「無痛分娩」体験者の肉声…「出産の痛み無くていい」社会はいつ来る?

無痛分娩を希望する時の大事なポイント

髙崎 順子

日本の無痛分娩実施率は増えつつある。「出産は痛いもの」そんな常識から解放される日も近い?(写真:アフロ)
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【無痛分娩の実施率はおよそ10年間で4倍に】
2022年6月、岸田首相が出産育児一時金の増額を表明。松野官房長官は、2023年度から増額する方針を示した。

日本の無痛分娩実施率は、諸外国に比べると依然低い水準だ。しかし、2008年に2.6%、2016年に6.1%、2020年には8.6%と、増加傾向にある(※)。出産一時金が増額されれば、自然分娩より費用のかかる「無痛分娩」がより選択しやすくなる見込みだ。

この記事では、増えつつある無痛分娩の背景と、実際に無痛分娩を選ぶ際に必要な知識を、『無痛分娩と日本人』の著者・田辺けい子氏(神奈川県立保健福祉大学・准教授)に、子育て環境に詳しいライターの髙崎順子氏が取材した。

(※編集部注:出典「照井克生.全国の分娩取り扱い施設における麻酔科診療実態調査.厚生労働省科学研究費補助金子ども家庭総合研究事業.2008」「日本産婦人科医会「分娩に関する調査」2017」、「令和2(2020)年度医療施設(静態)調査」それぞれ調査方法は異なる)

田辺けい子(たなべ・けいこ)神奈川県立保健福祉大学 准教授(助産師)。1992年東京大学医学部附属助産婦学校卒業。都内および埼玉県内の周産期センター、総合病院産婦人科勤務を経て現職。2002年以来、無痛分娩に関する調査研究を行っている。】

前編:「無痛分娩」まだ9%弱 日本で普及が遅れる歴史・格差・出産観を専門家が解説

前編では、日本で無痛分娩の実施率が低い理由を、研究者の田辺けい子先生に聴きました。後編では、その日本でなぜ今無痛分娩が増えつつあるのか、希望する人はどのように行動すればいいのかを、引き続き田辺先生に伺います。

「お産の痛みはなくていい」と言える社会に

日本国内でも無痛分娩は戦後から、細々とながら、産科麻酔に関心の高い先生方によって行われてきました。お産全体に占める無痛分娩率は2008年に2.6%、2016年に6.1%、2020年には8.6%と、ここ10年で増え続けています。

田辺先生はこの変化を、「女性たちが、『痛みなく産みたい』と言えるようになったから」と考えています。

「前編では、嫁として家庭内でのポジションを固めるために、産む痛みに価値を置いていたとお伝えしました。現代は核家族が増え、女性がこのようにお産の痛みに価値を置く必要が薄れています。その意味で、無痛分娩が普及しやすい時代になっているのでしょうね」

家庭のあり方が、大家族から核家族へ変化し、共働き夫婦が増えたことも、無痛分娩が増えた背景の一つ

また夫婦共働きが増え、家計を男性とともに担う女性たちが増えてきたことも、無痛分娩の増加に影響しているのでは、と田辺先生。

実際に、コクリコ編集部が行ったヒアリングでは、無痛分娩のための追加費用があっても、家計を担う一人として、「夫には有無を言わせないで選びました」との体験談もありました。

医療・行政の側の取り組みもより活発に

また田辺先生は「医療現場で産科麻酔への関心が高まっている」とも言います。

「ここ10~20年ほどで、産科麻酔に積極的に取り組む麻酔科医の先生方が増えました。その方々が産科医の先生方とともに、安全な実施のための活動をリードするようになっています。そのおかげもあって、無痛分娩の麻酔は、使用する薬剤や方法が年々洗練されています。

かつては強めの薬をドンと多めに使っていましたが、今は弱めの薬を少しずつコントロールして注入する技術が確立しています」


技術面の洗練に加え、医療・行政の側からは、安全性を高めるための実態調査と情報公開が進んでいます。

2018年には、無痛分娩関係の医療従事者や関係団体が、「安全な無痛分娩の実施のために」とJALA(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会)を始動。技術研修や一般向けの情報提供を行うと同時に、全国の無痛分娩実施施設に呼びかけ、マップ型の検索サイトを運営しています。厚労省が公開している都道府県別リストも、2023年4月よりJALAに一体化されることになりました。

JALA(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会 The Japanese Association for Labor Analgesia)
ウェブサイトより 全国無痛分娩施設検索のページ

「JALAでは申請のあった施設について、施設の公式サイトに掲載されている情報を、JALA事務局が確認した上で掲載しています。医療機関には『医療広告ガイドライン』があり、虚偽の記載があった場合は医療法で処罰されるので、一定の信頼度で評価できる形になっていると思います」(田辺先生)

2020年には日本で初めて、国による国内の全分娩取り扱い施設での、無痛分娩の実態調査が行われ、実数データを把握することができました。

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