といった基本的なことです。
すると、園と家庭の環境が同時に変わったことも大きかったのでしょう。
小学生になった今は、帰宅したらやることを自分で決め、言われなくても必ず実行する、というお子さんになりました。思いやりに満ちた言葉も聞かれるようになりました。
ありのままの子どもを認めてあげる
質問者さんのように、ご主人が「1番」を価値あるものとみなしていると、このようにうまくはいかないかもしれません。大人の価値観は、子どもにそのまま反映されてしまうからです。
もし、子どもが1番にこだわったときには、家事など順番を競わなくてすむ手作業をさせてあげましょう。
そして、丁寧にできたこと、最後まで頑張ってできたこと、片付けをきちんとしたことなど、結果よりもその経緯について認めてあげるといいでしょう。
親子で遊ぶゲームでも、大人が手加減して負けたり、逆に大人の実力で圧倒して見せたりする必要のない、運が左右するようなものを選ぶと、だんだんと勝ちにこだわらなくなります。
もちろん児童期以降、一定のルールのもとにゲームやスポーツ、あるいはコンテストなどで競うことについて否定するものではありません。競争に揉まれることで成長し、一流のアスリートになったり、コンクールで優勝したりする人もたくさんいることでしょう。
ただ、真の意味で一流の人は、勝ってもおごらず、感謝の言葉を述べ、負けても腐らず、自身の実力不足と受け止めるものです。
つまり戦う相手は常に自分自身であり、相対的な1番を求めてはいないことに注目して下さい。
幼児期には1番が取れていた子どもでも、年齢が上がるにつれて、だんだんそうではないことが増えてきます。
思春期になると、1番になれない自分を肯定できなかったり、1番の子に対する嫉妬や恨みなどから問題を起こしたりすることもあります。
そうならないためにも、ありのままの子どもを認めてあげましょう。
1番だから好きなのでしょうか。優勝したから愛しているのでしょうか。
そうではありませんね。子どもはそこにいるだけで、かけがえのない、たった一人の大切な存在なのです。
1番でなくてもいい、あなたはあなたのままでとても素晴らしい、と良いところをたくさん見つけてあげられるのは、身近にいる親だからこそです。
肯定的に子どもを認めてあげられれば、子どもは自分が大切な存在であり、同じように相手も大切な存在であることに、きっと気づけることでしょう。
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第9回 「子どもをほめてはいけないのでしょうか?」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!
田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。