「インプットが大事」東海オンエア虫眼鏡×『窓ぎわのトットちゃん』監督・八鍬新之介 クリエイター活動を続ける秘訣

映画『窓ぎわのトットちゃん』公開記念スペシャル対談! 映画監督/八鍬新之介さん × 動画クリエイター/虫眼鏡さん【東海オンエア】 #3

小川 聖子

映画監督/八鍬新之介さん × 動画クリエイター/虫眼鏡さん【東海オンエア】
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現在大ヒット公開中の映画『窓ぎわのトットちゃん』を手がけた映画監督の八鍬(やくわ)新之介さんと、小学校教諭の経験を持ち、読書家としても知られる大人気動画クリエイター・虫眼鏡さんとのスペシャル対談。

第1回では原作との出会いや人生を変えたひと言について、第2回では子ども時代と個性の伸ばし方についてお聞きしました。対談のラストとなる第3回では、ともに映像に関わる仕事をする者の同士の苦労や、おふたりが子ども時代に読んだ思い出の本について伺いました。

YouTuberは、毎日何かが「減っていく」仕事(虫眼鏡さん)

──広い意味ではおふたりとも動画のコンテンツを作るお仕事に就いていらっしゃいますが、映画監督と動画クリエイターでは、その中身はだいぶ異なるかと思います。お互いこの機会に聞いてみたいことなどはありますか。

虫眼鏡さん:
動画クリエイターと映画監督は、「動画を作る」という意味で重なる部分はありますが、まったく違うベクトルのものだと思っています。

それこそ、映画『窓ぎわのトットちゃん』は、構想から公開まで7年ということでしたよね。一方、YouTubeの世界は「作ってすぐ出す」を繰り返すような世界。だから、僕からしたら動画クリエイターって、長い時間をかけて作り上げる映画監督のような方からすると、理解しづらいのではないかと思っていて……。

八鍬監督:ええっ!? いえいえいえ、全然そんなことありません!

虫眼鏡さん:本当ですか? それならよかったですが(笑)。

八鍬監督:先ほど、写真撮影の際にも少しお話させていただいていたのですが、僕が動画クリエイターである虫眼鏡さんに聞いてみたかったのは、「動画制作以外の時間をどんなことに使っているのか」ということですね。

自分は映像コンテンツを作っていないときも、ほとんど映画を観て過ごしているのですが、さっき虫眼鏡さんは映画はあまりご覧にならないとおっしゃっていて……。

虫眼鏡さん:そうなんです、映画はほとんど観ないので、『窓ぎわのトットちゃん』は久しぶりに観た映画でした。ただ、「インプット」はめちゃくちゃ大事だとは思っています。日々、動画を制作してそれをすぐ出す、という作業を繰り返していると、確実に毎日何かが「減っている」という実感はすごくあるんです。

それは良いものをアウトプットしたときだけじゃなくて、良くないものをアウトプットしてもやっぱり「減る」んです。だから、ものすごくたくさんインプットしなきゃ、毎日たくさん取り入れなきゃ、とは常々思っています。

八鍬監督:良いものを吸収しなきゃ! という感じですか?

虫眼鏡さん:それがもう、良いものばかりじゃなくて、例えばテレビを見ていて、「この番組マジでつまんないな」ってこともヒントになったりはするんです。だから本当になんでもよくはあるんですけど、とにかく食べる、ずっと何かを食べ続けないと枯れる、という状態で……燃費はめちゃくちゃ悪いんですよね。

八鍬監督:お聞きした感じだと、僕がテレビの『ドラえもん』の監督をやっていた時に近いかもしれないです。常に全方位的にアンテナを張るんですよね。ネタ出しの会議などもありますか?

虫眼鏡さん:あります。僕たちは2週間に一回「ネタ会議」をしているのですが、アイデアを出すために、家のまわりをぐるぐる歩いてみたりして。ただなんかもう、何度も同じところを通って、同じ看板を見たりしていると、見飽きてしまって……。行き詰まりを感じることもあります。だから、今これがベストという方法を見つけているとは言えないかもしれないです。

八鍬監督:やっぱりものすごく大変なんですね。

自分で作った映像も毎回、見るたびに受ける印象が変わる(八鍬監督)

▲映画『窓ぎわのトットちゃん』の制作には7年の歳月をかけた(©黒柳徹子/2023 映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会)

虫眼鏡さん:監督の「インプット」はいかがですか。

八鍬監督:僕の場合は、作品制作に入るとしばらくの間、かかりきりになるんです。「トットちゃん」では、数年かけて80年前のことを調べて……という毎日だったのですが、その期間は他のことを全く吸収できていない、と思うことはありました。

最近のことを極端に知らなかったり、科学的なことや経済にも疎くなってしまったり……。なるべく気をつけてはいるのですが、普通の人よりものを知らないということが起こってしまうので、その点はよくないなとは感じます。

虫眼鏡さんのように、毎日毎日、いろいろなことをインプットされている方は、その量が多いからこそ、出来事を多角的に捉えられるようになったり、蓄積が大きいからこその「世界の見え方」みたいなものがきっとあるんだろうなと思います。それは素晴らしいことだし、正直羨ましいとも思いますね。

虫眼鏡さん:今、監督が嬉しいことを言ってくださいましたが、僕たちは本当に器用貧乏じゃないけど、いろんなことをちょっとずつ体験している、その体験の数は多いのですが、一方ですべてが半端で、一人前じゃないという自覚もあって。だからこそ、「これに人生をかけました」と、ひとつのことに集中して取り組んでいる方を見ると憧れますね。

それで僕のほうが監督に聞いてみたいと思うのは、例えば『窓ぎわのトットちゃん』のような作品を7年かけて作っているある日、ふと後ろを振り返って「これ、本当に面白いのかな?」って、自分で急に不安に思っちゃうことなんてないですか?

八鍬監督:あります、あります! 全然ありますし、最後に映画が完成する頃には自分ではもう何もわからなくなっています(笑)。客観的に見られないので。

虫眼鏡さん:あ〜、そういうことがあるんですね。

八鍬監督:はい。自分で作った映像も毎回、見るたびに受ける印象が変わって……。「ここ間延びしてるな」と感じる回もあれば、「いや、そうでもないか」と思う回もあって。それでだんだん、わかんなくなっちゃう(笑)。だから、最後のほうは皆さんの反応を見ながら安心したり、不安になったり。

©黒柳徹子/2023 映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会

八鍬監督:さらに、映画は完成に近づくにつれてどんどん僕の手を離れていってしまうんです。それに反比例するように世間では注目が高まっていって……プロモーションなどがありますからね。だから、(公開直前の)今は、実は自分と自分の作品が一番遠い状態なのかな、と思ったりしますね。

虫眼鏡さん:監督ならではの感覚ですね。

八鍬監督:これは、監督という仕事をされている方はみんなそうだと思います。でも、動画クリエイターさんも連日のように動画を出して、その反応を感じて……時間の感覚は少し違うかもしれませんが、「ずっと仕事に追われている」っていう点ではお互い同じかなと思いました。

虫眼鏡さん:それは確かに(笑)。そうですね。

「何かを学ばなきゃ!」と思わず 「ただ楽しむ」読書もいいのかも(虫眼鏡さん)

──最後はぜひ、おふたりが子どもの頃に好きだった本についてお伺いしたいです。

●八鍬監督
『はてしない物語』
(ミヒャエル・エンデ:著、上田真而子 佐藤真理子:訳、岩波書店)

『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ:著、上田真而子 佐藤真理子:訳、岩波書店)

八鍬監督:子どもの頃好きだった本といえば『はてしない物語』です。映画にもなっていて、もしかしたら僕が好きになったきっかけも映画だったのかもしれないのですが、実は映画化されているのは前半部分だけなんです。本のほうはとにかくずっとワクワクして、母親にも何度も「読んで」と、頼んだ記憶があります。

この作品は、実はストーリーが「入子構造」になっていて、途中から読んでいる人自身が物語に入り込んでいくような感覚になれるのですが、そのあたりもスリリングで。本当に面白いし大好きなので、いつか現代の日本にアップデートして、アニメーション化できたら面白いな、なんて思っています。

●虫眼鏡さん
「江戸川乱歩」シリーズ

『少年探偵団』(江戸川乱歩:著、庭:絵 講談社青い鳥文庫)

虫眼鏡さん:読書体験のスタートは江戸川乱歩からでした。大人になった今は、本を読んだり映画を見たりするたび、「何か学ばなきゃ」とか、「この作品で、自分はこう成長したぞ」みたいなことを言えるものがないと、満足できない気がしてしまっているのですが……実は僕が今、あまり映画なんかを見られない理由もそれなんですけど……でも、昔はそうじゃなかったなって。

「ただ楽しいから」「面白いから」という理由で読んでいたのが「江戸川乱歩」シリーズだったことを思い出しました。「学ぼう」と気張ることなく、「楽しい」を追求する読書も大事なことなのかもしれません。

八鍬監督:虫眼鏡さん、今日はありがとうございました。子どもと一緒に、ぜひYouTubeチャンネルも見させていただきます!

虫眼鏡さん:やめてください(笑)

▲映画のストーリーブックを手にした八鍬監督と、原作『窓ぎわのトットちゃん』を手にした虫眼鏡さん

【映画『窓ぎわのトットちゃん』を手がけた映画監督の八鍬新之介さんと、小学校教諭の経験を持ち、読書家としても知られる大人気動画クリエイター・虫眼鏡さんとの対談は全3回。『窓ぎわのトットちゃん』との出会いについてお聞きした第1回、お二人の子ども時代と、子どもの個性の伸ばし方についてお聞きした第2回に続き、最後の第3回ではクリエイターとしてのご活動についてお伺いしました。】

Profile

八鍬新之介(やくわしんのすけ)映画監督:1981年生まれ。北海道出身。2005年シンエイ動画に入社し、テレビアニメ『ドラえもん』の制作進行、絵コンテ、演出などに携わる。2014年『新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜』で劇場監督デビュー。近年の監督作品に、『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』、『映画ドラえもん のび太の月面探査記』ほか。

虫眼鏡(むしめがね)【東海オンエア】動画クリエイター:1992年9月29日生まれ。愛知県出身。愛知県岡崎市を拠点に活動する6人組動画クリエイター「東海オンエア」のメンバー。動画内の概要欄をまとめた著書「東海オンエアの動画が6.4倍楽しくなる本」を2018年に出版し、その後同シリーズを立て続けに出版。東海ラジオでのレギュラー番組「東海オンエアラジオ」ではゆめまると共にメインパーソナリティを務めている他、「東海オンエア虫眼鏡・島﨑信⻑ 声YouラジオZ」のレギュラー出演など積極的にラジオ活動も行っている。

取材・文/小川聖子
撮影/水野昭子

© 黒柳徹子/2023 映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会

映画『窓ぎわのトットちゃん』
全国東宝系にて公開中


出 演:大野りりあな 小栗旬 杏 滝沢カレン / 役所広司 他
監督・脚本:八鍬新之介
共同脚本 :鈴木洋介
キャラクターデザイン:金子志津枝
制 作:シンエイ動画
原 作:「窓ぎわのトットちゃん」(黒柳徹子 著/講談社 刊)

<新しい学校の門をくぐる前に、トットちゃんのママが、なぜ不安なのかを説明すると、それは、トットちゃんが、小学一年生なのにかかわらず、すでに学校を退学になったからだった。一年生で!!>
女優・ユニセフ親善大使である黒柳徹子さんが自分自身の小学生時代をえがいた『窓ぎわのトットちゃん』。徹子さんが子ども時代に出会った、小林宗作先生とトモエ学園での思い出をいきいきと描いた本作は、1981年3月に刊行され、たちまちベストセラーとなりました。
現在までの累計発行部数は日本国内で800万部、全世界で2510部を突破。20以上の言語で翻訳もされ、日本だけでなく世界中の人々の心を捉え、時代も国境も超えたロングセラーとして、今もなお世代を超えて愛され続けています。
小林宗作先生が作ったトモエ学園のユニークな教育と、そこに学ぶ子どもたちの姿を描いた本書は、「こんな学校に通いたい!」「こんな先生と出会いたい!」と、令和のいまも人々のあこがれの気持ちをかきたてます。

映画 窓ぎわのトットちゃん ストーリーブック(黒柳徹子/原作、 八鍬新之介/監督・脚本、鈴木洋介/共同脚本)

2023年12月8日公開のアニメ映画「窓ぎわのトットちゃん」のストーリーブック。読みやすい文章と約160点のアニメ絵で、映画の内容をたどることができます。すべての漢字にふりがながついていて小学校低学年からひとり読みできるのはもちろん、読み聞かせにも向き、親子で楽しめる構成です。美しい絵を生かしたブックデザインは、映画を見たあとも保存しておきたくなるクオリティ!
<すべての漢字にふりがなつき>

東海オンエアの動画が6.4倍楽しくなる本・極 虫眼鏡の放送部エディション

いまや全世代に人気のカリスマ動画クリエイターグループ「東海オンエア」。活動10周年を迎え、700万人に迫る勢いのトップクリエイターの頭脳として活躍する虫眼鏡氏。チャンネル登録者70万人を超える虫眼鏡氏の個人チャンネル「虫眼鏡の放送部」に寄せられた視聴者からのお便りとその回答をまとめたファン待望の1冊。
東海オンエア活動10周年を迎えた心境を語る書き下ろしエッセイも掲載!

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おがわ せいこ

小川 聖子

Seiko Ogawa
ライター

東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。

東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。