【男児の性教育】思春期に身につけたい「正しいマスターベーション」の作法とは 専門医がくわしく解説
「子どものマスターベーション」で親が知っておくべきこと#2 ~正しいマスターベーション編~
2024.04.18
泌尿器科医・聖隷浜松病院リプロダクションセンター長:今井 伸
中高生向けの性教育講座で、思春期に適切なマスターベーションの作法を教えている今井先生。
「子どもがマスターベーションを始めるようになったら、きっちりと教えておくべきことがある」と言います。
「何気なく性器を触っているうちに気持ちが良くなって射精をしてしまう、という子も多くいるでしょう。でも、布団の中でモゾモゾしているうちに気持ちよくなって、なんとなく何かが出てきている、という状態を繰り返して習慣になってしまうのは良いことではありません」(今井先生)
では、今井先生が教える適切なマスターベーションとは?
「基本は、手で行うこと。親指と人差し指で輪を作り、ペニスの亀頭付近を軽く握りながら、こするように上下に動かします」(今井先生)
「子どもたちには、清潔な手で、正しい方法でなら、好きなだけどんどんやっていいよと僕は伝えています。こんなこと教科書にも書いてないし、今まで誰も教えてくれなかったでしょうね(笑)。でも、とても大切なことなんですよ」(今井先生)
思春期における射精の心得
マスターベーションの作法のみならず、さまざまな心得をまとめたのが、今井先生が提唱する思春期編の射精道です。
「10代の射精は、まずは《一.オナニーを基本とする》こと。性的なものへ興味が出てきて、セックスへと急ぎたい男子もいるかもしれませんが、性への欲望だけで突っ走る危険を防ぐため、《二.セックスは心技体が伴うまで行うべからず》です。
あとは、《三.他人に迷惑をかけるべからず》というのも、パートナーの気持ちを考慮する大人になるために大前提ですね」(今井先生)
射精の仕方についてもこう語ります。
「射精については、《八.必ず勃起した状態で射精すべし》そして、《九.少し我慢してから発射すべし》が基本。
《十三.射精を自在にコントロールできるようになることを目標とすべし》というのは、セックスの際に自らの意思で射精を行えるようになるため、大変重要です。セックスで使えるための技を、マスターベーションで磨くんです」(今井先生)
アダルト動画は性欲を低下させる
2016年にイタリアで行われた調査によると、イタリア人高校生1492人のうち、インターネットでアダルト動画を週に1回以上視聴した人の16%が性的欲求の低下を訴えたと言います。一方、非視聴者では0%、週に1回未満の視聴者では6%でした。
「世界的な研究でもあるとおり、最近はマスターベーションのお供(俗称・おかず)としてアダルト動画が簡単に見られる時代になった影響で、性欲が低下していると感じています」(今井先生)
今井先生が考える“お供”の問題は想像以上に深刻です。
「僕らが少年だったころの“お供”は、エロ本が基本だった。エロ本って、想像力をかき立てられるんですよね。『女性の下着の中はどうなっているんだろう』と想像しながらマスターベーションをするからです。
しかし、現代はアダルト動画で全部が見えてしまう時代。女優さんもかわいいし、シチュエーションも過激だったりして、現実とはマッチしがたいものを見て勃起・射精するわけですから、いざセックスというときに興奮しにくくなったり、不具合が起きるのです」(今井先生)
自分が最大に興奮するコンテンツを追求しすぎるのも、現実の興奮度が低くなってしまう懸念があると、今井先生。
「現実にセックスをするときがマックスの興奮であるほうがいい。それこそが充実したセックスライフにつながるからです。
今はコンテンツがあふれているので、マスターベーションで満たされすぎているんですよね。そうすると、セックスが必要なくなってきてしまう。
『実際の女の子とセックスするのは段取りが面倒だから、VRのほうがいいや』となってしまうんです。これは子どもに限ったことではないですが」(今井先生)
妄想力を鍛え低刺激でも射精ができるように
そこで、今井先生が提案するのが「おかずのローテーション理論」です。
「僕は、高校生のときに本能的に気がついて実践していたんですけど(笑)。アニメでマスターベーションするのにハマったことがあって、『これじゃないと興奮できない』となったらまずいだろうなと思ったんです」(今井先生)
そこで、マスターベーションの際にはいろいろなコンテンツで回す「おかずのローテーション」を実践すべき、と説きます。妄想→水着→ヌード写真→アダルト動画→VR動画→そして再び妄想(順番など入れ替え自由)といった具合で繰り返します。
「好きなもので興奮を維持させようとするのは人間の本能なのですが、刺激の強いアダルト動画ばかりではなく、弱い刺激でも興奮できるようにしておかないと、さまざまなシチュエーションが想定されるセックスの実践で射精ができなくなる可能性があります」(今井先生)
マスターベーションでの射精は、セックスの射精環境により近い設定にするのがベスト。そのため、《十四.強い刺激のネタばかりを続けるべからず》や《十五.時々、空想オナニーを行うべし》というのも、マスターベーションを始める子どもたちにぜひ知っておいてほしい心得です。
しかし、今井先生は「性教育は親がすべてを教えようとしないことも重要」とも言います。親は子どもにHOW TO マスターベーションのすべてをしっかり伝えようとするのではなく、「この本(今井先生の著書『射精道』)、おもしろかったわ~」「この記事、笑っちゃうよ。読んでみたら」とURLをLINEする等々、さりげない配慮でそっと伝えてみたいものです。
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取材・文/遠藤るりこ
※「子どものマスターベーション」で親が知っておくべきこと は全3回(公開日までリンク無効)
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遠藤 るりこ
ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe
ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe
今井 伸
1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。 ’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。 共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)。近著に『射精道』(光文社新書)がある。
1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。 ’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。 共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)。近著に『射精道』(光文社新書)がある。