「起立性調節障害」発症のリスクあり 「感受性」と「注意力」に特性のある子は「幼少期からの対応」がカギ
感受性と注意力で読み解く子どもの「困った」行動#4 不登校を防ぐために
2024.10.31
専門医への相談時に留意したいこと
感受性や注意力を観察し、日常生活でさまざまな工夫をしてもうまくいかない……。こうした場合は、発達障害の可能性も考えられるため、迷わず医師に相談してほしいと野藤氏は話します。ただし、子どもの発達を専門とする児童精神科医や小児神経科医はそう多くはないので、なかなか診断までたどり着けない現状もあります。
「数ヵ月から半年先の予約になることも珍しくありませんから、『そこまでではないかも』などと考え、躊躇する保護者もいるでしょう。また、『療育』や『親子教室』で様子を見ている間に症状が落ち着いてくることもあります。そのまま診断を受けない方もいますが、判断を早まらないでほしいです」と野藤氏。これは、どういうことなのでしょうか。
※療育とは?
発達障害の可能性のある子に対し、困りごとを解決し、自立できるように支援する活動。運営主体により、支援内容はさまざまで、自治体のほか、民間企業が実施していることもある。
「たとえば、言葉の遅れが気になり専門医の診断を希望しましたが、予約は半年以上先。療育中に問題なく会話ができるようになりました。単に発達がゆっくりだったのだと考え、受診を取りやめたとします。
こうした子が小学校入学後に、文字を覚えることや字を書くことにとまどう場合もあります。発語がうまくいかない『要因』が別のところにあったにもかかわらず、診断を受けずにあいまいにしてしまったことで、気づくのが遅れてしまったケースです。
もちろん、わかった時点で対応策を講じればよいですが、入学前に判明していれば、本人が苦しんだり傷ついたりする経験を減らすことができます。ですから、表面上の問題が解決したように見えても、できるだけ専門医の診断を受けてほしいと思います」(野藤氏)
子育てのゴールは「子どもが楽しく働けること」
不登校が社会問題となる中、さまざまな意味で学校へのハードルが高まっています。
「現状では義務教育はまだまだ集団行動が中心で、みんなに等しく一定以上の能力を求めます。そうした学校生活は、感受性と注意力に特性がある子どもにとっては厳しい面も多々あります。
とはいえ、待っていてもすぐに教育システムが変わるわけではありませんから、『どうしたら学校に行けるのか』を考えていくことは必要です。それに、なんだかんだいっても、日本はまだまだ学歴を重視する社会ですよね。資格取得でも、「高校卒業以上」を求めるものは多く、安易に学校に行かなくてもいいよ、とは言えません。
なにより、私が相談を受ける起立性調節障害を含め、発達の支援が必要な子たちは、『学校に行きたい子』がほとんどです。学校に行きたいのに行けない子がなんとか学校生活を送れるように、さらにいえば『学校に行けなくなってしまう子』が少しでも減るように、周囲の大人や保護者が支援することが大切です」(野藤氏)
一方で野藤氏は、学校の中で評価される「みんなと同じようにできる力」や「一定以上の学力」ばかりを子どもに求めるのは危険だと語ります。
「保護者がとにかく他の子と同じように○○してほしい、という視点ばかりで子どもを見ていたら、その子だけが持つ能力や特性は見えてきません。きっと本人も自分の能力を知ることはできないでしょう。
学校にいる間はそれでもなんとかなるかもしれませんが、仕事を選ぶときにリスクが高くなってしまいます」(野藤氏)
感受性が敏感で周りのことが気になってしまう特性なのに、常に知らない人からの電話を受ける業務や営業職などに就いてしまう。注意力が狭く、伝票計算など複数の情報処理が苦手なのに、こうした力が必要な事務職を選んでしまう。あるいは、そうした仕事に就くよう求められる、もしくは選ぶように勧められて選択してしまう。自分のことがわからないと起きてしまうミスマッチの一例です。
「冷静に考えれば、学校にいる期間より働いてからのほうがずっと長いのです。
そこを踏まえれば、人生で重要なのは、仕事が『楽しい』『やりたい』と思える内容かどうかだと思います。どんなに社会的地位が高い職業でも、おもしろいと感じなければ続けられませんから。
『明日もまた頑張ろう』と自然にモチベーションが湧いてくる仕事を選ぶためには、自分自身や自分の能力を知っていることが大前提です。
子どもが成長過程で自分のことをよく理解できるよう、教えたり手伝ったり、ときには対話したりしながら一緒に時間を過ごす。これこそが、保護者の大切な役割の一つではないでしょうか」(野藤氏)
保護者は子どもの将来を心配するあまり、「もっとこんなふうに育ってほしい」「(多くのことを)できるようになってほしい」と自分の理想や正しいと思う方向に導こうとしてしまいます。
「感受性」や「注意力」という視点は、子どもに生まれ持った能力が備わっていること、それがプラスにもマイナスにも働くことを教えてくれます。子どもの能力をよく理解した上で、良いところは最大限にいかし、難しいことは支える。そして、人に助けを求めてもいいと伝える。そんな関わり方が、子どもの人生における生きやすさにつながっていくのかもしれません。
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【野藤弘幸 プロフィール】
作業療法学博士。発達障害領域の作業療法の臨床、大学教授を経て、現在は、「育てにくい」「言うことを聞かない」「自分でしようとしない」など、大人がそう思う乳児期から青年期の子どもたちと、その子どもたちの養育者に携わる保育者への研修、講演活動を行う。著書に『発達障害のこどもを行き詰まらせない保育実践~すべてのこどもに通じる理解と対応』(郁洋舎)、その他保育雑誌への連載などを担当。
取材・文 川崎ちづる
【感受性と注意力で読み解く子どもの「困った」行動】の連載は、全4回。
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第2回を読む。
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川崎 ちづる
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。
野藤 弘幸
作業療法学博士。発達障害領域の作業療法の臨床、大学教授を経て、現在は、「育てにくい」「言うことを聞かない」「自分でしようとしない」など、大人がそう思う乳児期から青年期の子どもたちと、その子どもたちの養育者に携わる保育者への研修、講演活動を行う。著書に『発達障害のこどもを行き詰まらせない保育実践~すべてのこどもに通じる理解と対応』(郁洋舎)、その他保育雑誌への連載などを担当。 ※Photo by 川端アリ
作業療法学博士。発達障害領域の作業療法の臨床、大学教授を経て、現在は、「育てにくい」「言うことを聞かない」「自分でしようとしない」など、大人がそう思う乳児期から青年期の子どもたちと、その子どもたちの養育者に携わる保育者への研修、講演活動を行う。著書に『発達障害のこどもを行き詰まらせない保育実践~すべてのこどもに通じる理解と対応』(郁洋舎)、その他保育雑誌への連載などを担当。 ※Photo by 川端アリ