自閉症の男の子が突然絵を描きだして世界的なアーティスト・GAKUになるまで
GAKUが自閉症アーティストになるまで #2 描き始めたきっかけとは? アートディレクター・古田ココさんインタビュー
2023.11.23
アーティスト・GAKUさんは2001年生まれの22歳。どこにでもいるイマドキな男の子に見える彼ですが、実は世界的なアーティスト。
国内外のギャラリーや商業施設での展示会をはじめ、有名ブランドの『レスポートサック』や『ザ・ボディショップ』『ゴディバ』『ダイアナ』などとのコラボ作品も展開し、世界を股にかけて活躍しています。
GAKUさんは、幼少期に自閉症と診断され、4歳から14歳まで、アメリカ・ロサンゼルスで療育生活を過ごしました。重度知的障害と多動症を持ち、現在は5歳程度の英語と、3歳程度の日本語を交えて会話をします。
そんなGAKUさんが自閉症アーティストになるまで。連載2回目では、帰国後、絵を描き始めるまでの軌跡を、パパ・佐藤典雅さんと、アートディレクターのCocoさんに伺いました。
(全3回の2回目。1回目を読む)
目次
日本には通わせたい施設がなかった
9年間のアメリカ生活に区切りをつけ、GAKUさん(以下、がっちゃん)が14歳のときに帰国。帰国後、見学に行った福祉施設はどこも閉鎖的で、暗いイメージしかありませんでした。そこで佐藤典雅さん(以下、典雅さん)は、がっちゃんを通わせたいと思える場所をと、自身で福祉施設を作ることに。
典雅さん:全ての子どもが胸を張って「I am!(アイム!)」と宣言できる世の中にしていきたいという思いを込めて、社名を「株式会社アイム」と名付けました。
発達障害児が通う放課後等デイサービス(以下、放課後デイ)を皮切りに、フリースクール「ノーベル高等学院」(現在は休校中)などを次々に創設。がっちゃんも、もちろんこの施設の生徒となりました。
そして、このフリースクールで、がっちゃん16歳のときに、GAKU誕生のキーパーソン・Coco(ココ)さんに出会います。
典雅さん:Cocoさんは、全身黒のモード服、真っ赤な髪とマニキュアでうちに面接に来たんですよ。福祉の世界にはなかなかない存在感で、これは面白いなと思いましたね。
Cocoさんはというと、「がっちゃんは、社長の息子で、一番の問題児だと聞いていました」と笑って振り返ります。そう、当時のがっちゃんは、スタッフ全員を困らせ、自分の父親が運営する施設なのに“出禁”を命じられるほどでした。
Cocoさん:私は、がっちゃんを一目見て、「なんてキュートな子なんだろう!」「この子とは気が合いそうだな」と感じて。それで典雅さんに、「がっちゃんの専属スタッフにしてほしい!」と名乗り出たんです。
インプットする体験をさせたい!
Cocoさん:障害がある子たちは、車で送迎されて一日施設で過ごすというのが一般的です。でもがっちゃんの人生には、椅子に座って勉強する時間は、いくら積み重ねてもあまり意味はないと思いました。同世代の子と同じように外へ出て、たくさんのものを見て、いろいろな体験をさせてあげたいな、って。
そう思い立ったCocoさんは、がっちゃんを含めたノーベル高等学院の生徒を連れて“遠足”という名目で美術館を巡ることに。
そして転機が訪れます。それは川崎市にある岡本太郎美術館を訪れたときの出来事でした。5分と同じ場所に止まっていられない多動症のがっちゃんが、岡本太郎代表作である「傷ましき腕」の前に立ち止まり、じっと作品を見ていたのです。
Cocoさんからこの話を聞いた典雅さんも、「信じられなかった。がっちゃんが1ヵ所に立ち止まっているなんて、それまで見たことがなかったから」と振り返ります。
そして翌日、奇跡が起こるのです。