「子どもの発達障害」必ず覚えてほしい「これだけは」 専門家が声を大にして伝えたいこと

[セミナーレポート]榊原洋一先生【もっと知りたい! 「子どもの発達障害」】#1

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

見分けることでグレーゾーンはなくなる

こちらの図をご覧ください。

「一般に思われているほど、グレーゾーンは広くありません」(榊原先生)  資料:榊原洋一先生作成

左が定型発達(健常)で右が発達障害です。真ん中のどっちつかずのところが「グレーゾーン」と呼ばれる範囲です。どちらかわからないから色がぼやっとしています。

例えば、走り回ったりする、指示を聞いていないことがある、といったことは子どもに共通した行動です。しかし、そこには程度の差があり、その程度の強弱が一般的に見られる行動なのか特殊なものなのかを見分ける判断基準になります。

親御さんや先生たちから情報をしっかり集めることができれば、一つひとつの行動について一般的に見られる行動なのか特殊なものなのかを見分ける判断ができます。

もし判断がつかない場合にはさらに親御さんや先生たちから正確な情報収集して突き詰めることで、ぼやっとしていたグレーゾーンも次第に白黒がはっきりしていきます。最終的には境目が1本の線になり、グレーゾーンはなくなるのです。

「お子さんはグレーゾーンにいる」という表現は、はっきり言ってしまえば、専門家が「私には診断できる能力がありません」と告白しているようなもの。専門家の怠慢だと言ってもいいでしょう。

あまりにも「グレーゾーン」という便利な言葉に頼る専門家が多いので、あえて強い言い方をさせていただきました。

「発達の凸凹」「発達障害もどき」新しい造語にも要注意

「グレーゾーン」は、専門家が判断がつかない、正確には努力が足りないために判断をつけられないという状況に、都合のいい名前を付けたために生まれた言葉です。

最近は、マスコミによる記事や専門家が書いた本の中にも、専門家が命名した同様の言葉がたくさん見受けられるようになってきました。これはとても心配な傾向です。

例えば、「発達の凸凹(でこぼこ)」。

この言葉をつかうお医者さんは、はっきり診断できないケースが多いのでしょう。“障害”という言葉を“凸凹”に置き換えていますが、そこには一体何の意味があるのか、私には理解できません。障害なのか? 健常なのか? 

そこをあいまいにしてしまうだけで、親御さんや当事者のお子さんに何のメリットもないように思います。

ネット上には発達障害に関するさまざまな情報が流れています。そのまま鵜吞みにして、一喜一憂しないことが大切です。  写真:アフロ

「発達障害もどき」という表現もマスコミによく取り上げられるようになってきました。

繰り返しになりますが、発達障害なのか、いくつかの症状は見られるが発達障害には該当しないのか、突き詰めれば判断できます。

なぜ“もどき”を付けてわかりにくくしてしまうのでしょうか。「糖尿病もどき」と言われても困ってしまうだけですよね。

がんという病気は細胞を採って生検すれば、がんであるのかないのかがはっきりします。はっきりしない中間の状態がもし存在するなら、それを“がんもどき”って言うのかもしれませんね(笑)

あいまいな言葉が有効な治療を遠ざけてしまう

冗談はさておき、発達障害かどうかを新しい言葉であいまいにする行為は、専門家の責任放棄であると申し上げておきたいです。

自閉症スペクトラム障害(ASD)にしても、注意欠陥多動性障害(ADHD)にしても、効果的な治療法が確立しています。当然、せっかくの有効な治療法も“発達障害もどき”のお子さんには講じることはできません。

発達障害に当てはまるはずのお子さんをどっちつかずの状態で放置してしまったら、そのような治療の機会から遠ざけてしまうことになるんです。

そして逆に、本来は発達障害に当てはまらないお子さんについては、親御さんや本人にずっといらぬ心配をさせ続けることになってしまいます。

“発達障害もどき”と判断して、そのお子さんにどのような対応をするつもりでしょうか。何もできません。なぜなら、結局のところ、“発達障害もどき”の正体は誰にもわかりませんから。名付け親でさえ定義できていないはずです。新しい言葉であいまいにしても、まったくいいことはないんですよ。

診断する中で典型的な3つの発達障害に当てはまりにくいグレーゾーン的なものが出現することは確かにあります。しかし、情報収集の努力を重ねることで、白黒を付けてグレーゾーンを消すことができます。これは医学、精神医学、心理学に携わる専門家の仕事、そして責任です。

みなさんには発達障害を正しく理解していただきたいからこそ、ちょっと辛口になってしまいました。どうか世の中の間違った情報や知識の足りない専門家の意見に惑わされることがなく、お子さんをサポートしてあげてほしいと願います。

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専門家であっても知識レベルや考え方にばらつきがある、という榊原先生の解説でした。冒頭に登場した、3つのポイントをしっかり把握して、保護者としては正確な知識を身につけたいものですね。

次回のレポート第2回では、視聴者の皆様から寄せられた質問をピックアップします。「どうなったら病院を受診すればよいか?」「療育は早く受けさせたほうがいいのか?」など、より具体的な相談に榊原先生が答えていきます。

#2に続く)

構成・文/渡辺 高

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さかきはら よういち

榊原 洋一

小児科医・お茶の水女子大学名誉教授

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。