自閉症の男の子が突然絵を描きだして世界的なアーティスト・GAKUになるまで

GAKUが自閉症アーティストになるまで #2 描き始めたきっかけとは? アートディレクター・古田ココさんインタビュー 

「Gaku,paint!(ガク、絵を描く!)」

岡本太郎美術館から帰ってきたその翌日。教室で「Gaku,paint!(ガク、絵を描く!)」と、突然筆を握ったがっちゃん。

Cocoさん:そんなこと言い出すなんて思っていなかったので、たまたま教室にあったトレーシングペーパーと、百均で買った絵筆を急いで渡しました。

このときがっちゃんは、いくつかの色で、力強い円を描きました。私が「これは何?」と尋ねると、「たいよー(太陽)」って。岡本太郎の作品のモチーフが太陽だなんて、誰もがっちゃんに説明していないのに……。本当に驚きましたね。

そして、この子は話せないだけで、頭もいいし、いろいろ観察できて、物事を知っている。何より絵の才能があって、絵が彼のコミュニケーションツールになるんじゃないかと感じたんです。

今でこそ、がっちゃんは「背景を塗ってから絵(モチーフ)を重ねて描く」ということを知っていますが、このときは先にモチーフとなる円をいっぱい描いてから、その円に重ならないようギリギリのラインで背景の黒を塗っていたといいます。一生懸命にこの作業する姿を見て、「こんなに集中して取り組めるのなら、やれるかもしれない」と、Cocoさんはあることを典雅さんに持ちかけます。

それは、「がっちゃんには才能があるから、投資してみないか」ということでした。

典雅さん:Cocoさんからの相談に、「彼の興味がどこまで続くのか見てみたい。そして、どうせやるなら思い切ってやらせてあげよう」と僕も思いました。

かくして、がっちゃんのアーティスト・GAKUとしての扉が開きはじめました。

間違いをなくし正解を増やしていく声掛け

今ではいろいろなブランドとコラボし、GAKUの絵は世界中に広がっています。  画像提供:アイム

Cocoさん:テクニック的なものを身につけられたら、彼の世界が広がっていくと思ったので、筆の使い方だけは教えました。

あと、がっちゃんはこだわりが強いから、ハッキリ・きれいに塗るのが正解だとずっと思っていたんです。だから、力を抜いて筆を使うのが最初は難しかったですね。二人ですっごくすっごく練習して、絵の中で「かすれ」を出せるようになったんです。これも大きな進歩。かすれに対しても、「これだっていいんだよ」って、彼の正解の幅を広げてあげるようにしています。

思い描いたイメージそのまま、筆が進んでいく喜び。絵の技法がスキルアップするに従って、描けるものが増え、がっちゃんの“語彙力”も上がっていきました。

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