
ぼっち、不登校、同調圧力…10代が抱える悩みに向き合う小説たち 「未来屋アオハル文学賞」で『15歳の昆虫図鑑』が大賞受賞!
講談社作品が受賞10作品中4作品入賞! 10代の中高生に向けた新しい文学賞の受賞10作品を紹介
2025.08.02
大賞も含めた「第1回未来屋アオハル文学賞」の受賞作は以下の通りです。

実石沙枝子『17歳のサリーダ』いじめから逃げて新しい場所で生きていく少女のしなやかな強さを描いた注目作

〈あらすじ〉
新菜は親友と自分のいじめを放置した学校をやめた。暇を持て余す彼女はある日、プロのフラメンコダンサー玲子とカンタオール(歌い手)のジョージと出会う。二人の誘いでフラメンコを始めた新菜。玲子の優しさとジョージの歌に触れながら、止まっていた新菜の17歳は再び時を刻み始める……。
〈注目ポイント〉
「いじめ問題で高校中退」という言葉にドキリとしますが、主人公の新菜が新しい人と出会い、新しい居場所を見つけて前進していく姿に、大人も勇気づけられます。特に、新菜を取り巻く大人たちの励ましの言葉が素敵!
実石沙枝子さんは、本作のほかに『物語を継ぐ者は』(実石沙枝子、1,870円/祥伝社)でも受賞しており、中高生の心に響くテーマと語り口で注目を集めている作家さん。『17歳のサリーダ』は「フラメンコの描写がすばらしい」と、各レビューサイトで称賛されています。それもそのはず、実石さん自身が10代のころにフラメンコを踊っていた経験があり、「いつか小説に書きたい」と思っていたそう。
装画は、Instagramのフォロワー数13万人超えの人気イラストレーターのONOCOさん。装幀は、絵本から教科書にいたるまで幅広くブックデザインを手がけている装丁事務所「アルビレオ」。カバー下の表紙もオシャレで、手元におきたくなるかわいさも魅力のひとつです。
〈こんな人におすすめ〉
・いじめや孤立に悩んだ経験がある人
・フラメンコに興味がある人
・人生の転機を探している人
『17歳のサリーダ』が受験問題に出る!? 中学受験塾の講師が注目!
佐藤いつ子『透明なルール』本音を隠して「1軍」グループに居続ける意味は? 10代のリアルな生きづらさに寄りそう物語

〈あらすじ〉
平凡な中学生・優希は、クラス替えでたまたま「1軍」のグループに入れたものの、本当の自分を隠して生きている。成績が悪いフリをするし、オタクなところは絶対にバレたくない。クラスメイトの投稿に「いいね」をつけるかどうかも悩む。そして家でも、ひとり親の父に生理用品を買ってと言えずにいて……。
「周りからどう思われるか」を気にするあまり、生きづらさを感じる優希が、不登校ぎみの転校生・愛やマイペースなクラス委員・誠との心の交流を通じて、自分を縛る〈透明なルール〉に気づき、立ち向かっていく。
〈注目ポイント〉
「同調圧力」とは、まわりと同じ行動や考えをするように、無意識のうちに感じる「空気」や「プレッシャー」のことです。
「みんながそうしてるから、自分も合わせなきゃ……」という気持ちが強くて、自分自身の意見や考えに自信が持てない。そんな中高生のリアルな心情がきちんと言葉にされていると、多くの10代の読者から支持されています。
ブックデザインは、『17歳のサリーダ』と同じ装丁事務所「アルビレオ」。イラストは、日常のふとした瞬間や人間関係をテーマに、柔らかく淡い色調の表現が得意な、イラストレーター・グラフィックデザイナーの「赤」さんが担当しています。
〈こんな人におすすめ〉
・みんなに合わせるのがつらい人
・SNSで「いいね」や「既読」にモヤモヤする人
・今の子どもたちがどんなことに悩んでいるのか知りたい人
・人に合わせすぎて、自分を見失っている人
・何が「自分らしさ」なのかわからない人
鯨井あめ『沙を噛め、肺魚』夢を追うか安定を取るか、Z世代に“生き方”を問うディストピア長編

〈あらすじ〉
舞台は、沙に覆われてしまった世界。人々は何よりも安定を目指すようになっていた。安定した仕事で稼いで、機械で娯楽を享受して、どこに遠出することもなく、安全で、快適な、この街で、ささやかな幸せが至上。
それでも音楽が好きな少女・ロピは、沙に埋もれずに残った部分「第9オアシス」で、父親と二人で暮らしている。親友のエーナや周りの大人に反対されながら、自分の音楽を追い求める。
特にやりたいこともない少年・ルウシュは、母と同じ気象予報士になるため日々勉強していた。いっぽうで好きなことに一生懸命な友人に劣等感は強まり、夢中になれることを探しはじめ……。
〈注目ポイント〉
本作は2部構成になっていて、前半は夢があるのに才能に恵まれず必死にもがくロピの物語、後半は詩の才能があるのに特にやりたいことがないために流されて生きているルウシュの物語になっています。夢がある者とない者、才能がない者とある者を対比しながら、それぞれの葛藤と心の成長が綴られています。
沙だけが支配する世界で、音楽や詩、演劇という“人の手から生まれる営み”を捨てきれない若者たちの姿が美しく、センシティブに描かれており、夢と現実の間で葛藤する人に刺さる一作。
幻想的なイラストは、『ちぎれた鎖と光の切れ端』(著:荒木あかね、講談社)や『数学の女王』(著:伏尾美紀、講談社)などの装画も手がけている、風海さん。写真やカセットテープなど、物語のモチーフとなるモノがちりばめられている「芸細」なところも魅力です。
〈こんな人におすすめ〉
・自分の“やりたいこと”や進路に悩んでいる人
・AIや安定志向が進む現代社会に疑問を持つ人
・ディストピアSFでも、内面的な葛藤が主題の物語を読みたい人