「おさる」を30年描く童話作家 今度の「おさる」は「他者の受け入れ」 子どもが多様性を受け入れるには「好奇心」が必要

いとうひろしさん『おさるのしま』刊行記念インタビュー

ライター:山口 真央

2025年に最新作『おさるのしま』を刊行した、作家のいとうひろしさん。
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1991年に刊行された『おさるのまいにち』。以降30年以上に渡って愛され続ける「おさる」シリーズを描くのは、作家のいとうひろしさんです。

短い文章に、かわいい「おさる」のイラストが添えられた物語。ユニークで、ちょっとシュールな展開に、子どもたちはワクワクしながらページをめくります。

実はこの「おさる」シリーズ、読者によってさまざまな解釈ができる、「深い物語」として話題を呼んでいます。はたしていとうさんは、この作品にどのような想いを込めているのでしょうか。

「おさる」シリーズで大事にしてきたことや、いまの子どもたちに必要だと思うこと、2025年1月に刊行した最新作『おさるのしま』を描いたきっかけなど、いとうさんの児童文学作品に迫ります。

いとうひろし
1957年、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒。大学在学中より絵本の創作をはじめ、1987年、絵本『みんながおしゃべりはじめるぞ』でデビュー。作品に『ルラルさんのにわ』(絵本にっぽん賞)、『おさるのまいにち』『おさるはおさる』(ともに路傍の石幼少年賞)、『おさるになるひ』(国際アンデルセン賞国内賞、産経児童出版文化賞)、『おさるのもり』(野間児童文芸賞)、『だいじょうぶ だいじょうぶ』(講談社出版文化賞絵本賞)、「ごきげんなすてご」シリーズなどがある。

「サラリーマンへの皮肉?」と言われて面白かった

──小さな島に住んでいるおさるが、毎朝おしっこをして、ごはんを食べて、毛繕いして、昼寝して。ほのぼのした日々を描いた『おさるのまいにち』の刊行から、30年以上が経ちました。

いとう:『おさるのまいにち』は、当時の僕が考える「理想の世界」を描いた作品です。

若いころの僕は抑圧的な社会のシステムや、自分自身の歪みを意識していました。「自分はどうしたいんだろう?」「自分は何になりたいんだろう?」と、「自分」について考えることがたくさんありました。

そして、いろいろ思索した末にたどりついた理想的な自分のあり方とは、自分と自分を取り巻く世界が完全に調和している状態で、「自分」という意識すらなくなることなのではないかと思ったんです。さらに昨日と今日と明日の違いや、自分と他人の違いも意識しなくなるのでは、という思いが、出発点になっている世界です。

もちろんこれはひとつの寓話です。この話を読んだそれぞれの人が、最も自然な状態の自分の姿をあれこれ想像してもらえばいいなと思っています。

そして本を出版してみると、知り合いから「『おさるのまいにち』は、サラリーマンに対する皮肉なの?」と言われて、すごく面白かったです。僕にとっては理想の世界を描いたのに、人によってまったく違う捉え方をしてもらえるのが、うれしいですね。

「おさる」シリーズの1作目『おさるのまいにち』。

答えが出ないことを考えるのが大好き

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