
ぼっち、不登校、同調圧力…10代が抱える悩みに向き合う小説たち 「未来屋アオハル文学賞」で『15歳の昆虫図鑑』が大賞受賞!
講談社作品が受賞10作品中4作品入賞! 10代の中高生に向けた新しい文学賞の受賞10作品を紹介
2025.08.02
乾ルカ『灯』孤独な者同士が互いの存在を照らし合う群像劇

〈あらすじ〉
この世界を、私はひとりで生きたい──。わかり合えない母親や、うざいクラスメート。誰とも関わらずひとりで生きたい、人生の“スヌーズ”を続ける相内蒼、高校2年生。その出会いは彼女の進む道を照らしはじめた──。
北の街・札幌を舞台に、臨場感溢れる筆致で激しく記憶と心を揺さぶる、光溢れる傑作青春小説!
〈注目ポイント〉
物語の主人公は「誰とも関わらずひとりでいたい」と願う蒼ですが、母親・めぐみ、幼なじみの米田、優しい友達・冬子など多層的な感情が交差する「群像劇」でもあるところが、本作の奥深さ。
仏教の教えにもありますが、人は他人とふれあってはじめて、自分の性格や価値観を認識することができるのであって、孤独な状態では自己の境界線があやふやになってしまうもの。それを「灯」という象徴的なもので表現しているところが見事です。
表紙は、Mrs.GREEN APPLEやELLEGARDEN、NulbarichのCDジャケットや、朝井リョウの装画などを手がけてきたイラストレーターのサイトウユウスケさん。暖かで美しい色彩と雰囲気が、作品の青春・孤独・成長といったテーマと深くリンクしています。
〈こんな人におすすめ〉
・孤独や不器用さを抱えている人
・群像劇的な物語に惹かれる人
佐原ひかり『スターゲイザー』短編・連作形式でキャラクターの内面に迫る「青春×アイドル」物語

〈あらすじ〉
アイドル事務所「ユニバース」に所属するデビュー前の青年、通称「リトル」。ある日、デビューに向けてレッスンに励む6人は、出演するイベントでもっとも活躍した1人を、デビュー間近のグループ「LAST OZ」に加えるという噂を耳にして……。デビューを目指す以外はバラバラの6人が出会ったとき、彼らの未来は大きく変わる──かもしれない。
〈注目ポイント〉
タイトルの「スターゲイザー」は、星を見る者という意味があります。ファンがアイドルに見る光、仲間同士がお互いの輝きを見つける視線、そして自分自身に宿る光。この三重の光によって6人が成長し、チームとしても輝いていく巧みな構造が、読みどころ。最終編では余命に関わるエモーショナルな展開も用意されており、作者自身も「一生に一度しか書けない」作品と振り返っています。
きらめく「金色」が目にまぶしいカバーデザインもポイント。イラストは、VTuber「緋八マナ」や、にじさんじメンバーのキービジュアル、アニメ『時光代理人ーLINK CLICKー』関連の描き下ろしイラストを担当している人気イラストレーター・漫画家の「うごんば」さん。光を受けたキャラクターの透明感、ハイライトが美しい瞳、そして首筋に見える血管など、キラキラした「アイドル」に憧れる10代の読者の心に刺さるポイントしかありません。アイドルを推す「観客」として読んでも楽しめます。
〈こんな人におすすめ〉
・アイドル×青春小説が好きな人
・ひとりひとりのキャラクターの内面を丁寧に掘り下げている物語が好きな人
・仲間との関係性の中で成長していくストーリーに胸を打たれる人
実石沙枝子『物語を継ぐ者は』創作の喜びと苦悩を追体験する冒険譚

〈あらすじ〉
中学生の本村結芽は、急死した伯母の部屋で、愛読する児童書『鍵開け師ユメ』の未発表原稿を見つけ、舞い上がる。「『鍵開け師ユメ」シリーズは、孤独な小学校生活を過ごした結芽にとって、唯一の友達であり、心の拠り所だった。伯母は、その作者イズミ・リラだったのだ。
しかし、遺稿は未完成だった。どうしても続きが読みたい結芽は、自分で物語の続きを書くことを決意し、主人公ユメの魔法の呪文を唱えて物語の中へ飛びこむ。そして、ファンタジーの世界と現実を行き来しながら自らの冒険を書き記していくが、何かが足りない。
物語に息吹を吹き込むには、伯母の、イズミ・リラの人生を知らなければ──。
現実を生きる自分、ユメとしての自分、伯母を探す自分。結芽の本当の冒険が、はじまった!
〈注目ポイント〉
読み手は、結芽の冒険を通じて「物語をつくる喜びと苦悩」を味わうことができます。
本の中の登場人物の言葉や出来事が現実の自分を励まし、変えていく様は、読書が「人生を豊かにする力」を持つことの象徴。「本の続きを書く」というメタ構造を通じて、主人公と読み手の距離がぐっと近くなるので、没入感は満点! 本好きにはたまらない一作です。
細部まで丁寧に描かれた線と、透明感のある水彩画のようなやわらかなテクスチャが目を引く表紙のイラストを描いたのは、イラストレーターのよしおかさん。書籍装画や音楽関連アートワーク、海外のゲームやアニメ関連のビジュアルなど幅広い分野で活動中で、『PSYCHO-PASS サイコバス3』や『呪術廻戦』のCDジャケットイラストも担当しています。
〈こんな人におすすめ〉
・本を読むのが大好きな人
・創作に興味がある人
・本や物語が「心の支え」だった人
長谷川まりる『呼人は旅をする』無理解、孤独、共存の難しさを描いた「SF×哲学」作品

〈あらすじ〉
「呼人(よびと)」とは、動物・虫・植物・自然現象などを“呼び寄せてしまう”特殊体質の持ち主のこと。
政府機関から認定され生活に制限を受けた「呼人」たちは、“呼び寄せてしまう”モノによる混乱を避けるために、ひとつの場所にとどまらず、旅をしながら生きていかなければならない。
物語は、5人の「呼人」、「呼人」に関わる家族や友人、支援者たちの視点から、社会の中で少数であること、そうした状況で生きるというのはどういうことかを描きだす。
〈注目ポイント〉
「呼人」がもつ怪異的な能力の描写は、ストレートに「社会の中で少数派として生きるとは、どんなことか」を問いかけています。
一見普通の人々が、「呼人」に無意識に傷つけられたり排除する場面もありますが、違いを乗り越え、心がつながる瞬間に光を当てているところがポイント。「呼人」を通して、「理解されないこと」「孤独」「他者とのつながり」といった普遍的なテーマを織りこんだ、SF的な味わいと深い問いが詰まっています。10代だけでなく、幅広い年齢の読者にも響く、読み応えのある一作。
ちなみに長谷川まりるさんののデビュー作は、2018年に「第59回講談社児童文学新人賞」佳作を受賞した『お絵かき禁止の国』。2024年には『杉森くんを殺すには』で、「第62回野間児童文芸賞」を受賞しています。
装画のmameさんは、元少女漫画家。レトロで懐かしさと温かみを感じるタッチで、物語性のある一枚絵を描きだしており、表紙を眺めていると物語への期待がふくらみます。
〈こんな人におすすめ〉
・少数者やマイノリティへの共感や理解を深めたい人
・SFの要素とリアルな人間ドラマが好きな人
・他者との関係性を丁寧に描く心温まる作品を求める人
・児童文学から大人小説まで幅広く楽しむ読書好きな人
インタビュー記事で長谷川まりるさんをもっと知ろう!
菅野雪虫『海のなかの観覧車』失われた記憶をたどり真実に迫るミステリー仕立ての社会派児童文学

〈あらすじ〉
精神的に不安定な母と2人きりで暮らす透馬には、なぜか5歳の誕生日の記憶がない。中学3年生の誕生日に「誕生日おめでとう」と書かれた手紙と、ビニールに包まれた黒い砂が入ったプレゼントを受け取る。
それをきっかけに、うっすらとある「遊園地に行った」という記憶を思い出した透馬は、過去と向き合い、家族や社会が隠した「真実」に迫っていく。
〈注目ポイント〉
透馬が失われた記憶をたどり、過去の重大な事件や社会の闇に迫っていく構造は、ミステリーとして非常に引きこまれます。特に環境汚染や企業の責任、報道の在り方など、現実社会に通じるテーマが物語の軸にあるのがポイント。
同時に、「父の存在」「祖父の過去」「母の抱える傷」など、家族の秘密が少しずつ解き明かされ、最後に「家族とどう向き合うか」を選択するシーンには、思春期の葛藤と成長の瞬間が凝縮されています。
透馬は中学生らしい素直さと苦悩を持ち合わせており、彼が感じる「大人への不信」「世界の不条理」がリアルなのも読者に響くところで、透馬と一緒に「正しさとは」「責任とは」を考えさせられる、社会派の作品です。
〈こんな人におすすめ〉
・社会問題に関心のある人
・成長と家族をテーマにした物語が好きな人
大賞作家の五十嵐美怜さんと村上雅郁さんの表彰式を開催
物語だけでなく、装丁や装画も魅力的な作品ぞろいの「第1回 未来屋アオハル文学賞」。受賞作を含む上位入選作は、8月31日(日)まで、全国の未来屋書店およびアシーネ店舗にて「第1回 未来屋アオハル文学賞フェア」として展開されています。
また、大賞作家の五十嵐美怜さんと村上雅郁さんを招いた表彰式は、2025年8月6日(水)に神保町出版クラブホールにて開催されます。
まだ触れていない作品があったらこの機会に手に取って、みずみずしい青春の1ページを味わってみてください。
「第1回未来屋アオハル文学賞」大賞受賞作品『15歳の昆虫図鑑』五十嵐美怜

【書店でもお買い求めいただけます!】
受賞作を含む上位入選作は、8月31日(日)まで、全国の未来屋書店およびアシーネ店舗にて「第1回 未来屋アオハル文学賞フェア」として展開されています。