「イヤイヤ期」の癇癪に大切なのは「思いを受けとめること」「行動の枠を示すこと」発達心理学者が解説

#3 言葉で表現できるようになると「イヤ」は減る

坂上先生:例えば「2択で提案してみる」のもひとつの手です。服を着たり、靴を履いたりするときに「イヤ!」となったときは、「これとこれ、どっちにする?」と2択にして聞いてみましょう。一方をより魅力的なものにすると、子どもが選びやすくなります。

「子どもの言葉をそのまま返してみる」のも良いと思います。「アイス食べたい」と言う子どもに「うん、アイスが食べたいんだね」という具合です。子どもは自分の気持ちをわかってもらえたと実感できます。そのうえで、「今はないから、あとで買いに行こうね」など、別の提案をして折りあいをつけるといいでしょう。

〈『子どものこころの発達がよくわかる本』より〉
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──それでも、お互いに「もうイヤ!」が爆発してしまうときもあると思いますが、そのようなときはどうしたらよいでしょうか。

坂上先生:この時期は親もストレスがたまりがちですよね。折りあいがつかず、子どもと真正面からぶつかることもあるでしょう。ぶつかったときは仲直りについて学ぶチャンスです。親の思いも伝えてみましょう。時には子どもと離れて自分をいたわる時間をもつことも、この時期を乗り切るうえで大切なことです。

──なるほど。別のことを学ぶチャンス、ととらえればいいわけですね! なんだか「イヤイヤ期」をプラスにとらえられそうな感じがしてきました。最後に、「こころとからだの発達」について、お伝えになりたいことがあれば、お願いします。

坂上先生:大人は、子どもによかれと思い、小さいうちからいろいろな習いごとをさせたり、思い出や経験づくりのために旅行やイベントの予定を詰め込んだりしがちです。しかし、そのような生活が、子どもには負担になっていることもあります。

私たち大人と子どもたちの時間の流れは違います。「昨日はこれが楽しかったから、今日もこれをしよう」「今日はこれが楽しかった、だから今度もこれをしたいな」──このような実感がともなうときに初めて、子どもが日々経験していることが、こころや脳の栄養分になります。「今日」の楽しさとそれを味わう余白が日々のなかにあることで、子どもは自分の人生を生きている、という実感をもつことができます。

大きくなって思い出に残るのは、案外、お父さんとお風呂であそんだことや、お母さんと散歩したこと、家族で笑ってテレビを見たことであったりします。こうした日々の何気ない時間が、子どもにとってはかけがえのないものなのです。

──子どもの「今」を大切にする、ということですね。親御さんにもあまり気負わず、ゆっくりする時間を大切にしてほしいものですね。先生、ありがとうございました。

今回は、言葉の発達と同時期に起こる「イヤイヤ期」について、坂上裕子先生にうかがいました。また、3回の連載をとおして、子どものこころの発達には、子ども特有の時間の流れの中で、楽しいという実感を伴う経験をし、それを味わうことが大切であり、保護者は先へ先へと発達を急がず、子どもの「今」を大切にすることが大事だということを教えていただきました。

■今回ご紹介の書籍はこちら
『子どものこころの発達がよくわかる本』
発達はさまざまな事柄が関係しあい、枝葉のように広がって進んでいくものです。たくさんの枝葉を支える太い幹と根っこが育つには、長い時間が必要です。子どもも親も試行錯誤して、失敗と修復を繰り返しながら、育っていきます。

本書では、保護者や保育者向けに、就学前までの子どもの発達や対応の具体例をわかりやすく解説しています。

『子どものこころの発達がよくわかる本』青山学院大学教育人間科学部心理学科教授・坂上裕子/監修 講談社
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さかがみ ひろこ

坂上 裕子

青山学院大学教育人間科学部心理学科教授

青山学院大学 教育人間科学部 心理学科教授。専門は「生涯発達心理学」と「臨床発達心理学」。主な研究テーマは、「乳・幼児期における自己ならびに自己理解の発達」「親子関係の変化と親としての発達」「子育て支援」「乳幼児期の発達や子育ての時代的変化」について。著書に『問いからはじめる 発達心理学〔改訂版〕: 生涯にわたる育ちの科学』(有斐閣)、『新 乳幼児発達心理学(第2版)子どもがわかる 好きになる』(福村出版・共著)など。

青山学院大学 教育人間科学部 心理学科教授。専門は「生涯発達心理学」と「臨床発達心理学」。主な研究テーマは、「乳・幼児期における自己ならびに自己理解の発達」「親子関係の変化と親としての発達」「子育て支援」「乳幼児期の発達や子育ての時代的変化」について。著書に『問いからはじめる 発達心理学〔改訂版〕: 生涯にわたる育ちの科学』(有斐閣)、『新 乳幼児発達心理学(第2版)子どもがわかる 好きになる』(福村出版・共著)など。