親も心の整理が必要。ときには誰かを頼ってもいい。
「過去に子どもが不登校だった時期がありました。この時に私はイライラ、モヤモヤしていて、子どもとのコミュニケーションがうまくいかなったのです」
「こんなシチュエーションに陥ったときは、まず親自身が、なぜイライラしてしまったのだろう、子どもに何を期待しているのだろうと、自分へ問いを立てる必要があります。自分の問題と相手(子ども)の問題を切り分けること、これがバウンダリーの引き直しにとって重要なのです」
「私の場合は、『子どもが学校の勉強に遅れてついていけなくなってしまう気がする』『人間関係を広げていく機会が損なわれてしまう気がする』など、自分の中に、子どもの将来に対して不安な気持ちがあることに気づきました」
「しかし、不安に感じていることは、あくまで自分の中での想像にしかすぎません。起きてもいないのに、独りよがりの答えを出す必要はないのです。『ああ、私は今不安なんだ』と、抱えている感情をただ受け止める。そこでとどめることが大切です」
例えば、一つの大皿に料理がてんこ盛りになっている様子をイメージしてください。
大皿の上に、子どもが不登校という事実、子どもが感じる感情、親の抱える事実や感情が乗っているとします。そこから親の抱えている感情や事実を取り出し、子どもの抱えている事実や感情を残すのです。
お皿が整理されたところが本当のスタート、ここから親子の対話が始まる、と鴻巣さんは話します。
「今ある事実と、あなたの感情はわかった。では、そこに私の願いを一緒に乗せてもよいかな? と、親と子、それぞれが抱く感情や願いとのバランスが取れるよう調整をしていくのです」
とはいえ、子どもに突然「あなたの思いを聞かせてちょうだい!」と言っても、とっさに気持ちを言葉でうまく表現するのは難しいもの。また、子どもが緊張状態にあると本音はなかなか出てきません。
親は自分の意見を押しつけて結論を出そうとせずに、まずは子どもの様子をよく見て、目の前の事実と子どもの意見を受け止めることが大切です。
また、1人で実行するのが難しいときは、専門家を頼ることも大切。
「子どもが学校に行かなくなると、まずは子どもを病院や専門家のもとへ連れて行こうと考える親御さんが多いと思います。でも、その前にやることがあります」
「まずは親自身が、自分の心を整えること。カウンセリングや、専門家など第三者の手を借りるのも良いでしょう。子どもだけでなく、親の方も、自分の願い・不安・期待を明確にするのが、対話のスタート地点かなと思いますね」
子どもも親もそれぞれ独立した別の人間であり、一人ひとりの思いは尊重されるべきもの。旧来的な「子は親に従うべき」という思考から脱却していくことが、親子関係、バウンダリーを守ることにもつながります。
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この記事では、鴻巣麻里香さんの経験をとおして、バウンダリーの持つ重要性、親子関係や人間関係においてのバウンダリー引き直しのプロセスを解説していただきました。
「バウンダリー」について鴻巣さんに伺う連載は全3回。次の第2回では、ネットやSNSにおけるバウンダリー問題についてお聞きします。最後の第3回では、性的同意の重要性、デートDVなど深刻なバウンダリー侵害の問題について解説します。
撮影/安田光優
永見 薫
複数の企業勤務後、フリーライターへ。地域や街、暮らしや子育て、働き方など「居場所」をテーマ に、インタビューやコラムを執筆しています。 東京都の郊外で夫と子どもと3人でのんびり暮らす。知らない街をおさんぽしながら、本屋を訪れる休日が好き。 X:https://twitter.com/kao_ngm note:https://note.com/kaoru_ngm
複数の企業勤務後、フリーライターへ。地域や街、暮らしや子育て、働き方など「居場所」をテーマ に、インタビューやコラムを執筆しています。 東京都の郊外で夫と子どもと3人でのんびり暮らす。知らない街をおさんぽしながら、本屋を訪れる休日が好き。 X:https://twitter.com/kao_ngm note:https://note.com/kaoru_ngm
鴻巣 麻里香
KAKECOMI代表、精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー。 1979年生まれ。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著作に『思春期のしんどさってなんだろう? あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題』(2023年、平凡社)、共編著に『ソーシャルアクション! あなたが社会を変えよう!』(2019年、ミネルヴァ書房)、『わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』(リトル・モア)がある。
KAKECOMI代表、精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー。 1979年生まれ。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著作に『思春期のしんどさってなんだろう? あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題』(2023年、平凡社)、共編著に『ソーシャルアクション! あなたが社会を変えよう!』(2019年、ミネルヴァ書房)、『わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』(リトル・モア)がある。