多民族国家セルビアで外国語のならいごとが盛んな理由

「世界の子どものならいごと」#3 セルビア・ベオグラード編

コーディネーター:希代 真理子

小学校では1年生から英語が必修

現在は、サッカー以外に、英語も習っているステファンくん。

「セルビアの公用語は、国の人口の8割を占めるセルビア語ですが、他にハンガリー語、スロバキア語、クロアチア語、ルーマニア語、ルシン語、アルバニア語が、少数民族の多い州や地域で公用語になっています。

また少数民族は、小学校からその言語で教育を受けることを認められていて、例えばハンガリー人の多い北部に行けば、ハンガリー語の小学校から大学まであります。

セルビアの小学校では、英語が1年生から必須科目で、高学年では英語のほかに、もう一言語が加わります」

オンライン英語教室レッスン中のステファンくん。    
写真提供:富永正明

「学校の授業とは別に、今、習っている英語のオンラインレッスンでは、テキストは使いません。毎回先生がテーマを決めて、そのテーマに沿って会話をしたり、新しい語彙を学んだりしています。

テーマは“お買い物”や“旅行”、“スポーツ”など様々。授業時間は30分ですが、子どもに飽きさせないように、後半にはクイズなども用意してくれています。
こういった小学生を対象にした英語教室も人気で市内にはいくつかあります。

セルビア人の英語の先生が、

『英語は他の人々の文化を理解するのに欠かせないツール。90年代のような内戦を繰り返さないためにも、外国語教育は大切です』

と言っていたのがとても印象的でした」(正明さん)

幼少時から文化伝統継承活動に取り組む活動も

英語などの外国語教育が外向きだと考えれば、その対局にあるのが”クッド(KUD)“と呼ばれる文化芸術グループの存在です。

「旧ユーゴスラビアから独立して出発したセルビアは、伝統文化保護に力を入れる国の方針もあり、現在この”KUD”の活動はとても盛んです。

セルビアでは、結婚式などの祝い事や数々のイベントで、民族舞踊を踊るのがしきたり。

中でも最も有名なものが『コロ』と呼ばれる円舞は、2017年には、ユネスコの無形文化遺産になりました。

グループで手を繋ぎ、腰紐や肩を掴みながら、笛やアコーディオンの伴奏で踊ります。

ベオグラードのような都会になると、実際に民族舞踊を踊る機会は結婚式に招かれる時ぐらいですが、”KUD”が幼稚園に出張してきて、お遊戯のように伝統舞踊のワークショップなどを行うこともあります。

そのためか、『コロ』は足のステップが難しいのですが、小学生が上手に『コロ』を踊る姿が、ベオグラードの結婚式でも見られるようになりました」(正明さん)

セルビアの街、アリリェのKUDのみなさん。    
画像提供:富永正明

統合と分断を繰り返してきたセルビアですが、かつてのナショナリズム的な流れから相互理解へとシフトしています。

「90年代にユーゴスラビア各地で民族主義が高まり、最終的には各地で内戦という悲劇を起こしてしまいました。

しかし、その民族主義も現在は違ったものになっていると感じます。
一時期強まった他民族への憎悪ではなく、自分たちのアイデンティティを愛し、他人も敬うような流れに変わってきています。

そんなことを気づかせてくれたのが、多くのセルビア人、そしてお隣のボスニアやクロアチアといった、かつて内戦で戦っていた人々から直接聞いた言葉です。それは

『他の人を愛するためにはまず自分を愛せ』

というものです。

この言葉をセルビアの”KUD”で聞いた後に、ボスニアの”KUD”の方からも聞く、ということがありました。
聞いたときは、この地域の人々の考え方の変化に嬉しくなりましたね。

ちなみに、今ではボスニアやクロアチア、セルビアの”KUD”が定期的に交流の場も設けています」(正明さん)

ならいごととしても人気の英語や、その他の外国語教育。そして自分たちのルーツを培うための”KUD”。
このふたつのバランスが程よく取れることで、他者への理解がより一層、深まるのでしょう。

多民族・多言語環境で育つ子どもたちが、相互理解をする上で大きな助けとなる外国語教育。
正明さんのお話の中で、セルビアの首都ベオグラードで外国語の教育がならいごととして、盛んな理由にハッとさせられました。

26 件
きたい まりこ

希代 真理子

コーディネーター

1995年よりドイツ・ベルリン在住。フンボルト大学でロシア語学科を専攻した後、モスクワの医療クリニックでインターン。その後、ベルリンの映像制作会社に就職し、コーディネーター として主に日本のテレビ番組の制作に関わる。2014年よりフリーランスとして活動。メディアプロダクションに従事。2020年にAha!Comics のメンバーとして、ドイツの現地小学校を対象に算数の学習コミックを制作。

1995年よりドイツ・ベルリン在住。フンボルト大学でロシア語学科を専攻した後、モスクワの医療クリニックでインターン。その後、ベルリンの映像制作会社に就職し、コーディネーター として主に日本のテレビ番組の制作に関わる。2014年よりフリーランスとして活動。メディアプロダクションに従事。2020年にAha!Comics のメンバーとして、ドイツの現地小学校を対象に算数の学習コミックを制作。