誰でも“あしながおじさん”になれる「寄付駄菓子屋」に1日100人もの子どもたちが殺到!

シリーズ「令和版駄菓子屋」#3‐1 寄付型駄菓子屋~「駄菓子屋 つきの家」(岐阜県本巣市)~

ライター:遠藤 るりこ

誰もが町の子どものあしながおじさんに

「コロナが落ち着いて、最近は大人と子どもが直接交流できる機会が増えてきた」と佐野さんは話します。顔を見て話ができると、関係性がグッとリアルなものになります。

「昨年(2022年)の秋、うちが企画したお祭りに、支援者さんを呼んだんです。いつもチケットに記してくれているお名前の、名札をつけてもらって。子どもたちと初めて顔を合わせる支援者さんもたくさんいて、お互いにとって良い機会になりました。

子どもたちは『わぁ~この人が、“ジャイアン”さんだったんだぁ!』なんて大盛り上がり。一躍人気者になる支援者さんもいましたね」(佐野さん)

お店で手紙を書く子が大半だが、家から折り紙を折って持ってきたりする子も。心のこもったお礼は支援者に届けられる。  写真提供:「駄菓子屋 つきの家」

オープンから1年。この取り組みに賛同してくれる、地元企業からの寄付も増えてきました。遠方から寄付の問い合わせもあります。

「ここで生まれて育って、学校や就職で離れて暮らしている仲間たちも、再び地元でこうしてつながり続けることができる。僕が地元を盛り上げていくことで、多くの人が『自分も応援しよう』って思ってくれたらうれしいですね」(岩﨑さん)

ちなみに、駄菓子屋で“つきチケット”の使用ができるのは、高校3年生まで。春を越して、チケットを卒業した子どももいます。

「高校3年生の3月に、『働いて戻ってきたら、次は僕が“つきチケット”を買いに行く番だね』なんて言って卒業していく子もいました。大人たちに応援してもらった子どもが、成長して今度は誰かを支える立場となることに胸が熱くなります」(佐野さん)

「つきの家」のチケットが、地域の大人と子どもを結ぶ架け橋になっています。

駄菓子屋から広がる新しいチャレンジ

変わった駄菓子屋として、全国ネットのテレビ番組にも取り上げられ、お店のファンは増え続けています。全国各地からの問い合わせや、視察の依頼も後を絶ちません。

「この間は石川県の金沢から、90歳近いご夫婦がいらっしゃいました。『テレビで見て人生最後にやるならこれだと思って来ました』と言ってくれて。この取り組みが、多くの人たちの心に響いているんだなぁという実感があります」(岩﨑さん)

一方で、すっかり人気店になったおかげで、子どもも常に大にぎわい。ずらりと並んだチケットは、日々目に見えて減っていきます。佐野さんは、「子どもばっかり集まっても大変」と苦笑い。

「チケットが少なくなってきたなぁというタイミングで、『ピンチです!』とお知らせすると、サッと支援が集まる。この仕組みが地域に根付いてきたんだなと思っています。でも、より継続的なものにするために日々新しい企画を考えているんです」(佐野さん)

実は佐野さんは、自宅で個人塾を開いている、塾の先生でもあります。

「子どもたちと日々の話をしているなかで『勉強教えて~』なんて言われることも。『つきの家』にはそのスペースがないので、だったら週に1回、誰でも来れる無料の学習会を開こうかって」(佐野さん)

2023年7月から、「つきの家」主催の学習会「ネオタイム」をスタート。子どもたちは宿題を持ち寄って、楽しく勉強をしています。佐野さんのほか、子どもたちを見守るボランティアたちも集まってきました。

毎週参加者が増えていく学習会。勉強の後にはお店特製の牛丼や、支援者からの差し入れを食べたりすることもある。  写真提供:「駄菓子屋 つきの家」

「子どもたちが勉強を教え合ったり、学年を越えてゆっくり話したりできる場になりつつあります。みんなのお家以外のもうひとつの居場所となるような空間にできたらいいなと思っています」(佐野さん)

佐野さんは、地域の福祉施設へ駄菓子の無料出張販売を企画したり、チケット制や学習会以外にもさまざまな取り組みを続けていくことで、子どもたちへの支援が継続していくことを期待しています。

「子どもにお菓子を配るだけでなくて、並行して他の活動もしていくことで、より注目してもらわないと、と感じています。応援してくれる方をどう増やすのかが今度の課題です」(佐野さん)

岩﨑さんは、「いろんな人を巻き込んで、みんなで楽しくやっていこうよという想い」と笑います。

「焼肉屋をたたむと前の大将に聞いたとき、酔っ払って『次は俺がやるから!』と言った僕のように(笑)、子どもたちがこの町やこの店を大切に思って、未来につなげていってくれたら。そして、全国各地で、地域で子どもたちを育てていくお店が増えていったらうれしいなと思います」(岩﨑さん)

小さな店の小さな取り組みが、数十年後の町の未来を作っています。

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次回は、同じく大人からの寄付を子どもに還元している駄菓子屋「まほうのだがしや チロル堂」(奈良県生駒市)へインタビューします。

取材協力/
●駄菓子屋 つきの家
岐阜県本巣市三橋鶴舞25
営業時間:平日14時~17時30分、土・祝11時~17時
定休日:日、月、水
インスタグラム:@tsuki_no_ie_dagashi

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えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe