子どものゲーム障害は大丈夫か?ゲーマー児童精神科医に親子で取材

関正樹先生にインタビュー”ゲームと子どものホントの関係”#1

くりもと きょうこ

ゲームを知っていると話がしやすくなる

――では、親がゲームについて知ることで、どんなメリットがあるのでしょうか?

 ゲームにはいくつかのジャンルがあって、お子さんがどんなジャンルのゲームを好むかを知ると、対応を工夫できるメリットがあります。

たとえば「MMORPG」(*2)と呼ばれる、多人数が同時に参加するロールプレイングゲームがあるということです。

また、チームで勝ち残る「FPS」(*3)や「バトルロイヤル」(*4)も、チームプレイです。

つまり、ゲームの進行具合によっては、すぐにゲームから抜けるのが難しい場合があります。チームで戦っていたりするので、親のタイミングで無理にゲームを中断させると、ほかのプレイヤーに迷惑がかかり、子どもの人間関係を壊しかねません。

「あと5分だよ!」と時間を守らせることに躍起になるよりは、バトルロイヤルなら、「この1試合で、どうにかして」と伝えたほうがスムーズに話が進むと思います。

*2MMORPG……Massively Multiplayer Online Role-Playing Gameの略。数百~数千人規模のプレイヤーが同時に参加できるオンラインゲーム。仲間も敵も実在するプレイヤーが操作していて、さまざまなプレイヤーとコミュニケーションを取りながらプレイできる点が従来のRPGと異なる。

*3FPS……First Person Shooterの略。シューティングゲームの一種。

*4バトルロイヤル……自分や自分のチーム以外全員敵という状況で同時対戦し、最後に生き残ったプレイヤーが勝者となるゲーム。

長男 オレ、FPS好き! 協力対戦してる時に、よく父ちゃんから、「これやって」って、手伝いとか片付けをやるように言われるんだけど、「え? 今?」ってなっちゃう。

――それは父ちゃんに伝えたほうがいいね。

長男 いや、(母ちゃん)お願いします。大人が言ったほうが説得力あるんで。

 うん、うん。まだ大人には勝てないし、面と向かって交渉をすることも、なかなかできないよね。お父さんは、RPGの魔王みたいなもんだからね。

子どもがゲームの時間を守らないときに、子ども部屋に入っていきなり、「こら正樹、いい加減にしなさい!」と声をかけるなんていう状況、けっこうありがちかもしれません。

しかし、お子さんがボイスチャットを使ったオンラインゲームをやっていたとしたら、匿名でゲームに参加しているのに、本当の名前が相手にバレてしまうというリスクが考えられます。

また、子どもにも人気の高い『マインクラフト』のような「サンドボックス」(*5)は、手のかかるものを作ろうとすると、本当に時間が必要です。親さんがゲームの特性を知っていれば、「あと30分でこれを作るのは難しいよね」と子どもと話ができるので、納得してキリのいいところでやめてもらうという工夫ができます。

もちろん、「ゲームを知らない親が悪い」という話ではありません。大人は忙しいですから、子どもよりも知識がなくて当たり前ではないでしょうか。

*5サンドボックス……仮想世界を自由に動き回って探索や攻略、構築ができるようにデザインされたゲームのこと。

――知らないのが悪いわけじゃないと言われると、ホッとします。

 時間がない方も、たくさんおられますよね、ということです。

さまざまな事情で、子育てにどうしてもリソースを割けない家庭もあります。そして、そういう家庭のほうが、かなり早い段階からデジタルデバイスを持たせる傾向が強いかと思われます。子どもたちにせがまれて、ゲームを与えざるを得ない状況に追い込まれてしまうことも多いのだろうと推測します。

子どもがひとりで、あるいは、きょうだいだけで過ごしている時間があると、ゲームやネットができるデバイスがないと暇がつぶせなかったり、きょうだいゲンカが起きたりして、個々の家庭でいろいろな事情があると思いますよ。

ゲーム障害や課金の問題

定期的に報道されるゲーム課金でのトラブルも親の不安を加速させる。
写真:アフロ

――とはいえ、親として不安を感じないわけにいかないという人も多いと思います。最近では「ゲーム障害」という言葉も身近になりました。ゲームは、射幸心をあおるものも多いので、アナログな娯楽とは違うように感じるのですが……。

 確かに、ゲームって面白くつくられていますよね。

でも、それは当然のことで、多くは子どもや若者を対象にして、彼ら・彼女らのゲームのスキルが上がれば上がるほど、内容を難しくしたり、子どもたちが好きそうなキャラクターを用いたり、絶妙なルールが設定されていて、さまざまなかたちでプレイヤーが面白がれる仕掛けがほどこされています。

でも、それを言うなら、マンガやアニメにも「引き」の手法がありますよね? 

小説だって、この伏線をどう回収するかなど読ませる工夫は、いろいろあります。面白さをあおる行為は、メディアがこぞって追求してきたことです。ゲームの面白さは、その延長線でしかないんじゃないでしょうか。

――子どもが親に黙って課金して、カードの請求書が来てみたら親がびっくり! みたいな話もありますよね。

 ゲームにかかるお金にはいくつか種類があります。

まず、ゲームソフトのお金。通信費。
そして、アイテムを買うお金。いちばん問題になるのは、このアイテムを買うお金でしょう。

たとえば、『フォートナイト』(*6)のスキン(*7)。これは見た目を変えるだけでゲームバランスは変えません。これを手に入れると強くなって、どんどん先のステージに進めるといったアイテムではないということです。ただただ、「おしゃれしたい」、それだけのためのアイテムです。

スキンを買いたいという気持ちは、「ユニクロの新しいUTを買いたい」というのと同じです。そこにお金をかけるか、かけないかは価値観の問題であり、そんなにおかしな話ではないと思います。

*6『フォートナイト』……2017年に公開されたバトルロイヤル型のオンラインゲーム。ニンテンドースイッチでリリースされてから小学生に広がり、根強い人気がある。

*7スキン……キャラクターの見た目を変えるアイテム。服だけでなく顔、髪型、体型まで着せ替えることができる。

 また、友だち同士でプレイしていて、「スキンをおそろいにしたい」という話になることがあります。同じサッカーチームのメンバーが、同じユニフォームをそろえるというのと変わりません。むしろ、同じスキンにすることで、仲間同志の絆を強めるという意味合いの話になります。

こういう「見た目を変える」だけで、ゲームバランスを変えない課金は、「なかなかほしいキャラクターが出ない。次は絶対出るはずだ」と繰り返して、気がつけば10万円を注ぎ込んでしまった……というようなガチャガチャなどの仕掛けとは、性質もモチベーションもだいぶ違います。

親に内緒で課金してしまうというトラブルでは、ガチャガチャ的な仕掛けに課金しているケースが多いのは確かです。家庭で過度にゲームを禁止されている場合も、「親に内緒で」となりがちですよね。

――「親に内緒で」というのは、キーワードかもしれませんね。一方的に押さえつけられて制限されるだけだと、やりたい気持ちとぶつかって、じゃあ隠れてやろうとなるのは大人も同じですよね。結局、ふだんから親子で話をしているかも大きいのでしょうか?

 何のために、何をしたいから、そのアイテムがほしいんだ――ということを、子どもが親さんに伝えられる関係があるかどうか。それが、「親に内緒で」を減らすためには、すごく大事だと思います。

ぼくは、子どもがゲームをすることを認めながら、親子関係を良好に保てると思っていますし、むしろ、親子のコミュニケーションが増える可能性があるとさえ考えているんですよ。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

……と穏やかに語る関先生ですが、これまで、たくさんの診察実績の中で、具体策も見出していらっしゃるはず……!

次回、「子どもからゲームを奪うことのないルール作りとは?」につづきます。

取材・文/くりもときょうこ

※関正樹先生のインタビューは全3回。
第2回は’21年11月6日、第3回は’21年11月9日公開予定(公開日までリンク無効)。

(プロフィール)
関正樹(せきまさき)
児童精神科医。1977 年生まれ。福井医科大学卒。岐阜大学医学部付属病院、土岐市立総合病院精神科を経て、現在は岐阜県瑞浪市にある医療法人仁誠会大湫(おおくて)病院に勤務。3ヵ月分の予約が30分で埋まる。白衣の下にはキャラクターT シャツ、足元からはカラフルな靴がのぞき、丁寧で優しい語り口の医師。「親戚のおじさんくらいの適度な距離感」を大切に診察にあたる。著書に『発達障害をめぐる世界の話をしよう:よくある99の質問と9つのコラム』(批評社)など。

★「子どもたちはネットやゲームの世界で何をしているんだろう」(YouTube動画)

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くりもと きょうこ

編集者・ライター

総合出版社で編集者として14年間、青年誌・女性誌・男性週刊誌・児童書など、多彩な雑誌・書籍の編集に携わったのち、信州の村に移住して雑食系編集者・ライターに。文弱の徒たる夫と、ホームスクーラー3兄弟とにぎやかに暮らす。

総合出版社で編集者として14年間、青年誌・女性誌・男性週刊誌・児童書など、多彩な雑誌・書籍の編集に携わったのち、信州の村に移住して雑食系編集者・ライターに。文弱の徒たる夫と、ホームスクーラー3兄弟とにぎやかに暮らす。