第二次世界大戦直前、ドイツでのユダヤ人への迫害が過激化するなか、「いのちの列車」と呼ばれる動きが1万人のユダヤ人の子どもを救いました。戦後80年の今年2025年、この「いのちの列車」によりホロコーストを生き延びたユダヤ人の少年・ヘンリーとその父親との実話をもとに描かれた物語『おとうさんのポストカード』が刊行され、父の子への深い愛情や平和の尊さを現代の私たちに伝えてくれています。
作中で主人公のヘンリーさんは、父親や親戚と何枚ものポストカードを送り合います。そのなかで、唯一同世代の友達から届いたものが、ヘンリーさんの幼なじみ・ヴェルナーさんが送ってくれた1枚です。彼も同じくユダヤ人でしたが、戦後の彼の行方については詳しくは描かれていません。
今回本書の監修者であるドイツ在住のジャーナリスト・中村真人さんから驚きのメールが届きました。それは、行方がわからなかったヴェルナーさんが見つかったかもしれない! という知らせでした。全2回でお届けする本記事の第1回(前編)では、87年ぶりのヘンリーさんとヴェルナーさんの運命の再会について寄稿いただきました。
前編/全2回
後編はこちらから
※11月11日よりリンク有効
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たった1枚の幼なじみからのポストカード
この5月下旬、『おとうさんのポストカード』(那須田淳作/中村真人監修)の最終作業をしながら、私はあるポストカードに目が留まった。
この本で紹介されているほとんどのポストカードが、主人公であるヘンリー・フォーナーさんのおとうさんや親戚からヘンリーさんに宛てられた中で、以下のポストカードは、唯一同世代の友だちから送られたものだ。文面は短いが、覚えたばかりのアルファベットで一生懸命書いた様子が伝わってくる。
やあハイニ、元気?
ぼくはあのシャルンホルストを見たぜ。
じゃあね。
きみの友だちのヴェルナーより
このポストカードの消印は1939年2月5日、イギリス南西部の港湾都市プリマスで押されている。ヴェルナー・ザリンガーという少年から、ドイツ・ベルリンのヘンリーさんの住所に宛てられた。
しかし、ヘンリーさんはそのわずか数日前、「いのちの列車」と呼ばれるキンダートランスポートでひとりイギリスに渡った。そのためベルリンに残ったおとうさんのマックスがイギリスに転送したことで、ヘンリーさんに届けられた(ちなみに、ヘンリーさんの元の名はハインツ・リヒトヴィッツで、「ハイニ」というのはそのニックネーム)。





































