行方のわからない幼なじみ
『おとうさんのポストカード』のなかで、このカードを受け取ったヘンリー少年は、「ヴェルナーの一家も亡命してきたのではないか」と推測する。
「シャルンホルスト」というのは、当時ドイツ海軍が誇った戦艦の名前だ。「ヴェルナーはその船をどこで見たっていうんだろう。もしかしたらイギリスにわたる、フェリーの上からだったのかもしれないな」と推測する。でもそれ以上のことはわかりようがない。その後にこういう描写が続く。
ぼくはポストカードを何度も見て、それから庭の木によじのぼった。
「モリスおじさん、プリマスってどっち?」
すると、おじさんは笑って、教えてくれた。
「ずっと南だよ、ブリストル海峡を越えた半島のむこう。でも、さすがにここからじゃ見えないよ」
ぼくの住むスウォンジーは港町だ。近所の家の隙間からむこうに灰色の海が見えた。
ヴェルナーにもう会えないのかなあ……
そう思うと、ちょっと悲しかった。
──『おとうさんのポストカード』(那須田淳作/中村真人監修)より引用
モリスおじさんは、ウィニーおばさんと共に、ヘンリーさんのイギリスでの育ての親となった人だ。この部分の描写は物語の作者である那須田淳さんの創作だが、幼なじみへ思いを馳せるヘンリーさんの気持ちに私はぐっとくるものがあった。
そして、こう思わずにはいられなかった。ヴェルナーとは誰だろう? その後どういう人生をおくったのか、そもそも彼はいまも健在なのだろうか、と。
幼なじみのいまを知る、小さな手がかり
インターネットで検索してみると、意外にもヴェルナー・ザリンガーさんの情報はすぐに見つかった。ベルリンのユダヤ文化センターのウェブサイトに、アメリカに移住したというヴェルナーさんの簡単な経歴と短い動画が公開されていたのだ。ヴェルナーは生きている! 少なくともこの情報が公開された昨年の時点では……。
すぐにエルサレムに住む92歳のヘンリーさんにそのことをメールで伝えると、「AMAZING!!」という興奮気味の一言の後に、こう綴られていた。
「なんと興味深い、エキサイティングな発見でしょう。生年が一致するので、あのヴェルナーに間違いありません。いまも存命ならば、ぜひ連絡を取りたいです」
最初の情報源であるベルリンのユダヤ文化センターに問い合わせれば、何かわかるかもしれない。そんなことを考えていたら、2日後、ヘンリーさんからまた連絡があった。
アリゾナからのヴェルナーに関する返信を受け取り、あなたに転送しました。とても興味深い内容です。インターネットの情報によると、彼は両親と共にドイツからイギリスへ移り、その後アメリカへ渡ったため、プリマスが関係しているようです。ただ、彼らがドイツからどう脱出したのかはまったく分かりません。




































