『あらしのよるに』【全7巻 全ページ試し読み】380万部の国民的ベストセラー 20年ぶり“奇跡“の新シリーズが3月12日スタート! 『くものきれまに』を全ページ無料公開!

「あらしのよるに」シリーズより『くものきれまに』を全ページ無料公開!

児童図書編集チーム

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オオカミのガブとヤギのメイが「食う・食われる」の関係を超えて友情を育む物語、『あらしのよるに』。
「ともだちだけど、おいしそう」のキャッチコピーで親しまれる本作は、1994年の初刊行以来、多くの読者に愛され続けています。

そしてこのたび、20年ぶりとなる新刊『新あらしのよるにシリーズ(1) あいことばはあらしのよるに』が3月12日(水)に発売されます!

新刊の発売を記念し、『あらしのよるに』シリーズ全7巻の期間限定無料公開が決定!
本記事では、本シリーズ3作目となる『くものきれまに』を全文公開いたします。

ガブから見たら、メイのともだちは大好きなごちそう。
メイのともだちタプと出会ってしまったガブは、タプを食べてしまうでしょうか。

「あらしのよるに」シリーズ第3章『くものきれまに』

作:きむらゆういち 絵:あべ弘士
※全ページ公開は4月10日(木)をもって、終了いたします。

くもの きれまから、ようやく ごごの たいようが かおを だした。
ポプラなみきが いっせいに かげを おとし、みちばたの みどりが あざやかに うかびあがる。

「メイ、どこに いくんだい?」
ふとった ヤギが、おかを のぼる ヤギに きいた。
「え? いや、あの……ソヨソヨとうげに。」
「えー!? あの あたりは、ときどき オオカミの でる ところじゃないか。」
「はい、でも、ともだちと やくそくしてて。」
「そうか。でも、きを つけなよ。あそこで オオカミの ひるめしに された やつが いるんだからね。」
「ハハ、だいじょうぶですよ、タプ。」
ふとった ヤギの なまえは タプと いった。
「メイの、その のんきな ところが、しんぱいなんだよ。」
「はいはい、きを つけて いってきますよ。」

メイは タプに わらって みせると、おかを のぼりはじめた。
としうえの タプは、ちいさい ときから、なにかと メイを かばってくれてきた。
しんぱいそうな タプの まなざしを せなかに かんじながら、メイは ソヨソヨとうげに いそいだ。

ソヨソヨとうげで メイと まちあわせを している ともだちとは、なんと、その オオカミだった。
二ひきは、あらしの よるに まっくらな こやの なかで であい、
あいてが だれだか わからないまま、かたりあった。
そして、とうとう、ともだちに なってしまったのだ。

「やあ、どうも、おまたせしちゃって。」
「いやあ、おいらも たったいま きたところでやんすよ。」
オオカミが ちょっぴり てれて、わらう。
「とちゅうで ともだちに あっちゃいましてね。
“メイは のんきものだから しんぱいだ”って いわれて。
あ、わたしの なまえ、メイって いうんですよ。」

「へえ、メイでやんすか。そりゃあ なんとも、ヤギらしい おなまえで。
おいらは ガブって いいやす。」
「ほう、そりゃ、つよそうな なまえだ。
でも、なんか へんですよね。
いまごろ、おたがいの なまえを いいあうなんて。」
「ほーんと。このあいだの はれた ひにも、いっしょに ピクニックに いったでやんすのにね。」
「ハハハ、まったくだ。」
二ひきは たのしそうに わらう。

「それでね、その ともだちが、オオカミに きを つけろって いうんですよ。
フフ、いまから その オオカミに あうなんて、とても いえませんでしたよ。」
「デヘヘ、おいらも おんなじでやす。
ヤギと ともだちだなんて、ぜったい なかまに いえないでやんすよ。」
「わたしたちだけの ひみつですよね。」
メイが こえを ひそめて いうと、ガブが はずかしそうに わらう。
「そんな いいかた すると、おいら、ドキドキしちゃいやすよ。
なんか、おしっこ したくなっちまった。
ちょっくら、しつれいして。」
ガブが そそくさと うらの はやしに はいっていった。

その ときだ。
タプが さかみちを のぼって、こっちに やってくるじゃないか。

「ど、どうしたの、タプ。」
メイが あわてて かけよると、
「いやあ、ひとつ だいじなことを、おまえに つたえようと おもってね。」
タプは、はあはあと いきを はずませる。

「じつはね、オオカミに ひるめしに されたって やつは、
ちょうど、おまえが たっているところに いたんだ。
そこで おもったんだが、ともだちを まつなら、しげみに かくれて まってたほうが いいぞ。」
「わかったよ、タプ。そのとおりに するよ。それじゃ、ありがとう。」
「くれぐれも きを つけるんだぞ。」
「はーい。」

タプが かえるのと、ガブが はやしから あらわれたのが、どうじだった。
「おまたせでやんす。」
ガブは、にこにこと わらっている。
どうやら、なにも きづいていない。
メイは、ふうーっと ためいきを つく。

「いまね、すごく いい ものを みつけたんでやんすよ。」
ガブが、めを かがやかせて はなしはじめる。
「そこを すこうし のぼった ところにね、いわの あいだから、
きらきらと きれいな みずが わいてたんでやんす。」
「ああ、それって、このへんでは “イグスリの いずみ”って よばれている みずですよ。
とっても からだに いいんです。」
「からだに?」
「そう、おいしいうえに、すごく しょくよくが でるんです。」
「ハハハ、しょくよくなら、おいらは いつだって……。」
ヤギの 二、三とうは ペロリ……と いいかけて、ガブは あわてて くちを おさえた。

そのとき、メイは おもわず めを みはった。
ガブの かたごしに、また さかみちを のぼってくる タプの すがたが みえたからだ。

「ねえ、そ、その みず、いっしょに のみに いきません?」
メイが あわてて ガブを さそう。
「それじゃ、『よーい、どん。』で いきやすか。」
「そ、そうですね。よーい、どん!!」
メイの かけごえに、ガブは いっきに はやしの なかに かけだした。
メイも すぐに あとを おいかける。

はやしの てまえで、ちらりと ふりむいた その しゅんかん──。
「メイ、だめだよ、そんなとこに いちゃ。」
タプと めが あってしまったのだ。

次のページへ タプに引き止められたメイは、どうするのか…!?
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