誰でも“あしながおじさん”になれる「寄付駄菓子屋」に1日100人もの子どもたちが殺到!
シリーズ「令和版駄菓子屋」#3‐1 寄付型駄菓子屋~「駄菓子屋 つきの家」(岐阜県本巣市)~
2023.10.04
ライター:遠藤 るりこ
2022年8月、岐阜県本巣市にオープンした「駄菓子屋 つきの家」(以下、つきの家)は、1日に100人もの子どもたちが訪れる人気店。開店から1年足らずで、地元では話題の駄菓子屋になりました。
「つきの家」がほかの駄菓子屋と違うのは、買い物の仕組みにあります。大人からの寄付をもとにした“つきチケット”で、子どもたちが駄菓子を買うことができるのです。
なぜ、大人から寄付を募り、チケット制を取り入れることにしたのでしょうか。オーナー・岩﨑健輔(いわさき・けんすけ)さんと、店長・佐野真優(さの・まゆ)さんにお話を聞きました。
※1回目(全2回)
きっかけは常連だった焼肉屋
「つきの家」からほど近いところに、焼肉店「焼肉根尾街道(やきにくねおかいどう)」があります。
今から5年前(2018年)、脱サラしてこの焼肉店を引き継ぐ決意をしたのが、現在の「つきの家」オーナーである岩﨑健輔(いわさき・けんすけ)さんです。
「前の大将から店を閉めると聞いて、客として長い間通った、地元の思い出の店を失いたくなかったんです。でも、引き継いですぐにコロナが流行ってしまって……」(岩﨑さん)
コロナ禍でまともに焼肉店の営業ができなかった時期、地域の人たち、特に子どもたちに何かできることはないだろうかと岩﨑さんは考えるようになりました。
「楽しい行事が軒並み中止になり、外に出ることもままならない子どもたちに、せめて地域でのつながりは持っていてほしい。だったら、駄菓子屋でもやろうかなって」(岩﨑さん)
そこで、焼肉屋から近い親族の家の倉庫を間借りして、「つきの家」をスタートすることに。岩﨑さんは、普通の駄菓子屋を作ってもおもしろくないと、ある“仕掛け”を作ることにしました。
「前にテレビで、どこかの居酒屋が“お客さんが飲食代のお釣りを寄付してくれて、それを子ども食堂の費用に充てている”という仕組みを見たことがあって。駄菓子屋でも、同じようなことができないかなと思ったんです」(岩﨑さん)
焼肉屋経営で付き合いのあった商工会などに相談し、駄菓子屋では現金だけでなく、寄付による“チケット制”を導入することに。さっそく、自身の経営する焼肉屋にて、大人たちからの寄付を募り始めました。
地域の人の応援で成り立つチケット制
「つきの家」に支援をしたい大人は、一口1000円の“つきチケット”を購入します。購入後は、それが寄付された1枚100円の10枚綴りチケットとして、駄菓子屋の壁にずらりと貼られていきます。
チケットの使い方について説明してくれたのは、オーナー・岩﨑さんの従姉妹で、毎日店頭に立っている、店主・佐野真優(さの・まゆ)さん。
「来店した子どもたちは、1日200円分までチケットを使ってお菓子を選べます。自分のおこづかいは使わなくてもよいのです。
次に子どもたちが手に取るのは紙とペン。チケットを使用するときには、支援者さんへ感謝のお手紙を書いてもらうことにしているんです」(佐野さん)
チケットの上部には支援者の名前やニックネームが記されており、「誰が支援してくれているチケットなのか、名前を見たら分かるようになっている」といいます。
「子どもに書いてもらった手紙は、まとめてその支援者さんへお渡ししています。顔を合わせたことがなくても、この店を通して地域の大人と子どもがつながれるんです」(佐野さん)
チケットを使って上限の200円ぴったりで駄菓子を買う子もいれば、チケットで足りない分は現金で払う子も。
「現金でも買い物はできますし、なかには『今日はチケット使わない』なんて子もいますよ。まぁ、ほとんどの子は200円分きっちり使っていきますけどね(笑)」と、佐野さん。
壁に貼られたチケットからは、この町の大人たちがこの町の子どもたちを見守り、育てている雰囲気が伝わってきます。