「おさる」を30年描く童話作家 今度の「おさる」は「他者の受け入れ」 子どもが多様性を受け入れるには「好奇心」が必要
いとうひろしさん『おさるのしま』刊行記念インタビュー
2025.01.30
ライター:山口 真央
「なんでそんなことを?」理由を想像すると面白い
──移民問題がきっかけとなって描かれた作品だったとは、とても素敵な動機ですね。
いとう:ただ僕自身も、セルフレジを好んでつかうくらい、対人関係が得意なほうではありません。「みんな仲良く」って言葉も、好きじゃない。大事なのは、相手との距離の摑み方だと思います。
最新作『おさるのしま』では、今まで同じ種類のさるしかいなかった島に、ある日「おそろしいこえ」が鳴り響きます。主人公の「おさる」は、その声の主を確かめに、森の奥へと進みます。
絶対仲良くできないと思うような相手でも、「おさる」のように相手についてもっとよく知ろうとすることが、解決への糸口になります。「あの人はどうして、あんなことやっているのかな」と考えてみることです。
たとえば僕は、ついつい人を観察してしまうのですが、爪をきれいに飾っている人、七色の髪をしている人、全身にタトゥーが入っている人、それぞれに魅力的なんだけど、「日常生活に困ることないのかな」とか、考えてしまいます。
話す機会があれば、そんなことを聞いてみたくなります。失礼なことかもしれませんが、そういう好奇心が恐怖心を超え、相手を理解する第一歩になることもあります。
人間は、誰一人として同じバックボーンの人はいなくて、いろんな理由で行動しています。人と人が、心地よい距離感を保っていくのは難しいことかもしれないけれど、この人たちといっしょに生きていくという覚悟を持って、そのような世の中を目指していきたいですね。僕が『おさるのしま』で描いた世界に、これからの世界が少しでも近づいてくれたら、いいんですけどね。
『おさるのしま』著:いとうひろし
30年以上続く、絵本作家いとうひろし氏の「おさる」シリーズから生まれた、新作ストーリーブック。
「おさる」シリーズは1991年の『おさるのまいにち』以来、絵本のつぎに子どもがじぶんでよめる本として読者に親しまれてきたロングセラーです。累計は36万部を超え、路傍の石幼少年文学賞、IBBYオナーリスト選出、産経児童出版文化賞、野間児童文芸賞を受賞するなど、非常に高い評価を得てきました。
本作は「多様性」について考えられています。
ストーリーをより深く楽しめる、新しい形になりました。
たのしくまいにちの生活をおくっている、おさるたち。
でも、ある日とつぜん、おおきなこわい声が聞こえてくるようになります。
最初はまものだと思い、恐怖をおぼえますが、勇気を出してそのすがたを見てみると……?
やさしい表現で、深い思想にふれる「おさる」シリーズは、読み聞かせにもお子さんが自分で読むにも、大人のギフトにもぴったりです。
撮影/山口真央
山口 真央
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。