米津真浩「月謝が払えなかった僕がプロピアニストになれたワケ」

ピアニスト米津真浩さん「私の“音育”」#1 ~育った環境編~

ピアノは「最高の遊び」だった

「幼稚園の頃に父がガンをわずらい、小学校1年生のときに亡くなりました。母親は一人で僕を養わなければいけなくなり、家計はとても厳しかったです。家にピアノを買うなんてもってのほか。教室の月謝を払うのも難しく、小学1年生あたりで通えなくなりました。辞めたくはなかったけど、続けるのが困難な環境だったんです。

そんなとき、たまたま幼稚園の先生の親戚がピアノ教室をやっていて、通わせてもらえることになりました。その先生は我が家の事情をご存知だったので『遊びに来てもいいわよ』と言ってくれて。正直、親が月謝をちゃんと払えていたかはわからないのですが、その先生がいたから僕はピアノを続けられた。だからすごく感謝しています。

また、その時間は日々のストレス解消になっていたのかもしれないし、やっぱり当時の僕にとってピアノは最高に楽しい遊び。ピアノが嫌になって辞めてしまう子はいますが、僕の場合はそういう発想すら浮かびませんでした。

当時のレッスン内容で覚えているのは、自分が気になる曲の弾きたい部分だけ教えてもらうというもの。プロを目指すようなガチガチの技術指導ではなく、音楽を好きでい続けることや、楽しむことに重きを置いてくださっていたと思います。

僕の場合は『これをしなさい』って指示されるのがすごく嫌いで。もちろん人によりますが、どれだけ好きで始めても、締め付けが強すぎるとモチベーションを保てなくなることがあります。そうすると最悪、辞めてしまうことも。それはピアノだけに限らず、幼少期の習い事ならどれでも言えることではないでしょうか」

「僕の場合は楽しむ気持ちを尊重してもらえたからこそピアノを続けられたのかもしれないし、結果的にピアニストとしての今があるのかもしれません」(米津さん)。  写真:日下部真紀

周囲の支えはもちろん、「ピアノは遊び」という感覚だったからこそ、経済的に窮する状況でもピアノを続けられたと語る米津さん。一方で、遊びだったからこそ、プロになりたいという願望はなかったそうです。

通った高校は「千葉県立幕張総合高校」。当時は普通科でありながら、自分が興味のある授業を受けられる総合選択制を採用しており、「ソルフェージュや聴音など音楽に関する専門的なことが学べる」というのが進学の決め手でした。

そして、高校卒業後は東京音楽大学の器楽専攻ピアノ演奏家コースに進みます。ピアニストを目指して音大に進学する人の多くは、遅くても大学進学前にはプロとしてのキャリアを見据え、早くから研鑽を積んでいくのがオーソドックスなコースとされています。しかし、米津さんはプロピアニストになるために音大に入学したわけではありませんでした。

「僕の場合、大学進学の際にも、ピアニストを夢見ていたわけではありません。それまで生きた中でもっとも長く続いた『趣味』である、音楽に関わる仕事ができれば、という思いで音大を選びました。当時は『CDショップの店員さんもいいな』などとも考えていたのです。だから音大を選んだ時点では、明確な理由や目標はなかったですね」

米津さんがピアニストを目指したのは、大学入学時どころか、最終年の4年生になってから。早い人では小学生の頃から、音大の教授に師事することもあるピアニストの世界で、これは異例の遅さです。そんな米津さんは、どのようにプロとしての道を歩むことになったのでしょうか。


取材・文/井上良太(シーアール)

※米津真浩さんインタビューは全3回。次は21年8月12日8:00〜公開です(公開日時までリンク無効)。
#2 米津真浩の“普通じゃない”ピアノ道「家にピアノがなくても音大合格」

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よねづ ただひろ

米津 真浩

ピアニスト

1986年2月14日生まれ。千葉県出身。ピアニスト。千葉県立幕張総合高校を経て、東京音楽大学器楽専攻(ピアノ演奏家コース)を卒業。同大学院を首席で卒業。大学・大学院ともに特待奨学生として在学。 第76回日本音楽コンクールピアノ部門(2007年)で第2位入賞と岩谷賞(聴衆賞)を受賞。2013年・2014年度ローム・ミュージックファンデーション奨学生としてイタリアの名門・イモラ音楽院へ留学。 リサイタルなど演奏家としての活躍のかたわら、YouTubeや17LIVEなどでの積極的な発信を行い、クラシックをより多くの人に広める活動をしている。 https://linktr.ee/yonezutadahiro

1986年2月14日生まれ。千葉県出身。ピアニスト。千葉県立幕張総合高校を経て、東京音楽大学器楽専攻(ピアノ演奏家コース)を卒業。同大学院を首席で卒業。大学・大学院ともに特待奨学生として在学。 第76回日本音楽コンクールピアノ部門(2007年)で第2位入賞と岩谷賞(聴衆賞)を受賞。2013年・2014年度ローム・ミュージックファンデーション奨学生としてイタリアの名門・イモラ音楽院へ留学。 リサイタルなど演奏家としての活躍のかたわら、YouTubeや17LIVEなどでの積極的な発信を行い、クラシックをより多くの人に広める活動をしている。 https://linktr.ee/yonezutadahiro