
いつのまにかハマってる!〔 冒険ミステリー小説〕「カトリ」シリーズ 3作品の最後まで目が離せない面白さのヒミツを〔徹底解剖〕
現役大学院生が語るシリーズ3作品それぞれの魅力
2025.06.14
ライター:あわい ゆき
「人が消える本」の謎を解く、何が本当で、何が偽物なのか『カトリと霧の国の遺産』
つづく第2巻『カトリと霧の国の遺産』は、前作から1年が過ぎて1886年になっています。「眠り病事件」を経て「まだ知られていないことを自分の手で見つける」よろこびを知ったカトリは、エディンバラ博物館で研究助手として働くようになっていました。

事件を引き起こすのは、博物館に寄贈された「ネブラの年代記」と呼ばれる書物です。千年以上前に存在していたとされる謎の街「ネブラ」の歴史を記録した本でしたが、いちど展示をすると、見にきたお客さんがつぎつぎと行方不明に! そのうちカトリまでもがすがたを消して、ネブラの街に迷い込んでしまうのでした。
ネブラにいるカトリと、現実世界からカトリを救おうとするリズの、距離をへだてた共闘がなによりもアツい……! そして元の世界に戻るために「ネブラの年代記」の秘密を解きあかしていくミステリーとしても、読み応えたっぷりなのです。
その際、「ネブラの年代期」の謎を解き明かすヒントにもなるのが、偽物の歴史書を意味する「偽書」という言葉。ネブラの街はほんとうに存在するのか……偽書かもしれないとするカトリの疑いが、物語を進めていきます。
1巻はみんな忘れていた歴史を知ることで、「ふしぎ」な世界に足を踏み入れる物語でした。しかし2巻では、みんな忘れているからこそ、歴史を好きにねつ造もできるのだと危うさを示しているのです。どんな情報や物事も、それが絶対に正しいとは限りません。
一方で、「偽書」はフィクションとして受け止めれば、現実にない「ふしぎ」な世界を私たちに見せてくれます。ネブラの街に迷いこんだカトリが経験する魅力的な「ふしぎ」の数々と、わからないことだらけの現実と向き合うカトリの成長からも目が離せない一冊です。
「ふしぎ」な世界の真実に、二人の友情が試される『カトリと夜の底の主』
そして第3巻にして〈エディンバラ編〉最終章でもある『カトリと夜の底の主』は、これまで二人が経験してきた「ふしぎ」な世界の真実が明かされます。

1巻、2巻と読んでいれば衝撃を受けるであろう展開の数々もさることながら、二人の関係性の変化に冒頭からおどろきを隠せません。なぜなら1887年になって、あれほど息ぴったりだったカトリとリズは疎遠になってしまっていたのですから。
二人が疎遠になった背景には、リズのとある「隠しごと」がかかわっていました。しかしリズは隠し事を明かさないまま、久しぶりにカトリと連絡をとります。そして二人は「眠り病事件」「ネブラの年代記事件」の両方にかかわっていた黒幕の正体を探るべく、エディンバラから馬車で一時間程度の距離にある、マッセルバラに向かうのでした。
また、マッセルバラは、ちょうどカトリが気になっていた「昔話」に登場する地名でもありました。異なる二つの謎が意外なところで結びつき、真相に近づいていく展開は、過去作同様にワクワクさせられます。一方で、カトリはエディンバラを離れてロンドンの女学校に来ないかと校長であるフランソワ・バスから誘われます。
二人のすれ違いは次第に「別れ」の予感として漂うようにもなっていくのです。はやく真実を知りたいのに、真実に辿りついたら二人は離ればなれになってしまうのではないか……? すごく読みたいのに読むのがこわい! そう思いながらも最後には読んでしまう、あらがえない魅力がこの3巻には詰まっています。
そして真実に辿りついたとき、腹をわって向かい合う二人の会話は私たちにも問いかけます。壮大な歴史すら忘れ去られていく現実を前に、「友情」を忘れないままでいることはできるか、と。この記事を読んでくださっている、あなたはどうでしょう?
親友と別々の道を歩むことになっても、友情を信じ続けることはできますか?
最後に二人が選んだ「生き方」は──?
カトリとリズ。運命的な出会いを果たしながら、ともに成長していった親友同士は最後にどんな生き方を選ぶのか──二人が育んだ「友情」を、ぜひシリーズを読んで見届けてみてください。そして見届けたとき、カトリとリズが経験したエディンバラの「ふしぎ」は実際に起きていたのだろうと、身近に感じられるようにも、なっているはずです。
あわい ゆき
2000年生まれ。現在は都内の大学院で芸術学を専攻。国内最新の純文学、大衆文学、SF、ミステリ、ライトノベル、児童小説を中心に幅広く読む。書評、レビュー記事、エッセイ、インタビューおよび対談のインタビュアーと構成など。
2000年生まれ。現在は都内の大学院で芸術学を専攻。国内最新の純文学、大衆文学、SF、ミステリ、ライトノベル、児童小説を中心に幅広く読む。書評、レビュー記事、エッセイ、インタビューおよび対談のインタビュアーと構成など。